3月が年度末決算の時期という会社は多いと思います。9月、12月を決算時期にしている企業もありますが、国税庁の決算期月別法人数によると3月決算の会社は群を抜いて多くなっています。

企業はその義務として、年度末に決算をしなくてはなりません。年度の収入と支出を計算し、決算書をつくります。その際に、一定の資産を決められた年数にわたって費用として計上する減価償却が重要な取り組みとなってきます。ここでは、その減価償却について解説します。

減価償却と聞くと「難しい」と思う人もいるかもしれませんが、財務上大きなメリットをもたらす重要な概念です。きちんと要点を押さえ、健全な経営につなげていきたいところです。

減価償却の取得原価をしっかりと把握する

減価償却費
(画像=Doubletree Studio/Shutterstock.com)

減価償却とは「時間が経ったり、使うことによってその価値が減少したりする資産を取得した時に、取得した支払額をその耐用年数に応じて費用計上していく会計処理」のことです。基本的には、10万円以上の資産が対象になります。

減価償却で対象となる資産は?

電化製品や自動車、機械設備などの有形資産と、ソフトウェアや商標、特許権といった無形資産があり、事業向けに購入した10万円以上の資産であれば、すべてが対象になります。物品類だけと考えてしまうかもしれませんが、電気、電話、LAN工事なども含まれるほか、植物の苗木、家畜なども対象範囲に入ります。

一方で、無形資産には、M&Aの際に計上した「のれん代」なども該当します。ちなみに、取得金額が10万円未満のものは減価償却の対象にならないため、消耗品などの項目で処理するのが一般的です。

減価償却の計算で必要な要素は「取得原価」「残存価格」「耐用年数」

減価償却の計算をするのに必要な要素は「取得原価」「残存価格」「耐用年数」の3つです。このうち、取得原価について、最初に詳しく見ておきましょう。取得原価とは固定資産の取得に使った原価のことです。単純に購入金額と思いがちですが、取得方法によって内容が変わってくるので注意が必要です。

購入により取得した場合は「購入代金+付随費用-値引き・割戻し」となります。付随費用とは、本体代金以外に発生した支払いのことで、大型機器の設置費用や運賃、手数料、保険料などがそれに当たります。

また、建物などを自ら建築して取得した場合は、適正な原価計算基準に従って製造原価を計算し、これに基づいて取得原価を計算する必要があります。このほか、自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した際は、交換に供された自己資産の適正な簿価、自己所有の株式ないし社債などと交換に、固定資産を取得すると、当該有価証券の時価または適正な簿価が取得原価とされます。また、贈与により取得した場合は、時価などを基準として公正に評価した額が対象になります。

次に残存価格ですが、これは、固定資産の耐用年数の到来時において予想される売却価格のことです。自動車を購入して数年後に残っている資産としての価値をイメージするといいでしょう。

最後の耐用年数というのは、固定資産の予想される利用期間のことですが、こちらに関しては後述します。

減価償却の会計処理は「直接法」と「間接法」の2つ

減価償却の会計処理には、「直接法」と「間接法」の2つの方法があります。直接法では、固定資産から減価償却費を直接差し引きます。間接法は固定資産を直接減らすのではなく、減価償却累計額を計上し、これまでの償却額の合計を表示する方法です。

もし40万円で購入したコンピュータに対して、10万円を減価償却する場合を考えてみましょう。仕訳すると、以下のようになります。

直接法:有形固定資産の器具備品30万円
間接法:器具備品40万円、減価償却累計額▲10万円

いずれも、表現の仕方が違うだけで、今後費用にできる金額が30万円であることに変わりはありません。

ただし、直接法は見た目の通り、今後費用にできる金額が一目で分かるメリットがある反面、対象の固定資産科目の金額が年々減っていくため取得原価が分からなくなってしまいます。一方、間接法では、固定資産科目の金額は変わらずに、減価償却累計額が増えていくため、取得原価の情報を残しておけることが違いです。

税金の金額は変わらないため、どちらを選んでも構いません。選択基準は、おおまかにいうと会社の規模です。中小企業の多くは分かりやすい直接法を採用します。一方、設備投資が多いような会社は、過去の償却状況を把握する必要があるため、間接法を用いるケースが目立ちます。ちなみに、無形固定資産は常に直接法を用います。

減価償却費の計算方式は「定額法」と「定率法」 違いは?

