会計の記帳をしようと思い、領収書や現金出納帳を見たが、何の支出かわからない。そのような支出を「使途不明金」と呼び、通常の経費とは税務上の取り扱いが異なる。今回は、使途不明金について解説する。
使途不明金とは?
使途不明金とは、使い道がわからない支出のことだ。支出先と支出額が明らかで、その使い道がわからないものが該当する。何を買ったのかわからない領収書などが、その典型だ。会社の業務に関係ある支出かどうか不明な支出も、使途不明金として扱われることがある。
使途不明金は、事業との関連が立証できないため損金として計上することが認められない。そのため、使途不明金は経費計上されなかったものとして課税されることになる。
使途不明金と使途秘匿金の違いは?
使途不明金に似たものに、「使途秘匿金」がある。使途秘匿金とは、法人の支出のうち相当の理由がなく、相手方の氏名などを帳簿書類に記載していないものを指す。相手方がわからないものや、支出の理由がまったく不明な支出に適用される。
使途秘匿金は、使途不明金がより不透明で悪質になったものと考えていいだろう(実務上は使途不明金と使途秘匿金の境界は曖昧である)。使途秘匿金と見なされる条件は3つあり、相当の理由なく「支出先の氏名又は名称」「住所又は所在地」「支出の理由」を帳簿に記載していない場合だ。使途秘匿金は金銭に限らず、貸付金や仮払金、資産の譲渡などにも適用されることがある。
使途不明金と使途秘匿金の境界は曖昧だが、その違いは「違法性の程度」と言われている。つまり、非難に値する程度の違いということだ。「支払った先と金額はわかるが、使い道がわからない」使途不明金と、「使った先も使い道もわからない」使途秘匿金では、後者のほうが脱税の可能性(違法性)が高いと判断されるのである。
法人税は会社の所得を基に計算されるので、所得が少ないほうが税金は少なくて済む。不明瞭な支出を経費として計上することを認めると、脱税を助長することになりかねないので、使途秘匿金という制度を作り、ペナルティーを設けているのだ。
使途秘匿金は、使途不明金と同じく経費にならないのはもちろんのこと、追加のペナルティーが用意されている。使途秘匿金は損金として認められないだけではなく、追加で計上額の40%分の税金を納付する必要がある。しかも、通常の法人税とは別に納付義務が発生するため、赤字の会社でも納付は免れない。
交際費が使途不明金となるケース
使途不明金の処置に関連して、交際費の問題に触れておきたい。交際費とは、業務上の取引先またはこれから取引をする相手に対して接待や供応、慰安や贈答、これらに類する行為のために支出する費用のことだ。
交際費は、営業を拡大すると増えてしまうものではあるが、私的な消費との境界が曖昧であることや冗費の節約の観点から、一定の上限額を設け、その額を超えた部分については、経費計上が認められない(損金不算入になる)ことになっている。
交際費は、接待をした店の領収書だけが保管されており、誰を接待したのかが不明確であることが多い。税務調査で指摘された際、どのような接待供応をしたのかを答えられればいいが、記憶が定かでなく、どこの誰に対して何のために使ったのかが明らかにならない場合は「使途不明金」となり、課税対象となってしまう。
交際費は、「飲食の年月日」「飲食等に参加した得意先、仕入先など事業に関係のある者等の氏名や名称、その関係」「飲食等に参加した者の人数」「その費用の金額並びに飲食店等の名称、所在地など」などの情報の記載し、保存する義務がある。これらの情報が明確になっていないと、損金算入ができなくなってしまうので注意したい。
交際費は、税務調査で調べられやすいため、交際費として計上しなくてもいいものまで交際費とすることは避けたい。具体的に、以下のものは交際費として処理する必要はないので、別の科目で処理をするのが望ましい。
・専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用(福利厚生費で処理)
・飲食その他これに類する行為のために要する費用の中で、支出する金額を飲食等に参加したものの数で割って計算した金額が5,000円以下の費用(専らその法人の役員もしくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものは除く)(会議費で処理)
・カレンダー、手帳、扇子、うちわなど、これらに類するものを贈与するために必要な費用(消耗品費や広告宣伝費で処理)
