会社を売却する際は、さまざまな手続きを行っていくこととなる。会社売却の方法を決め、相談先を探し、売却先候補のリストアップと交渉を行った上で、売却先を1社に絞る。売却先が会社について財務・法務面から詳細に調査し、最終譲渡契約書を締結する。この記事では、会社売却の手続きについて、準備段階からクロージングまでの一連の流れを詳しく解説する。

会社売却手続きの流れ

会社売却
(画像=PIXTA)

最初に、会社を売却する手続きの全体の流れを見ていこう。会社売却手続きは、以下の11ステップで行われる。

・STEP1 会社売却の方法を決める
・STEP2 会社売却の相談先を探す
・STEP3 会社売却の相談先と契約する
・STEP4 提案資料を作成する
・STEP5 会社の売却先を探す
・STEP6 経営者同士の面談を行う
・STEP7 意向証明書の提示を受ける
・STEP8 基本合意契約書を締結する
・STEP9 売却先候補企業がデューデリジェンスを実施する
・STEP10 最終譲渡契約書を締結する
・STEP11 クロージング

それぞれのステップについて、以下で詳しく解説していくことにする。

STEP1 会社売却の方法を決める

まずしなければならないことは、会社を売却する方法を決めることである。会社を売却する方法には、「株式譲渡」と「事業譲渡」がある。

【会社売却の方法1】株式譲渡

株式譲渡とは、売却先に会社の株を譲渡することにより、売却先企業に会社の所有権を移すことである。売却先企業は、所有権を持つことで会社の意思決定ができるようになる。

株式譲渡では、譲渡する株式の割合が多いほど、会社に対する売却先企業の影響力が強くなる。割合が少ない場合は、「資本業務提携」のような比較的弱い連携関係が形成される。逆に株式の100%を売却した場合は、会社は売却先企業の「完全子会社」となる。

・株式譲渡のメリット
会社売却を株式譲渡によって行うことのメリットは、手続きが比較的簡単なことである。合併などを行う際に必要となる基本合意の締結などは、株式譲渡では必要ない。

・株式譲渡のデメリット
株式譲渡のデメリットは、売却先企業が会社のすべてを包括承継しなくてはならないことだ。負債や義務などもそのまま引き継ぐ必要があるために、会社に負債や義務が多く、なおかつ重大なトラブルを抱えている場合などは、売却先企業が見つかりにくくなることがある。

【会社売却の方法2】事業譲渡

事業譲渡とは、株式譲渡のように会社自体を売却するのではなく、会社の一部の事業のみを売却することである。

・事業譲渡のメリット
事業譲渡のメリットは、包括継承ではないため売却先企業にとってのハードルが下がることだ。売却先企業は承継するものを契約によって決められるため、義務や負債を引き継がなくて済む。したがって事業譲渡は、株式譲渡と比較して売却先企業が早く決まる可能性が高い。

・事業譲渡のデメリット
事業譲渡のデメリットは、売却した事業以外の事業が売却後も残ることだ。引退のために会社を売却するなら、事業譲渡した後、残った会社の廃業手続きをしなくてはならない。廃業手続きにはコストがかかるため、引退のために会社を売却するのであれば、事業譲渡は適さないだろう。

STEP2 会社売却の相談先を探す

会社を売却する方法について基本方針を定めたら、次にしなくてはならないことは、会社売却の相談先を探すことである。会社売却の相談先は、主に以下の4つだ。

  1. M&A会社(仲介/アドバイザリー)
  2. 金融機関/証券会社
  3. 公的機関/事業引き継ぎセンター
  4. 税理/会計/法律事務所

【会社売却の相談先1】 M&A会社(仲介/アドバイザリー)

会社売却の相談先として第一に挙げられるのは、M&A会社である。M&A会社には、「仲介」を行う会社と、売り手あるいは買い手のどちらか一方について「アドバイザリー」を行う会社があるので注意が必要だ。

(1)M&A仲介会社
M&A仲介会社は、会社の売り手および買い手の情報を集め、条件が合う会社同士のマッチングを行う。会社売却の相手を探すところから、交渉や契約手続きなどのすべてを行うことが特徴だ。

多くのM&A仲介会社は、中小企業同士のM&Aなど、比較的規模が小さいM&Aを得意としている。ある特定の分野に強みを持つM&A会社も多くある。

ただし、M&A仲介会社は、売り手と買い手の双方の妥協点を探って交渉を行うことになるため、売り手にとっては売却条件が不利になることもある。

(2)M&Aアドバイザリー
M&Aアドバイザリーは、売り手または買い手のどちらかと専属契約を結び、M&Aの交渉を行う。交渉は、売り手と買い手の双方のアドバイザリー同士が行うことになる。契約した企業の利益が最大になるように交渉するため、希望条件をもとに相手との交渉を進めることができる。