会計処理の次にやらなければならないのが、計算方式の選択です。減価償却には、「定額法」と「定率法」という方法があり、それらを用いて減価償却額を算出する必要がある。では、この2つはどう違うのでしょうか。

定額法は、毎年一定額の減価償却費を計上する方法で、乗用車を100万円で購入した場合、耐用年数は5年となります。そのため、各年の減価償却費は20万円となる計算です。一方、定率法は、未償却残高(購入年度は取得価額)×定率法償却率から減価償却額を導き出します。年数の経過に応じて計上する減価償却費が減少する方法で、1年目ほど減価償却費が大きく、年々下がっていく仕組みです。

どちらを選べばいいのかは一概には言えませんが、早くたくさんの経費を計上したいのであれば定率法です。そうでないのであれば、定額法というのが一定の基準になります。定率法は経費になって、利益が減ってしまうと思うかもしれませんが、計算上早い時期により多くの額を減価償却費できるため、節税効果も早く得られます。

その資金を次の投資につなげられるなどのメリットがあります。また、後年の負担を小さくできるため、売り上げが伸びる見込みがあるのであれば、こちらを選んだほうが良いという考え方もできるでしょう。定率法を選べるのは法人のみです。

それに対し定額法は、毎年定額が減価償却費になるため、負担は変わりません。赤字になるかもしれない場合などは、こちらを選んだほうがいいという考え方もあるでしょう。個人事業主は定額法一択となるので気をつけておきたいところです。さらに無形固定資産も定額法のみの適用になっています。

なお、2年目までは定率法の減価償却費の方が多いものの、3年目からは定額法の減価償却費が多くなります。総額には差異が発生しない仕組みになっています。

健全な減価償却費の費用計上するために必要な耐用年数

定額法、定率法ともに必要になってくるのが、減価償却を計算するために必要な要素として紹介した耐用年数です。耐用年数は、普通に考えると購入してから、使用した年数と思いがちですが、それは「経済的耐用年数」で、税務上は、国税庁が定めている「法定耐用年数」を使用します。

法定耐用年数は資産の種類に応じて決められています。詳細は、国税庁「耐用年数表」を参照してください。若干の幅は持たせてありますが、建物は10~50年程度、車両は5年前後、工具は2~8年程度、机は8~15年程度とばらばらです。それぞれの価値が目減りし、不具合が出てきそうな期間を耐用年数として定めています。

耐用年数はかなり細かく定められているので、間違わないように注意しましょう。椅子ひとつとっても、金属製か、金属ではないかで耐用年数は異なりますし、応接セットも接客業用とそれ以外では扱いが違います。特に細かく分かれているのが車両で、自動車、2輪・3輪自動、自転車で異なるほか、自動車は、小型化、貨物自動車、その他で別々の耐用年数を用います。

この耐用年数を定めることで、勝手に会計を操作したり、脱税したりといった余地がなくなり、健全な減価償却費の費用計上ができるようになります。なお、中古資産にも耐用年数はあります。資産としての価値は減っているため、使用可能な期間も短くなります。

そこで、中古資産用の耐用年数が適用されます。耐用年数が短いので、減価償却費も多くなります。つまり、中古資産の方が早い年数で多額の経費を計上できることになります。ただし、中古資産に改良を加え、その改良費が中古資産の取得価額の50%を超えたり、新品価格の50%を超える資本的支出を行ったりした場合は、中古資産用に見積もった耐用年数を使うことはできません。

減価償却が必要な理由

ここまで、減価償却とは何か。何が対象になり、どのように導き出していけばよいかを説明してきました。では、なぜ減価償却をする必要があるのでしょう。大きな目的の1つは、適正な費用配分をすることで、毎期の損益計算を正確に把握することです。

企業では、会計期間の収益から費用を引いた「期間損益」が業績となります。例えば建物を1億円で購入した場合、1億円の支出額は2年目以降50年にわたって建物を利用し、収益を獲得していくために支出となるのです。それにもかかわらず支出額1億円を費用にしてしまうと、費用と収益が対応せず、適正な期間損益は出せません。

つまり、オフィスビルを購入し、その費用を1年目で全て計上すると、利益は表面上大幅に減少、もしくは赤字計算になります。しかし翌年には購入費を計上しないので、前年に比べて利益が大幅に増加します。これでは、経営上多くの問題を発生させる原因になりかねません。こうした問題を避けるためにも、きちんと減価償却することで、経営の合理性を保つ必要があります。

もう一つ、重要な機能とされているのが「自己金融効果」です。これは、減価償却費の額に相当する資金が企業内に留保される効果のことです。そのため、固定資産の耐用年数期間に渡って、同じものを新品で取得する場合の価額となる再取得に必要な資金が創出される効果が得られます。

ここでいう資金とは、減価償却費を計上することによって節税したものです。例えば、自動車を購入し、6年などの耐用期間にわたって減価償却費を計上することによって、節税効果が得られます。それを留保しておけば、6年後などに新車を購入する資金に充てられるというわけです。

ただし、減価償却費は計上された期の利益を計算上圧縮し、法人税を減額する効果によって企業内に資金が留保される仕組みです。そうなると、減価償却費よりも当期純損失の額の方が多ければ、その部分については自己金融効果が生じません。

