税務当局が資産フライトを阻止

ファミリーオフィスのリアル#6
(画像=takkun/Shutterstock, ZUU online)

「フライトさせた資金を日本に戻せないものだろうか。家族もつらいと言っているし、こちらでの生活にも限界を感じて日本に戻りたいんだ…」

年明け早々、シンガポール在住の富裕層は、ファミリーオフィスを運営している百武資薫氏にこんな相談を持ち掛けてきた。この富裕層は、起業した会社を上場させた後に売却したことで、300億円超の資産を保有する超富裕層。4年前、一家4人でシンガポールに移住していた。

なぜ、移住したのか。それは、相続税を払いたくなかったからだ。というのも、日本の相続税は世界的に見てもかなり高い。税率は、相続した資産に応じて10〜55%、その資産が大きくなればなるほど税率も高くなる。この富裕層の場合、半分以上は相続税で持っていかれてしまう。

そこで、富裕層の間で流行ったのが、いわゆる「資産フライト」だ。簡単に言えば、相続税がない、もしくは税率が安い国に資産を移転させ、相続税をゼロ、もしくは軽減させるというものだ。中でも相続税や贈与税がなく、そこそこの都会で日本人にも住みやすいとされたシンガポールは人気だった。そこで子どもに資産を相続したいと考えていた富裕層も、移住を決断したわけだ。

ただ1つ、大きな問題があった。それは、「海外居住要件」の存在だ。相続税は、一定期間、海外に住んでいれば、海外に保有する資産に対しては課税されない。ただ、そのメリットを享受したければ、資産をフライトさせた上で、相続人と被相続人ともに一定期間、海外に住んでいなければならないという条件があるのだ。

それまで、その期間は5年だった。ところが、2017年になって突如、期間が「10年」に延期されてしまい、冒頭の富裕層は百武さんに相談したのだ。

いくらシンガポールが住みやすいといってもそこは外国。気候も違えば、物価も高い。「移住した当初こそ昼間はゴルフ、夜は高級クラブなどで豪遊していたかが、それもしばらくすれば飽きてしまう。また妻や子どもも生活になじめず、精神的にまいってしまった。もう少しだけ我慢すれば、日本に帰ることができると思って我慢していたのだが、それも限界だ」(冒頭で紹介した富裕層)

つまり、海外居住要件の延長は、資産フライトさせた、もしくはこれから資産フライトしようとしている富裕層をあきらめさせ、相続税を徴収しようという“租税強化”の一環だったのだ。

こうして我慢しきれなくなった富裕層たちが今、移住先のシンガポールや香港などから帰国し始めている。

富裕層を狙い撃ちする政府

それでなくても、ここ数年、政府は富裕層を狙い撃ちしている。