いよいよこの2020年4月から施行となる改正民法は「120年ぶりの大改正」と呼ばれるほど、さまざまな改正がなされています。中でも注目は賃貸住宅の「原状回復」ルールに関わる部分です。これは退去時のトラブルになりやすい敷金の取り扱いに影響を与えるもので、引っ越し時のおカネ事情が変わってくることが予想されます。詳しく解説しましょう。

敷金の返還を巡って国民生活センターに多数の苦情が

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(画像=Africa Studio/Shutterstock.com)

2017年に公布された改正民法。実際に施行されるのはこの2020年4月1日となります。これに伴い賃貸住宅の「原状回復」ルールにはどのような変化が生じるのでしょうか?

実は、従来の民法は、賃貸住宅における敷金の精算や「原状回復」に関するルールについてはっきりと言及していませんでした。つまり、法律によって明確なルールが定められていなかったわけです。

このため、退室の際に大家(賃貸人)から高額の「原状回復」費用を請求されて、敷金がほとんど戻ってこないといった借り手(賃借人)からの苦情が、国民生活センターに数多く寄せられてきました。

敷金の返還や「原状回復」の範囲を民法で明文化

そこで、改正された民法では、敷金の精算や「原状回復」に関するルールが明文化されました。まず「敷金とは家賃等を担保するもの」と定義したうえで、「賃貸契約が終了して部屋を明け渡した時点で返還する」というルールを定めました。

そして、原状回復の義務については、日焼けしてしまった壁紙や摩耗した畳表など、「通常の使用によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」とあり、通常の使用によって劣化した部分については、賃借人が原状に戻す義務を負わないという判断が記されています。

ガイドラインがあってもトラブル多発で法改正に

じつは今回の民法改正に先駆けて国土交通省は、1998年に「原状回復ガイドライン」を取りまとめていました。2004年と2011年に改訂もなされています。これは、賃貸住宅標準契約書の考え方や司法の判例などを考慮したうえで、「原状回復」の費用負担のあり方について妥当と思われる一般的な基準を示したものです。

同ガイドラインでは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」が原状回復であると定義しています。この定義に該当するケースに限って費用を負担すべきだという解釈で、先述した改正民法と同じ見解だと言えます。

また、東京都も2004年に「賃貸住宅紛争防止条例」を施行し、敷金の精算や修繕などに関して、契約の時点で賃借人にしっかりと説明することを義務づけました。いわゆる「東京ルール」です。

もっとも、これらの基準を後ろ盾に賃借人が抗議を行っても、賃貸人側が断固として敷金の返還に応じず、トラブルに発展するケースも少なくありませんでした。今回の改正民法施行によってようやく法的な根拠が確立されたことで、敷金返還や「原状回復」を巡るトラブルが減っていくことが期待されます。

賃借人の過失による損傷は、やはり請求される

今回の改正民法によって敷金の定義が「家賃等を担保するもの」として法的に明確化されたため、退去時にきちんと敷金が戻ってくるケースも増えることでしょう。しかしながら、賃借人のほうに落ち度がある場合は話が別です。

先で触れた「原状回復ガイドライン」では「通常の掃除を怠ったことで特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合」や、「飲み物をこぼしたままにしたり、結露を放置したりして物件にシミ等を発生させた場合」は、原状回復費を賃借人が負担することになります。退去時の敷金に影響を与えるでしょう。

賃貸人側の物件維持費用と、賃貸人側の引っ越し時の費用に影響を与える今回の改正民法。4月の施行により、賃貸借におけるお金の動きが変わることを覚えておきましょう。(提供:Wealth Road