2019年10-12月期は前期比年率▲7.1%へ下方修正
3/9に内閣府が公表した2019年10-12月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲1.8%(年率▲7.1%)となり、1次速報の前期比▲1.6%(年率▲6.3%)から下方修正された。10-12月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲3.7%から同▲4.6%へ、民間在庫変動が前期比・寄与度0.1%から同0.0%へと下方修正されたことが成長率の下振れにつながった。その他の需要項目では、民間消費(前期比▲2.9%→同▲2.8%)、住宅投資(前期比▲2.7%→同▲2.5%)は若干上方修正されたが、公的固定資本形成(前期比1.1%→同0.7%)は下方修正された。
2019年10-12月期の2次速報と同時に2019年7-9月期以前の成長率が遡及改定され、2019年7-9月期の実質GDPは前期比年率0.5%から同0.1%へと下方修正された。消費税率引き上げ前がほぼゼロ成長だったにもかかわらず、消費税率引き上げ後の落ち込みは前回増税時(2014年4-6月期の前期比年率▲7.4%)に匹敵する大きさとなった。景気の基調が消費増税前から弱かったことを反映したものと考えられる。
●企業収益の悪化が設備投資に波及
3/2に財務省から公表された法人企業統計では、2019年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益が前年比▲4.6%(7-9月期:同▲5.3%)と3四半期連続の減少となった。非製造業は前年比1.1%(7-9月期:同0.5%)と2四半期連続の増益を確保したが、製造業が前年比▲15.0%(7-9月期:同▲15.1%)と6四半期連続で減少し、3四半期連続で前年比二桁の大幅減益となった。季節調整済の経常利益は19.5兆円となり、過去最高となった2018年4-6月期の23.8兆円と比べると2割近く低い水準となった。特に製造業の経常利益はピーク時(18年4-6月期)から4割近く落ち込んでいる。
2019年10-12月期の設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲3.5%(7-9月期:同7.1%)と13四半期ぶりに減少した。製造業(7-9月期:前年比6.4%→10-12月期:同▲9.0%)、非製造業(7-9月期:同7.6%→10-12月期:同▲0.1%)ともに減少に転じた。
10-12月期の設備投資は、7-9月期に簡易課税制度を採用する中小企業の駆け込み需要や軽減税率・キャッシュレス決済対応の需要によって高い伸びとなった反動も含まれるため、落ち込み幅は割り引いてみる必要がある。ただし、2018年半ば以降の企業収益の悪化によって、設備投資増加の背景にあった潤沢なキャッシュフローという条件は崩れつつある。先行きについては、景気循環に左右されにくい研究開発投資、省力化投資などが下支えすることは見込まれるものの、企業収益の悪化に遅れる形で設備投資が実勢として減速することは避けられないだろう。
実質成長率は2019年度▲0.1%、2020年度0.1%、2021年度1.0%
●2019年度は5年ぶりのマイナス成長に
2019年10-12月期のGDP2次速報を受けて、2/18に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2019年度が▲0.1%、2020年度が0.1%、2021年度が1.0%と予想する。2019年度、2020年度の見通しをそれぞれ▲0.3%、▲0.2%下方修正した(2021年度は0.1%上方修正)。
新型コロナウィルスの感染拡大による経済への影響が想定を上回る公算が大きくなったことを受けて、2020年1-3月期の成長率を1次速報時点の前期比年率▲1.0%から同▲4.2%へと大幅に下方修正した。2020年4-6月期、7-9月期の成長率は上方修正(4-6月期:前期比年率2.9%→同4.6%、7-9月期:前期比年率2.2%→同2.9%)したが、2020年1-3月期の大幅下方修正により、2019年度から2020年度への発射台(ゲタ)が大きく下がったことが、2020年度見通しの下方修正につながた。
●2020年2月以降の経済の動きは東日本大震災後に近いものに
前回(2/18)の経済見通しでは、2002~2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)を参考として、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う中国からの訪日客の減少、中国向けの財輸出の落ち込みを試算した。しかし、2/25に政府が「新型コロナウィルス感染症対策の基本方針」を公表し、2/26には安倍首相が多くの人が集まるスポーツ、文化イベント等について、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請したことを受け、実際に各種イベントの中止、レジャー施設の休園、百貨店等の営業時間短縮などの動きが加速している。また、WHOが日本を含む4カ国を、中国以外の新型コロナ感染拡大国として名指ししたこと、日本政府が入国制限する国・地域を拡大したこともあり、中国以外からの日本への入国者数も大幅に減少することが見込まれる。
2月以降の経済の動きはSARSよりも東日本大震災後に近いものとなりそうだ。2011年3月に発生した東日本大震災後には、生産設備の損壊、サプライチェーンの寸断、電力不足が重なったことにより、国内の生産活動、輸出が大きく落ち込んだ。また、各種イベントが相次いで中止されたことや、不要不急の消費を控える動きが広がったことから、個人消費も大幅に減少した。現在、新型コロナウィルスの感染拡大を懸念して、マスク、トイレットペーパー、ティッシュなどの買い占めが発生しているが、東日本大震災時にもミネラルウォーター、トイレットペーパー、カップめん、電池などの消費量が非常時に備えた買いだめから急増した。しかし、自動車、旅行、外食などの選択的支出が大きく落ち込んだため、2011年3月の消費支出は全体では大幅な減少となった。
