相続ではほかの税にはない特例や控除なども存在するため、相続税の計算が複雑になりがちだ。しかし、手順通り確認すればおおよその税額は把握できる。今回は相続税の計算方法や手順、税率の決まり方などについてお伝えする。相続が迫っている方はぜひ参考にしてほしい。
相続税の概要と税率
相続税は、相続または遺贈(死因贈与を含む)により故人(被相続人)の財産を取得した配偶者や子等(相続人等)に課される税金で、税額は取得した財産の価額をもとに定められる。
相続税の目的は「所得税の補完機能」と「富の集中抑制機能」を働かせることだ。「所得税の補完機能」によって、被相続人が生前に受けた税制上の特典や軽減等により、蓄積した財産を相続開始時点で清算する。
また、「富の集中抑制機能」によって、相続により相続人が得た資産の一部を税として徴収することで、相続しなかった者との間で財産保有状況の均衡を図る。
相続税の課税方式は、被相続人の遺産総額に応じて課税する「遺産課税方式」と、個々の相続人が取得した遺産額に応じて課税する「遺産取得課税方式」の2種類だ。
現行の相続税の算出では「法定相続分課税方式」が導入されている。遺産取得課税方式をベースに各相続人が取得した財産の合計を一旦法定相続分で分割したものと仮定する。それにもとづき算出した相続税の総額を財産の取得額に応じて按分する方式だ。
法定相続分で分割した金額に対する税率は10%から55%である。
相続税計算の4つのステップ
相続税の計算では4つのステップをふむ。それぞれのステップを知ることで相続税の計算が身近になるだろう。
ステップ1:課税価格の合計額の計算
まず、相続または遺贈における財産の取得者ごとに課税価格を計算する。その後、同一の被相続人から相続または遺贈により財産を取得した全員の課税価格を合計する。計算方法は下記のとおりだ。
各人の課税価格 = 本来の相続財産+みなし相続財産-非課税財産の価額+相続時精算課税適用財産-債務及び葬式費用+被相続人からの3年以内の贈与財産
本来の相続財産とは、被相続人が有していた財産のうち金銭に換算可能で経済的価値のあるもの全てをさす。
具体的には、預貯金・現金・土地・家屋・借地権・株式・貴金属・宝石・書画・骨とう・自動車・電話加入権・金銭債権などだ。
なお、未登記の土地建物や被相続人名義以外の家族名義・他人名義の預貯金など、被相続人に帰属する財産も含まれる。
みなし相続財産には、死亡保険金・死亡退職金のうち非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を超える金額が含まれる。各人のみなし相続財産は下記のとおり計算できる。
各人のみなし相続財産 = 非課税限度額×(相続人が取得した保険金の合計額/全ての相続人が取得した保険金の合計額)
また、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産と被相続人からの3年以内の贈与財産を、それぞれ贈与時の価額で課税価格に加算する。
これらの合計額から被相続人の債務・葬式費用のうち各人が相続・負担した額を差し引き、課税価格を計算する。複数人が財産を相続した場合には、課税価格を合計し「課税価格の合計額」を計算する。
なお、本来の相続財産のうち不動産については、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」を活用でき、要件にあてはまれば課税価格に算入する金額から一定割合を減額できる。
要件や減額割合等の概要は下記のとおりだ。
相続開始の直前における宅地等の利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額される割合 | |||
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 | 貸付事業以外の事業用の宅地等 | ① | 特定事業用宅地等に該当する宅地等 | 400㎡ | 80% | |
貸付事業用の宅地等 | 一定の法人に貸し付けられその法人の事業用(貸付事業を除く)の宅地等 | ② | 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 | 400㎡ | 80% | |
③ | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | |||
一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 | ④ | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | ||
被相続人等の貸付事業用の宅地等 | ⑤ | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | ||
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 | ⑥ | 特定居住用宅地等に該当する宅地等 | 330㎡ | 80% |
ステップ2:法定相続分に応じた取得金額の計算
取得金額を求めるには課税遺産総額から計算する。課税遺産総額は、ステップ1で計算した課税価格の合計額から基礎控除額を控除した額である。
ちなみに、基礎控除額は下記のとおり計算できる。
基礎控除額 = 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
取得金額は、算出した課税遺産総額を法定相続分に応じて按分することで算出する。なお、相続人の範囲や法定相続分は民法によって下記のとおり定められている。
・相続人の範囲
被相続人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は次の順序で配偶者とともに相続人となる。
1.第1順位:被相続人の子
その子が既に死亡しているときは、その子の直系卑属(子供・孫等)が相続人となる。子も孫もいるときは、相続人により近い世代である子が優先される。
2.第2順位:被相続人の直系尊属(父母・祖父母等)
父母も祖父母もいるときは、相続人により近い世代である父母が優先される。第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人となる。
