先月までの動き
資金運用部会では、厚労相がGPIFに発出する中期目標の案と、GPIFが厚労相に提出する中期計画の骨子とが議論された。中期目標案は前回までの意見交換結果をまとめたもので、次回は今回の意見を踏まえた中期目標案の諮問・答申と具体的な中期計画案の議論が行われる予定である。年金事業管理部会では、前回に引き続いて日本年金機構の令和2年度計画が議論され、概ね了承された。
○社会保障審議会 資金運用部会
2月5日(第13回) GPIFの次期中期目標案、中期計画骨子
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09299.html (資料)
○社会保障審議会 年金事業管理部会
2月20日(第48回) 日本年金機構の令和2年度計画の策定、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo48_00002.html (資料)
ポイント解説:厚生年金の適用徹底
先月の年金事業管理部会で了承された日本年金機構の年度計画では、厚生年金の適用徹底が重点取組施策となっている。本稿では、現在の通常国会に法案が提出される予定の次期年金改革も考慮しながら、厚生年金の適用徹底の経緯と課題を確認する。
●適用基準:法人は業種や規模に関係なく対象
厚生年金の加入(適用)対象となるか否かは、個人の就労状況(労働時間等)に加えて、職場(事業所)の形態等も影響する。事業所に関する現行の要件は、正社員の場合は、法人の事業所は業種や規模に関係なく強制加入の対象となる。個人事業所は、法定された16業種かつ従業員が5人以上の場合に強制加入の対象となり、それ以外の個人事業所は従業員の半数以上の同意を得れば任意加入できる。年金改革法案が成立すれば、2022年度から、強制加入の対象となる個人事業所に士業(法務業等)が追加される見通しである。
パート労働者の場合は、前述した要件に加えて、企業全体の正社員数が500人超の場合に強制加入の対象となる。年金改革法案が成立すれば、この人数要件が、2022年10月からは100人超に、2024年10月からは50人超に拡大される。
●適用徹底の経緯:関係機関と連携して推進
厚生年金への加入は、原則、事業主が自主的に届け出るため、適用が漏れる事業所や従業員が発生しうる。このような事象を減らす取り組みが、厚生年金の適用徹底である。
近年の適用徹底は、関係機関と連携して行われており、その1つは、関係機関が持っている事業所の情報と、厚生年金に加入している事業所の情報との照合である。2002年度から雇用保険、2012年度から法人登記簿、2014年度からは国税庁の源泉徴収の情報、と照合されている。特に国税庁の情報は効果的で、適用徹底が大きく進んでいる。
もう1つは、国土交通省による取り組みである。運輸業者や建設業者の届出などの際に厚生年金を含む社会保険の加入状況を確認するほか、社会保険に加入していない建設作業員の現場入場を認めないガイドラインの制定や、その徹底に取り組んでいる(1)。これを受けて、社会保険に未加入の建設業者を入札に参加させない自治体もある。
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(1) 国土交通省「建設業における社会保険加入対策について」( http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000080.html )
●今後の課題:小規模事業所への徹底に向けた予防策を
上記の取り組みにより厚生年金の適用徹底は進み、従業員5人以上の法人事業所を中心に、加入指導等の対象となる事業所は減少した。今後は、従業員5人未満の法人事業所や個人事業所への加入徹底策を検討する必要がある。
加入指導の対象となる従業員5人未満の法人事業所数の多さを考えれば、国税庁等の情報を利用した事後的な加入指導だけでは対応が難しい。前述した建設業のように事業の実施に必要な届出や更新の際に厚生年金の加入を要件に加えたり、電子申請で他の手続きと厚生年金の適用手続きを一括して行えるようにするなど、適用漏れを予防する工夫が重要になろう。
昨年末に取りまとめられた社会保障審議会年金部会の報告書(議論の整理)には、従業員5人未満の個人事業所への適用拡大が盛り込まれなかった。まずは従業員5人未満の法人事業所への加入徹底が効率的に進み、近い将来に同規模の個人事業所への適用拡大が検討されることを期待したい。
中嶋邦夫(なかしま くにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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