ただし、一般にM&Aアドバイザリーは、大企業同士のM&Aなど規模が大きいM&Aを得意とすることが多い。

【会社売却の相談先2】 金融機関/証券会社

M&Aについての相談は、金融機関や証券会社にすることもできる。金融会社や証券会社のなかには、専門部署を設置して、M&Aについての相談対応や仲介を行っているところもある。

取引先の銀行が、M&A業務を行っていることもあるだろう。その場合は、そこに相談することも選択肢の1つとなる。

【会社売却の相談先3】 公的機関/事業引き継ぎセンター

事業引き継ぎセンターなどの公的機関も、M&A相談先の選択肢の1つである。事業引き継ぎセンターは、中小企業基盤整備機構が運営しており、中小企業や小規模事業者のM&Aの支援を行う。また、M&A会社を利用するは、その費用についても相談することができる。

【会社売却の相談先4】 税理士/会計/法律事務所

税理士事務所や会計事務所、法律事務所も、M&Aについての相談先となる。税理士・会計事務所は財務会計が専門なので、自社の適正な売却価格を算出してくれるだろう。経営について日頃から相談している税理士・会計事務所があるなら、そこにM&Aについての相談をしてもいいだろう。

法律事務所は、企業法務を専門としている場合は、M&Aについての相談に乗ってくれることもある。

STEP3 会社売却の相談先と契約する

M&Aの相談先が決まったら、業務契約を締結する。契約に際して重要なのは、「秘密保持」に関する条項を確認することである。会社の売却に際しては、適正な売却価格を算出するため、バランスシートに計上される有形資産のみならず、顧客情報や独自ノウハウなどの無形資産も相談先にすべて知らせなくてはならないが、それらの情報を社外に伝える場合は、情報漏えいのリスクがともなうからだ。

また、「ネームクリア」についても確認しておきたい。ネームクリアとは、売却先候補となった企業に自社の名前を伝えることだ。会社を売却する前に「会社を売却しようとしている」という情報が漏出すると、従業員が動揺したり、株価が暴落したりするリスクがある。したがってネームクリアは、必ず売却先候補の企業と秘密保持契約を結んだ後に行わなくてはならない。

STEP4 提案資料を作成する

M&A相談先と契約を締結したら、提案資料を作成する。提案資料とは、会社売却手続きの流れや方法、条件などを売却先候補の企業に提案するための資料である。提案資料を作成するため、M&A相談先と協力しながら、自社の価格や価値、売却のスキームなどを検討していく。

この提案資料にも、無形資産などの機密情報が含まれることになる。したがって、提案資料の売却先候補企業に対する開示が、秘密保持契約の締結後に行われることも、しっかり確認しておこう。

STEP5 会社の売却先を探す

提案資料が完成したら、会社売却の準備は終了となる。ここからは、売却の交渉に入っていくことになる。

交渉に先立ってまず行うことは、売却先候補の企業を探すことだ。M&A相談先の情報に基づいて、売却条件で折り合いがつきそうな売却先候補をリストアップする。M&A相談先の売却先候補リストが完成したら、M&A相談先には会社名は伏せたまま売却先候補に打診を行う。

打診をした結果「交渉する価値がある」と判断したケースについて、M&A相談先はさらに具体的な情報を開示する。情報開示は、秘密保持契約の締結後になることはもちろんのことである。

一般に、売却先を探すプロセスには比較的時間がかかる。もし折り合いがつく売却先がなかなか見つからない場合は、条件のいくつかについて妥協が必要になることもあるだろう。

STEP6 経営者同士の面談を行う

売却先候補がある程度絞り込めた段階で、売却先候補企業の経営者と面談を行う。経営者同士の面談では、自社の魅力をしっかり伝えるとともに、価額をはじめとする売却条件や、売却後の運営についても確認することになる。しっかり準備して、自社の魅力を余さず伝えられるようにするとともに、相手に聞きたいことをすべて聞けるよう、質問事項は整理しておこう。

面談においては、一般的に店舗があるなら店舗の見学、販売している商品があるのならそのデモンストレーションなどを行う。有形・無形の資産についても、わかりやすくプレゼンテーションする必要があるだろう。

経営者同士の面談は、売却先候補の絞り込み状況に応じて、いくつかの企業と行うことになる。また、同じ売却先候補との面談も、双方の希望に応じて複数回にわたって行われるケースが多い。

