日本とシリコンバレーで計5社を立ち上げたシリアルアントレプレナー(連続起業家)の田所雅之氏が、2020年2月18日に著書『御社のイノベーションはなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学』を出版した。
連載記事第2回目の今回は、新著の中の最重要キーワードである「3階建て組織」の概要を伺った(聞き手:山岸裕一、編集構成:菅野陽平)※本インタビューは2020年2月に実施
※画像をクリックするとAmazonに飛びます
1階はPL、2階は新規事業、3階はイノベーション
―詳細は著書に譲るとして、「3階建ての組織」の概要をご説明いただけますか。
従来型組織は残念ながら、1階なんです。PL(損益)が主要命題で、できるだけ売上を上げて利益を減らす力学が働く。コストを減らして利益を最大化する発想です。
3階は中長期的な志向を持ち、今の市場に最適化するわけではなく10年後の市場に合わせていくイノベーションを司る階層。テクノロジーや外部環境が変わっていく状況に合わせていくために、3階を設けていく発想です。
もちろん、3階だけが存在しても収益源が無いので組織は死んでしまう。だから大事なことは、3階構造に分けることだと思っています。
1階はコアビジネスで、儲けること。トヨタなら車を売ることで、PLと貢献的利益が大事で、キャッシュ・カウ(収益源)になる場所です。
2階は新規事業を担う場所で、ミッションは勝つことです。キャッシュレスやAIなど、すでにどこかの企業がプロダクト・マーケットフィットしている場合が多く、ここで大事なのはマーケットシェアです。いかに儲かる寡占状態にするか。
楽天の三木谷さんが「一番儲かるのは三国志」だと言っています。マーケットシェア33%がもっとも儲かる。50%だと価格操作ができてしまい、公正取引委員会が入ってくるので儲かりません。なぜコンビニと通信キャリアがあれだけ儲かるかというと、国内シェアが3等分で33%だからなんです。
しかし、カレント(現在)・マーケットに視線が向いているため、やはりここだけでもダメです。大事なことは、ここで出た余剰を3階の兵站として置くことなんです。しかし、どの企業も1階に流してしまっているのが現状です。
それだけではすでに顕在化された市場のため、限界があります。だから3階が大事なんですね。『起業の科学』で述べているように、プロダクト・フューチャー・マーケットフィットさせたりインサイトを見つけたり、ゼロ→イチ、イチ→10を生む発想で打席に立つ回数を増やす。当然、それぞれの階でゴールが違うため、施策や設定の仕方は変わります。
私も大手企業で支援しているんですけど、評価軸が1階だったりするのでもっとも苦しんでいるのは3階です。
―PL脳のまま3階を評価してしまう、と。
そうです。今、売上4兆円ほどの会社の新規事業に携わっているんですが、プロジェクトが半分になっちゃったんですね。なぜなら1階の業績が悪いから。もともと、切り離していたから関係ないのに、1階側の事情で3階がなくなっちゃいました。要するに、それぞれを分離してないんです。
しかもプロジェクトメンバーが1階出身者なので、その思考をチェンジ・マネジメントできないまま。ワークショップはやりましたが、私のような外部の人間が大改革まではできない。
トヨタは3階部分を設けていますよね。自動運転のための実証実験の街を作る「コネクティッド・シティ」はまさに3階です。
中国ではすでにBYDやテンセントが、インフラをベースにして街を作っています。自動運転は基本的にインフラの整備が必要で、普通の信号機では普通の自動運転自動車は走らない。だから日本もそこをディインテグレートする必要があります。しかし、日本にはこれほど多くの自動車メーカーがあるのにできていない。