・会議に関連しての茶菓子、弁当など、これらに類する飲食物を供与するために必要な費用(会議費で処理)
・新聞や雑誌等の出版物、放送番組を編集するために行われる座談会やその他の記事の収集のために、又は放送のための取材に必要な費用
雑費が使途不明金となるケース
事業に関連する支出ではあるが、どの勘定科目とすべきかわからない場合に使われるのが「雑費」だ。雑費とは、どの費用にも当てはまらないものや、一時的な費用で金額に重要性がないため特に科目を決めずに処理をする際に使われる科目だ。
発生頻度が低く、臨時的で少額の支出にいちいち勘定科目を設定していては、決算書や会計帳簿が非常に読みにくくなってしまうため、雑費という勘定科目に集約して表示することになっているのだ。勘定科目がわからなくても経費として計上できる便利な科目だが、使用にあたってはリスクが伴う。
他の勘定科目の名称は、接待交際費や通信費、消耗品費など、支出の目的がわかるようになっているので、帳簿に詳細が記載されていなかったとしても、支出の内容を推測することができる。
一方で雑費は、その名称からは支出の目的がわからないので、帳簿に詳細が書かれていなければ、何のために支払ったものかがわからなくなってしまう。そのため、税務調査で指摘されると使途不明金と見なされて課税されかねない。
帳簿には支出の内容が記載されていたとしても、決算書や確定申告書には「雑費」の合計額しか記載されない。すると、税務署側は「雑費が多いので、調査をして確認してみないと雑費として妥当かどうか判断できない」と考え、税務調査が行われやすくなると言われている。
他の勘定科目に比べて雑費の金額の割合が明らかに高い場合は、「経費が不正に過大計上されているのではないか」と疑われて、調査が厳しくなることもあるのだ。
そのため、税理士などの専門家は雑費を使用することを嫌う。したがって雑費は、基本的には臨時的な出費や、毎年あるが年に1回の少額の経費のために使用するのが望ましい。
会計ソフトの勘定科目に当てはまるものがない場合は、どうすればいいのだろうか。実はどの会計ソフトでも、デフォルトで設定されている勘定科目以外に科目を追加することができる。
また、会社は決算書がわかりやすくなるように、法令や会計基準で定められている勘定科目以外に新たに勘定科目を設定することができる。雑費の金額が大きくなるようなら、新たな勘定科目を設定するといいだろう。
使途不明金の会計処理の仕方
使途不明金は使い道がわからないので、会計処理の仕方が問題になる。接待交際費や雑費、消耗品費、旅費交通費などで処理できる場合は、その費目で処理をすることになる。
どの科目に属するかさえわからない場合は、営業外費用の雑損失で処理することになるだろう。なお、「使途不明金」は税務上の名称なので、損益計算書に「使途不明金」と表示されることはない。他の科目に含めた上で、別表で使途不明金として管理することになる。
使途不明金の発生を防ぐために
使途不明金は、実際に支出が発生しているのにもかかわらず経費計上が認められず、課税される。本当に使途がわからない場合は仕方がないが、書類の保存ミスなどによって、本来は経費計上が認められるものも、税務調査において使途不明金と見なされてしまうことがある。では、使途不明金とされないようにするためには、どうしたらいいのだろうか。
まず、領収書の記載だけで完全でない場合は、領収書の裏などに法定の事項を記入しておくことだ。領収書をきちんと書いてくれない商店・飲食店は少なくない。日付や金額が記入されていないことがあるので、備忘のためにも書き留めておくべきだ。
領収書を改ざんしてはならないが、余白にメモを残すことは問題ない。また、領収書の紛失や帳簿の記録漏れのないよう、証憑書類の保存と記帳は適時適切に行う必要がある。できれば毎日、少なくとも月に1回は、会計帳簿と書類の整理を行うことが、不明事項を減らすことにつながるはずだ。
また、悪質な業者に遭遇し、現金取引などで領収書の発行を拒否されることがある。そのような取引は、裏帳簿でのバックマージンや賄賂、反社会的勢力への資金拠出などが考えられる。いずれにしても、違法行為に加担することになるだけでなく、税務調査で使途秘匿金と見なされかねない。「百害あって一利なし」なので、そのような会社とは取引を行わないようにしよう。(提供:THE OWNER)
文・内山瑛(公認会計士)