STEP7 意向証明書の提示を受ける

経営者同士の面談で売却先候補企業が買収の意向を示した場合は、売却先候補企業から「意向証明書」を受領する。意向証明書とは、

・売却のスケジュールや段取り
・売却を希望する理由
・売却後の経営展望

などを売却元企業に伝え、「買収を検討する意思がある」ことを示すものである。

意向証明書に法的拘束力はない。複数の企業と交渉している場合は、それぞれの企業から受領し、売却元が売却先を検討するための材料とする。

STEP8 基本合意契約書を締結する

経営者同士の面談と意向証明書の受領により、売却先候補を1社に絞り込む。絞り込んだ売却先候補とは、「基本合意契約書」を締結する。基本合意契約書には、

・売却の方法(株式譲渡/事業譲渡)
・価額と支払い方法
・取引の時期
・売却後の従業員の雇用条件
・独占交渉の有無と独占交渉期間
・デューデリジェンスの協力業務

などが記載される。ただし、基本合意契約書は最終合意ではないので注意したい。

基本合意契約書には、一般的に独占交渉とその期間が記載される。そのため、独占交渉期間中は他の企業と交渉ができなくなる。

STEP9 売却先候補企業がデューデリジェンスを実施する

基本合意契約書を締結すると、売却先候補企業は「デューデリジェンス」を実施する。デューデリジェンスとは、財務および法務の専門家が売却元企業を詳しく調査することである。

財務面については、税務申告書や財務諸表などで企業の財務状態がチェックされ、妥当な買収価額が検討される。法務面では、契約書などが詳細にチェックされ、資産の所有権や契約の妥当性、労働関連法の遵守状況、許認可の状況、訴訟の有無などが確認される。

デューデリジェンスにおいては、売却元企業は誠実に対応し、提出を求められた資料などは速やかに不足なく提出することが重要だ。負債やトラブルなどは、隠そうとしても発覚するものである。隠そうとしたことが発覚すると、交渉が白紙に戻されることも十分あり得る。負債やトラブルは最初から包み隠さず開示し、希望売却価額に反映させておくようにしよう。

STEP10 最終譲渡契約書を締結する

デューデリジェンスが実施され、売却元・売却先双方の意思が固まり、売却条件に合意したら、「最終譲渡契約書」を締結する。最終譲渡契約書に盛り込まれる内容は、

・譲渡価額
・表面保証の内容
・補償責任の内容
・役員と従業員の売却後の待遇
・競業避止義務

などだ。

このうち特に重要なのは、「表面保証」である。表面保証とは、開示した内容に間違いがないことを互いが相手に保証するものだ。表面保証の具体的な内容には、以下のようなものがある。

・取締役会の承認などの必要な手続きが完了している
・必要な行政手続きが完了している

(売却元の保証内容)
・売却先に対してすべての情報を正しく開示している
・デューデリジェンス後に資産や負債・事業などの大きな変化はない
・支払不能や銀行取引停止などになっていない
・譲渡する株式以外に売却先が認識していない株式は存在しない
・株式に担保権などが設定されていない
・決算に粉飾がない
・法令違反がない
・税金などの滞納がない

(売却先の保証内容)
・譲渡代金はすでに用意されている

売却先企業は、デューデリジェンスを行ったからといって、売却元企業のすべてを把握できているわけではない。そのため、売却後に予期しない事態が発生し、表面保証した内容と相違があった場合は、売却先企業は売却元に対して損害賠償請求ができることになっている。

最終譲渡契約書において、会社売却におけるすべてが決められる。よって契約書の内容は、財務および法務の専門家による精査が必要になるだろう。

最終譲渡契約書の締結からクロージングまでは、一般的に一定の期間が設けられる。この期間に、売却元企業は従業員や金融機関、取引先などへの説明を行う。

STEP11 クロージング

会社売却手続きの最後は、「クロージング」だ。クロージングにおいて、株式や事業を譲渡するための手続きや、譲渡代金の支払いが行われる。

クロージング後は、会社の資産や従業員などの異動が行われる。ただし、これは売却先企業が行うものなので、売却元企業がすることは基本的に何もない。

会社売却の手続きは役員・従業員のことを第一に考えて行おう

ここまで見てきたとおり、会社売却の手続きは、売却の方法を決めて相談先を探すところから始まり、売却先候補のリストアップ、交渉、経営者同士の面談などを経て、デューデリジェンス、最終譲渡契約書の締結に至る。会社売却手続きは、一般的に3~6ヵ月程度の期間がかかる。

会社の売却に際して最も重要なことは、会社に残ることになる役員や従業員の売却後の処遇に配慮することだろう。会社を売却することにより、役員や従業員がさらにいきいきと働けるようになるケースもあれば、会社の事業が停滞し、役員や従業員が退職していくケースもある。

特に、引退を目的として会社を売却する場合は、役員・従業員のことを第一に考えて売却交渉を行うことが、経営者として有終の美を飾ることにつながるだろう。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部