為替相場の中長期トレンドは実需が担うというのが一般的な考え方である。実需というのは例えば、国と国との間の実際の貿易量のことである。実需を見る上で欠かせない重要な経済指標が「貿易収支」だ。19年度上半期 (19年4~9月) の日本の貿易収支は2半期連続の赤字に転じている。貿易赤字は円安になりやすいと言われるなか、貿易赤字の「ドル円相場」への影響を見ていきたい。

貿易収支の赤字が「ドル円相場」へ与える影響は ?
(画像=Jay Yuan / Shutterstock.com)

中国減速で日本の貿易収支は2半期連続の赤字

2019年10月21日に財務省が発表した9月の貿易収支 (通関ベース、速報値) は1,230億円の赤字だった。赤字は3ヶ月連続だ。半期ベースで見ると、19年度上半期 (19年4~9月) の赤字幅は8,480億円となった。赤字は18年度下半期の1兆8,145億円からは縮小したものの2半期連続の赤字となった。

赤字が拡大しているのは輸出が減少しているためだ。19年度上半期の輸出額は前年同期比5.3%減の38兆2,332億円。輸入額は2.6%減の39兆812億円。輸出は中国向けの落ち込みが激しく、輸入は原油価格の値下がりで中東からの輸入額の減少が大きかった。

中国向けの落ち込みは、米中貿易摩擦などの影響を受けて中国景気が減速している影響が大きいようで、自動車部品、半導体製造装置、鉄鋼などの落ち込みが目立った。19年度上半期の対中の輸出は9.1%減の7兆2,337億円。対中の貿易赤字だけで1兆8,860億円に達している。

このように貿易収支を見る際は、結果 (数値) だけでなく構成要素の差分や影響を受けている要因がどこにあるのか、それがどのくらい続きそうなのかを予想することが重要だ。

貿易収支の為替レートへの影響

貿易収支の概要について簡単におさらいしよう。財務省が「貿易統計」として毎月発表している統計で、翌月20日頃に発表される。日本の通関ベースの輸出額と輸入額とその差額である貿易収支を国別で発表している。貿易収支が黒字なら貿易黒字、赤字なら貿易赤字と判断する。ちなみに、経常収支は、貿易収支にサービス収支、所得収支、経常移転収支を合わせたものだ。

一般的な考え方としては、貿易黒字が増えると、GDPの押し上げ効果があるが、受け取る外貨が増え、外貨を円転するため、円買いの需要が増えて円高になりやすい。

逆に貿易赤字だと、GDPの押し下げ効果があるが、円を支払うために外貨にするため、円売りの需要が増え円安になりやすい。

日本では、2008年に起きた世界的な金融危機であるリーマン・ショック後の世界景気の縮小で11年度上期に赤字転落して、2011年に東日本大震災があったこともあり、15年度上期まで赤字は9半期連続となった。その間、円は対ドルで過去最高値をつけた2011年10月の75円台からアベノミクスによる景気刺激策と日銀の異次元金融緩和があったこともあり2015年6月には125円まで円安が進んだ。貿易赤字の期間にドル円は大きく円安に振れたのだ。

2019年のドル円レートは、8月に一度18年3月以来1年5カ月ぶりの104円台の円高をつけたが、その後、米利下げによる日米金利差の縮小にも関わらず、11月には109円台まで円安のトレンドとなっている。これには、18年度下期から2期連続で赤字が続いたことで、円安観測が増えているとの見方も出てきているようだ。

円安を想定した場合は外貨投資が有効

もちろん為替レートは貿易赤字だけで決まるわけではない。しかし、今回の貿易赤字の主因が中国の減速であるならば、今後も米中貿易摩擦が難航し中国景気が一段と落ち込む場合には日本の貿易赤字が拡大する可能性もある。

ただ難しいのは、今回は対中国の赤字が突出しているのであって、19年度上半期の対米貿易収支は3兆4,019億円の黒字である。対ドルに関しては円高になってもおかしくない。トランプ大統領が日本に黒字削減を迫る理由は、日米間の貿易のインバランスを解消したいとの考えからだ。

いずれにしても日本のマイナス金利が長期化するなか、外貨には日本の金利を上回る通貨も多い。もう一段の円安に振れるのであれば、外貨保有は投資戦略の選択肢のひとつになるだろう。

(提供:大和ネクスト銀行


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