澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

小規模企業共済は退職後の生活資金準備に役立つが、毎月の掛金の額や払込月数等によって受け取れる共済金等の額が変わる。掛金の増額・減額も可能だが、今回は小規模企業共済の掛金の払込み方法や仕組み、将来の共済金の受取額の違いや掛金変更の際の注意点などをお伝えする。

小規模企業共済の掛金はいくらまで掛けられる?

掛金
(画像=Watchara Ritjan/Shutterstock.com)

はじめに、小規模企業共済制度について簡単にお伝えする。小規模企業共済は、独立行政法人である「中小企業基盤整備機構(中小機構)」が運営する退職金制度で、文字通り小規模企業の役員や個人事業主・共同経営者等が加入できる積立型の退職金支援制度である。公的年金制度と違い、自身が将来受け取る金額(共済金等)を自らが積み立てる任意加入であることが特徴だ。

年間に支払った掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、所得税・住民税の節税効果がある。将来受け取る共済金は、「退職所得」として一括で受け取る方法の他、分割で受給する場合は「公的年金等の雑所得」扱いとなり、受取時の税制優遇も受けられる。

さらに事業資金の貸付制度が利用でき、掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で借入ができる「一般貸付」がある。他にも、「緊急経営安定貸付・傷病災害時貸付・事業承継貸付・廃業準備貸付」など、状況に応じてさまざまな借入ができる。小規模企業経営者の将来の備えに利用できるのはもちろん、在任中の資金ニーズにも応えることができる制度である。

加入できる経営者等の要件は事業規模によって決められ、次に記載する条件のどれかに該当すれば加入できる。

1.建設業・製造業・運輸業・サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)不動産業・農業等
常時使用する従業員数が20人以下の個人事業主又は会社等の役員

2.商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)
常時使用する従業員数が5人以下の個人事業主又は会社等の役員

3.事業に従事する組合員数が20人以下の企業組合の役員・20人以下の協業組合の役員

4.常時使用する従業員数が20人以下で農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員

5.常時使用する従業員数が5人以下の弁護士法人・税理士法人等の士業法人の社員

6.上記1と2に該当する個人事業主が営む事業の共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

あくまでも小規模企業を対象とした制度のため、一定規模以上の企業等の経営者は加入することができない。

毎月の掛金はいくらまで?納付方法は?

掛金は、月額で「最低1,000 円から最高7万円」の間で500 円単位で自由に設定できる。掛金の納付は、預金口座からの振替のみに対応しており、クレジットカード等は利用できない。

小規模企業共済は個人が加入する制度であり、掛金は契約者個人の所得控除となるため、事業上の損金・必要経費には算入できない。

掛金の納付方法は毎月・半年毎・年毎のいずれかの期間を選択でき、掛金を前納した場合には、一定割合の「前納減額金」を受給できる。納付期限を過ぎた後の掛金納付も可能だが、所定の「後納割増金」が必要なことには注意が必要だ。

掛金月額は、規定の範囲内ならば増額・減額できる。また、所定の理由に該当すれば、掛金の納付を「掛止め」することで、納付を一定期間停止することも可能だ。

小規模企業共済はどのくらいの節税効果があるのか

小規模企業共済は、加入者の課税所得によって効果の額は変わってくるが、掛金が全額所得控除になることによる節税効果は下記表の通りであ利、課税所得・掛金月額が大きいほど節税効果も大きくなる。

【掛金の全額所得控除による節税額一覧表】

課税される 所得金額加入前の税額加入後の節税額
所得税住民税掛金月額
1万円
掛金月額
3万円
掛金月額
5万円
掛金月額
7万円
200万円104,600円205,000円20,700円56,900円93,200円129,400円
400万円380,300円405,000円36,500円109,500円182,500円241,300円
600万円788,700円605,000円36,500円109,500円182,500円255,600円
800万円1,229,200円805,000円40,100円120,500円200,900円281,200円
1,000万円1,801,000円1,005,000円52,400円157,300円262,200円367,000円