ほとんどの経済指標は東日本大震災が発生した2011年3月に急速に落ち込んだ後、4月以降は徐々に持ち直したが、福島の原子力発電所事故に伴う放射能汚染の問題から訪日外国人数が震災前の水準に戻るまでには1年以上の時間を要した。
今回の経済見通しでは、新型コロナウィルスの終息時期は2020年4-6月期と前回見通しから変更していないが、中国以外からの訪日客の減少、中国以外の国への輸出の減少、各種イベントの中止、自粛ムードの高まりなどを受けた国内消費の落ち込みを織り込んだ。
この結果、新型コロナウィルスの流行がなかった場合と比べて、2020年1-3月期は訪日客数の減少に伴うサービス輸出(旅行収支の受取額)が▲4,500億円(うち中国が▲2,800億円)、財の輸出が▲5,400億円(うち中国が▲2,900億円)、家計消費支出が▲10,200億円、合計▲2.0兆円減少し、実質GDPは▲1.4%低下すると試算される。4-6月期には新型コロナウィルスが終息に向かうことにより、押し下げ幅は縮小するが、それでも▲1.1兆円(サービス輸出▲1,900億円、財輸出▲1,600億円、家計消費支出▲7,600億円)、実質GDP比▲0.8%の下押しが残る。
実質GDP成長率への影響は、2020年1-3月期が前期比年率▲5.7%、4-6月期が同2.6%、7-9月期が同3.1%となる。
実質GDPは消費税率引き上げに伴う国内需要の急速な落ち込みを主因として前期比年率▲7.1%の大幅マイナス成長となった。2020年1-3月期は駆け込み需要の反動が和らぐことが成長率を押し上げるものの、新型コロナウィルスの感染拡大の影響がそれを大きく上回ることにより、前期比年率▲4.2%と2四半期連続のマイナス成長になると予想する。景気は2018年秋頃をピークに後退局面入りしている可能性が高い。
今回の見通しで新型コロナウィルスの終息時期と想定している2020年4-6月期は一時的な押し下げ要因の剥落、挽回生産などから前期比年率4.6%の高成長となった後、東京オリンピック・パラリンピックが開催される7-9月期も同2.9%と潜在成長率を明確に上回る成長が続くだろう。ただし、新型コロナウィルスの感染拡大が長期化すれば、景気の底打ち時期は後ずれする。また、オリンピック終了後の2020年度後半には押し上げ効果の剥落から景気の停滞色が強まることは避けられない。ポイント還元制度などの消費増税対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがある。
現時点では、新型コロナウィルスによる経済への悪影響は一時的と考えている。東日本大震災時のような生産設備の毀損、原子力発電所事故に伴う電力不足といった供給制約はないため、感染が終息すればV字回復も期待できる。東日本大震災発生時の実質GDPの動きを振り返ると、2011年1-3月期に前期比年率▲5.5%、4-6月期に同▲2.6%と2四半期連続のマイナス成長となった後、7-9月期は電力不足による供給制約が残る中、同10.3%と急回復した。
ただし、2020年の春闘賃上げ率は、消費増税後の景気悪化に新型コロナウィルスの影響が加わることで、前年の伸びを大きく下回ることが見込まれる。当研究所では、2020年の春闘賃上げ率を前年から▲0.18ポイント低下の2.00%と予想している(2月時点の見通しから▲0.08ポイント下方修正)。新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けた春闘の結果は、正社員を中心とした基本給(所定内給与)の伸び悩みを通じて2020年度中の個人消費の抑制要因となる恐れがある。
●物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2019年4月の前年比0.9%をピークに鈍化傾向が続き、9月には同0.3%となった。2019年10月には消費税率が引き上げられたが、それと同時に幼児教育無償化が実施されたため、コアCPI上昇率は前年比0.4%と前月から0.1ポイントの拡大にとどまった。その後、エネルギー価格の下落幅縮小を主因として上昇率が徐々に高まり、エネルギー価格が6ヵ月ぶりに上昇した2020年1月には同0.8%まで伸びが高まった。ただし、制度要因(消費税率引き上げ+幼児教育無償化)を除いた上昇率は引き続きゼロ%台前半で、基調的な物価上昇圧力が高まっているわけではない。エネルギー価格が再び下落に転じる2020年2月以降は伸びが鈍化する可能性が高い。
外食、食料品を中心に原材料費、物流費、人件費などのコスト増を価格転嫁する動きは継続しているが、先行きは消費税率引き上げ後の個人消費の低迷を受けて需給面からの物価上昇圧力が弱まることは避けられないだろう。
また、サービス価格との連動性が高い賃金は伸び悩みが続いているが、2020年の賃上げ率は2年連続で前年を下回る可能性が高く、賃金面からの物価上昇圧力も高まらないだろう。消費者物価上昇率はゼロ%台の低空飛行が続く可能性が高い。
コアCPI上昇率は2019年度が前年比0.6%(0.4%)、2020年度が同0.2%(0.1%)、2021年度が同0.4%と予想する(括弧内は、消費税率引き上げ・教育無償化の影響を除くベース)。
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任
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