3.第3順位:相続人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その兄弟姉妹の子が相続人となる。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人となる。
なお、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされ、内縁関係の人は相続人に含まれない。
・法定相続分
1.配偶者と子供が相続人の場合
配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2
2.配偶者と直系尊属が相続人である場合
配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
3.配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4
ステップ3:相続税の総額と各人の算出税額の計算
ステップ2で計算した各人の法定相続分に応じた取得金額ごとに相続税の計算を行い、その合計額が相続税の総額となる。税率は下記のとおりだ。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
その後、相続税の総額を各人が実際に取得した財産の額(割合)に応じて、各人の「算出税額」を計算する。
ステップ4:算出税額の加減処理
以上のステップで各人の税額が計算できるが、加算額と控除額も考慮しなければならない。これらを加減して各人が納付する最終的な相続税額が決まる。
・相続税額の2割加算
財産を取得した人が被相続人の配偶者・父母・子以外である場合、ステップ3で計算した算出税額にその20%相当額を加算する。
・暦年課税分の贈与税額控除
相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた場合には、相続税の課税価格に加算して相続税を計算する。そのため、加算した贈与財産に課税されていた贈与税相当額を算出税額から控除できる。
贈与税と相続税の二重課税を排除するための仕組みといえよう。
・配偶者の相続税額の軽減
被相続人の配偶者の課税価格が、配偶者の「法定相続分相当額」または「1億6,000万円」のどちらか多い金額までは、相続税が課税されない。
・未成年者控除
相続人が被相続人の法定相続人かつ未成年者の場合には、算出税額から満20歳に達するまでの1年につき10万円の金額を控除できる。
未成年者控除額 = 10万円×(20歳-対象未成年者の年齢)
※20歳に達するまでの年数に1年未満の端数があるときは1年として計算する。
・障害者控除
相続人が被相続人の法定相続人かつ85歳未満の障害者の場合には、満85歳に達するまでの1年につき10万円(特別障害者は20万円)の金額を算出税額から控除できる。
障害者控除額 = 障害者の場合 10万円×(85歳-対象障害者の年齢)
※年数の計算に1年未満の端数があるときは1年として計算する。
・相次相続控除
相続開始前10年以内に被相続人が相続や遺贈によって相続税が課せられていた場合には、今回の相続の際に課税される税額から一定の金額を控除できる。相続税の負担軽減を図ることが目的だ。
相次相続控除額 = A×〔C/(B-A)〕×(D/C)×〔(10-E)/10〕
※上記「C/(B-A)」の割合が1を超えるときは1として計算する。
A:第二次相続の被相続人が第一次相続により取得した財産に課せられた相続税額
B:第二次相続の被相続人が第一次相続により取得した財産の価額(債務控除後)
C:第二次相続により相続人及び受遺者の全員が取得した財産の価額(債務控除後)
D:第二次相続によりその控除対象者が取得した財産の価額(債務控除後)
E:第一次相続開始時から第二次相続開始時までの期間に相当する年数(1年未満の端数は切捨)
相次相続控除の適用を受けられるのは被相続人の相続人に限られるため、相続放棄をした場合や相続権を失った場合にはこの規定は適用されない。
・外国税額控除
相続または遺贈により外国にある財産を取得したとき、外国の法令により課税された場合には、相当する金額を相続税の算出税額から控除できる。
・相続時精算課税制度における贈与税額の控除
相続時精算課税の適用を受けた財産に課税された贈与税額は相続税額から控除できる。なお、相続税額から控除しきれない贈与税額は還付を受けられる。
以上の加算処理や各種控除を行い、各人の最終的な相続税の納付額が決まる。
相続税の実質的な税率はどれくらい?
相続税の税率は10%から55%だが、実際に取得した財産額に対する税率はどれくらいになるのだろうか。最後に税額を計算して実質的な税率の例をお伝えする。
【試算の前提】
・基礎控除後の課税遺産総額:2億円
・相続人:妻・長男・次男の3人
1.課税遺産総額を法定相続分で按分
法定相続分に応じた取得金額は妻が1/2の1億円、長男・次男のそれぞれが1/4の5,000万円となる。
2.相続税の総額計算
妻の総額 = 1億円×30%-700万円 = 2,300万円
長男・次男の各総額 = 5,000万円×20%-200万円 = 800万円
相続税の総額 = 2,300万円+800万円+800万円 = 3,900万円
3.各人の算出税額の計算
財産を妻が1/2、長男と次男がそれぞれ1/4相続した場合、妻が1,950万円、長男・次男のそれぞれが975万円となる。
- 実際に取得した財産額に対する税率
妻にかかる税率 = 1,950万円/1億円×100 = 19.5%
長男・次男にかかる税率 = それぞれ975万円/5,000万円×100 = 19.5%
ただし、妻の場合は「配偶者の相続税額の軽減」が適用できるため相続税の負担はない。全体の税負担割合は1,950万円/2億円×100=9.75%となる。
このように、今回お伝えした手順で相続税が計算できるが、財産のうち土地については相続財産としての評価方法が複雑となる。実際の相続税額の試算を行う場合には、相続税をはじめ土地評価や遺産分割など相続に詳しい専門家に相談するようにしてほしい。(提供:THE OWNER)
文・澤田朗(フィナンシャル・プランナー、相続士)