農地を相続したが農業を行う予定が無い、親が農業を行っているが後継者がいない、といった場合には農地の売却を検討することもあると思います。
ただし通常の土地と違い、農地の売却には様々な手続きや要件があります。今回は相続した農地を農地のまま売却する時の手続きや注意点等をお伝えします。
農地売却の流れ
農地を相続した場合には、まずは遺言書や遺産分割協議書の内容等に従って所有権の移転登記を行います。通常の土地と違う点は、相続した農地がある市区町村の農業委員会に届け出を行う必要があることです。
届出を行わないと10万円以下の過料が科されることがありますので注意が必要です。
【農地法】
第三条の三 農地又は採草放牧地について(中略)権利を取得した者は、(中略)遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。
その後、売却先を探すことになります。不動産会社に仲介を依頼する方法もありますが、農業委員会に相談し斡旋を依頼することも可能です。
斡旋申出書を提出すれば売却先との調整を依頼することができます。
売却先が決まった後に、農地の取得予定者が農業委員会へ農地法第3条に基づく売却の「許可」の申請を行います。
取得予定者の住所がある市区町村内の農地を取得する場合には「農業委員会」、市区町村外の農地を取得する場合には農地がある住所の「都道府県知事」の許可を得ることになります。
農地を売却するための条件
このような流れで売却することになりますが、売却先は誰でも良いというわけではありません。前述の「許可」を受けるためには要件が定められていて、取得予定者が現在農業を営んでいることはもちろん、次の要件をすべて満たない場合には売却ができないことになります。
またこの許可を受けないで行った契約は無効となります。
・全部効率利用要件:農地のすべてを効率的に利用する
機械や労働力等を適切に利用するための営農計画を持っていることが必要となります。
・農地所有適格法人要件:法人の場合は農地所有適格法人の要件を具備している
株式会社等の法人形態で主たる事業が農業、役員の過半が農業に常時従事する等が必要となります。
・常時従事要件:必要な農作業に常時従事する
農地の取得者や世帯員などが、必要な農作業に常時従事(原則年間150日以上)する必要があります。
・下限面積要件:一定の面積を営農すること
農地取得後の農地面積の合計が原則50a(北海道は2ha)以上であることが必要となります。この面積は地域の実情に応じて市区町村の農業委員会が引き下げることが可能となっています。
・地域との調和要件:周辺の農地利用に支障がない
水利調整に参加する、無農薬栽培の取組が行われている地域で農薬を使用する等の行為をしないことが必要となります。
売却を検討する際に気をつけることは?
このような要件を満たす必要があるため、農地のまま売却する場合には売却先が限られてしまう場合があり、売却までに時間がかかることも考えられます。
また売却額が想定よりも低くなることも考えられますので、売却額の目安を事前に農業委員会や不動産業者等に試算してもらう他、統計で相場等を確認しておく必要があります。
※統計についての参考:一般社団法人全国農業会議所
また、売却ができた場合には他の所得と区分された分離課税で、譲渡所得に対して所得税と住民税がかかります。なお農業委員会の斡旋による売却の場合には800万円の特別控除が認められています。
・譲渡所得金額:譲渡収入金額-(農地の取得費+譲渡費用)-特別控除額
・譲渡所得税額:譲渡所得金額×税率
税率は、長期譲渡所得の場合は所得税15.315%+住民税5%、短期譲渡所得(取得後5年以内の売却)の場合には所得税30.63%+住民税9%となります。所得税は復興特別所得税を合わせた税率となります(2037年まで)。
今回お伝えしたように農地の売却は通常の不動産の売却と異なる手続き等が必要となりますので、売却を検討する場合には事前に様々な準備・確認等を行っておくことが賢明と言えます。(提供:相続MEMO)
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