例えば、当期利益が1,000万円で毎年200万円の減価償却費が生じる場合、損益は800万円と計算されます。法人税の計算はこの800万円に税率を掛けることで算出します。その場合、圧縮した200万円分には法人税がかかりません。法人税が40%だとすると、200万円×0.4=80万円の法人税を節税できるのです。

減価償却費として認められないものは? 骨董品、土地などはNG

減価償却費として認められないものもあるので、購入する際には注意したいところです。例えば、土地や骨董品など、時間が経っても価値が減少しない資産。借地権や書画などもそれに当たります。

気をつけたいのは、「時の経過に応じて価値が減少するもの」という条件。骨董品などは、時の経過とともに価値が上げるケースがあり、原則的には減価償却費とはみなされません。ただし、取得価額が1点100万円未満である美術品などは、減価償却資産に該当するという法改正があり、現在は認められています。

もう一つ気になるのは土地です。バブル経済の崩壊を知っている世代などであれば、土地価格の変動は激しく、時の経過に応じて価値が減少するものというイメージを持っているかもしれません。しかし、基本的にはこちらも減価償却費の対象にはなっていません。

以前、歴史的価値の高い楽器を減価償却していたケースがありましたが、これは、非減価償却資産として扱わなければなりません。

償却している途中の固定資産を処分する場合も注意が必要です。処分することによって発生した損失を「固定資産除却損」として計上しなくてはなりません。この処理をしないと、手元にはない固定資産に償却資産税がかかり続けてしまうからです。

減価償却は会計処理が面倒、それ以外の方法とは?

減価償却することで生じるデメリットもあります。1つは会計処理が面倒になることでしょう。税制法は頻繁に改正されるため、その都度最新の法制度に合わせて、対応していかなければなりません。

方法1.即時償却

減価償却以外の方法として「即時償却」という方法もあります。これは、初年度に購入費の全てを経費計上できるというもの。長期間に渡る会計処理の手間がなくなるというメリットがあります。即時償却でも減価償却でもトータルで考えれば、支払う税金に大差はありません。

しかし、減価償却で1年目に手元に残る金額より、即時償却で手元に残る金額の方が大きければ、それを設備投資などに回すことができます。財務会計における「正味現在価値」では、現在手元にあるお金の価値は未来に手元にあるものよりも大きいという考え方をします。早い段階で手元に多くのお金を留保できるというのは大きなメリットと言えるでしょう。

ただし、即時償却の対象になるには条件があります。1つは、建物や設備などが最新モデルや生産性の向上につながるものだという一定要件を満たしているかの証明となる「工業会の証明」、もう1つが、投資計画における利益率が年5%以上であるという「一定の投資利益率」です。この条件をクリアしなければ、即時償却の対象にはなりません。

方法2.リース

このほかに、「リース」という方法もあります。ご存知のように、購入するのではなく、設備や什器を借りることでまかなえ、最近増加傾向にある手法です。リースのメリットは、初期投資が少なく「貸借料」になるため、ほかの費用と同様に処理できることです。高額な買い物でも、毎月数万円の支払いで済むため、事業の立ち上げ時期や資金に余裕がない時には、ぜひとも利用したい制度です。

このリースが最近増えている理由の一つとして、リースサービスの多様化が挙げられます。以前はコピー機や一部の什器などがリースの主な対象でしたが、最近では家具、家電などを取り扱っているリース業者が増えてきました。起ち上げ間もないスタートアップ企業であれば、人員の増減が激しく、執務スペースのオフィス家具が足りなかったり、人員に合わせてオフィスを引っ越したりすることがあるため、その度にオフィス家具を買い換えるよりは、借りて対応したほうが、コストも抑えられそうです。

しかし、リースは借りているだけなので、所有権がなく、融資を受ける際などの資産の算定には入りません。また、リース期間が長期にわたると、結果的に購入するよりも支払った総額が高くつくことがあるため、買うのか借りるのかは、慎重に見極めたいところです。

減価償却費の仕訳は税理士に相談してみよう

ここまで減価償却の概念や計算方法、対象範囲、メリット、デメリットについて説明してきました。法人や個人事業主、事業運営の状況などによって、対応は少しずつ異なりますが、減価償却を行う最終的な目的は、毎期の損益を正確に計算し、可能な節税を実施しながら、財務の健全性を保つことにあります。

こうした取り組みによって、経営の透明性を確保し、何に投資すべきか、どの部分の無駄を省くべきかがわかってきます。直接法や間接法、定額法や定率法など、見極めが難しい部分もあると思います、そのあたりはぜひ専門家に相談し、会社の経営に役立ててほしいところです。

いずれにしても、節税を通じて自己金融機能を持つことは、大きなメリットです。今後の企業の発展のためにも、手元資金をきちんと残すことで、投資につなげていきたいところです。これから会社の設備を購入する際は、減価償却できるかできないか、あるいは購入するのとリースで済ませるのか、どんな形態で入手するべきであるのかを把握した上で、意思決定したいですね。(提供:THE OWNER