「あの人〇〇だよね……」

誰かのもらした一言が刺さった経験はないだろうか。

人間は、自分を理解していると思いがちだ。だからこそ、誰かの何気ない一言で、傷ついたり驚いたりする。

今回は、自分を知る手掛かりとなる心理学の手法「ジョハリの窓」を紹介する。

自己理解を深め、自分が知る自分と他人が知る自分を一致させていくことが、成功者への近道だ。

ケーススタディ(5)――己を知る力

成功心理学 #5
(画像=udall30/shutterstock.com,ZUU online)

「及川さんと話すの、ちょっと緊張してしまって……」

休憩室からそんな声が聞こえてきて、コンサルタントの及川圭佑(37)は足を止めた。

及川は人材コンサルティング会社で働いている。営業契約件数や売り上げの年間記録を次々と更新してきた及川は、社内ではちょっとした有名人だ。

とはいえ、自分ではまだまだだと思っているし、天狗にならないよう、周りにねたまれないよう、人間関係には人一倍気を遣ってきたつもりだ。それなのに、インターンシップ生の大学生にそんな印象を抱かせていたなんて。

成功心理学 #5
(画像=Anatoliy Cherkas/Shutterstock.com)

「大丈夫!私も最初は近寄りがたいなと思ったけど、優しくて面倒見もいいし、歩く雑学辞典みたいな人だから」

インターンシップ生の相談相手は、及川の直属の後輩である新垣理子(22)だったようだ。新垣のフォローに少しホッとする。同時に、先輩相手に歩く雑学辞典はないだろう、と内心苦笑する。歯に衣着せぬ新垣らしい物言いだが。

邪魔をしても悪いと思い、及川は二人に気づかれないよう、フロアに戻った。

意外と知らない「他人から見た自分」

仕事が終わり自宅へと向かう帰り道、及川は昼間の休憩室で聞いた会話を何となく思い返していた。自分が意図しないところで、相手を委縮させてしまっていた理由は、どこにあるのだろう。緊張や近寄りがたさは、何から生まれるのだろう。

及川は、自分のことを語るのが得意ではない。「ミステリアス」「ひょうひょうとしてる」といった人物評を下されることが多い。親しい相手に、冗談交じりに「お前は食えない奴だ」と言われることもある。

今までは、それはそれとして流してきたが、本気で自分と向き合うべき時がきたのかもしれない。

帰宅して及川がスマートフォンを開くと、メールが届いていた。人脈作りのために参加した異業種交流会で名刺交換した相手からだ。確かセミナー講師をしていると言っていた。

内容は、近々開催するセミナーの案内だ。添付ファイルを開くと、「ビジネスマンのための自己分析」という文字が及川の目に飛び込んできた。異業種交流会で話した講師は、控えめで知識量が多く、好感の持てる人物だった。

これは、チャンスかもしれない。及川はメールを開き、参加する旨を返信した。

すぐにセミナー当日がやってきた。及川が最初に抱いた印象どおり、講師は心理学の知識が豊富で、密度の濃い内容だった。セミナーが中盤に差し掛かった頃、講師がセミナー参加者にこんな質問をした。

「次の2つの選択肢を見て、自分はどちらのタイプだと思いますか?」

(1) 他人から自分がどう見えているかはあまり意識しないが、他人に自分のことをよく話すほうだ。
(2) 他人に自分のことを話すのは苦手だが、他人から自分がどう見えているかは何となく分かるほうだ。

人間が持つ4つの窓とは?

及川は(2)だと感じた。自分のことを話すのは苦手だが、周りからどう見られているかは意識している。参加者は(1)を選んだ人が少しばかり多いようだった。

講師は参加者を見渡してほほ笑んだあと、次のように続けた。