引用:中小機構HPより
※「課税される所得金額」とは、その年分の総所得金額から、基礎控除・扶養控除・社会保険料控除等を控除した後の額で、課税の対象となる額。
※税額は平成29年4月1日現在の税率に基づき、所得税は復興特別所得税を含めて計算。住民税均等割については5,000 円。

上記表の金額は年間の節税額となるため、長期間加入した場合には多額の節税効果を見込めることになる。小規模企業共済の節税額の計算については中小機構HP「加入シミュレーション」で試算可能である。

・掛金や加入年数による受取額の違いは?

掛金の月額が1万円の場合の、納付年数による共済金等の額は下記表の通りとなる。なお、共済金A・共済金B・準共済金の額は源泉徴収前の共済金等の額のため、掛金月額・契約期間によっては手取額が掛金合計額を下回る場合がある。

【掛金月額1万円の場合の共済金等の額】

掛金納付年数5年10年15年20年30年
掛金合計額600,000円1,200,000円1,800,000円2,400,000円3,600,000円
共済金A621,400円1,290,600円2,011,000円2,786,400円4,348,000円
共済金B614,600円1,260,800円1,940,400円2,658,800円4,211,800円
準共済金600,000円1,200,000円1,800,000円2,419,500円3,832,740 円
解約手当金掛金の納付月数に応じて掛金合計額の80%~120% 相当額が受け取れる。
掛金の納付月数が240ヵ月(20 年)に満たない場合は掛金合計額を下回る。

解約をした場合には「解約手当金」を受け取れるが、掛金納付月数が240ヵ月に満たなければ解約手当金が掛金の合計額を下回るため、早期解約のタイミングには注意が必要である。

なお、共済金A・共済金B・準共済金は、個人事業主・法人の経営者・共同経営者ごとに、下記の事由に該当した場合に受け取れると定められている。

【共済事由ごとの受取の条件と共済金の額】

済金等の種類請求事由
共済金A【個人事業主】
個人事業を廃業した場合(※1)
共済契約者の方が亡くなられた場合
【法人(株式会社等)の役員】
法人が解散した場合
【共同経営者】
個人事業主の廃業に伴い、共同経営者を退任した場合(※2)
病気や怪我のため共同経営者を退任した場合
共済契約者の方が亡くなられた場合
共済金B【個人事業主】
老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方)
【法人(株式会社等)の役員】
病気、怪我の理由により、または65歳以上で役員を退任した場合
共済契約者の方が亡くなられた場合
老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方)
【共同経営者】
老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方)
準共済金【個人事業主】
個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなったため、
解約をした場合
【法人(株式会社等)の役員】
法人の解散、病気、怪我以外の理由により、
または65歳未満で役員を退任した場合
【共同経営者】
個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなったため、
解約をする場合
解約手当金【個人事業主】
任意解約
機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合)
個人事業を法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、
解約をした場合
【法人(株式会社等)の役員】
任意解約
機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合)
【共同経営者】
任意解約
機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合)
共同経営者の任意退任による解約(※3)
個人事業を法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、
解約をする場合

小規模企業共済金等の受取方法

共済金等は「一括受取」「分割受取」「一括受取と分割受取の併用」の3種類の受取方法が選択可能である。

一括受取は全ての共済金等で選択可能だが、分割受取・一括受取と分割受取の併用を選択する場合には、下記の要件をすべて満たす必要がある。

1.分割受取:共済金A・共済金Bで選択可能
・共済金の額が300 万円以上
・共済のきっかけが発生した時に60 歳以上

2.一括受取と分割受取の併用:共済金A・共済金Bで選択可能
・共済金の額が330 万円以上
・分割受給の共済金額が300 万円以上で、さらに一括受給の共済金額が30 万円以上
・共済のきっかけが発生した時に60 歳以上

共済契約者が死亡した場合の請求においては、上記の要件満たなくとも共済金を受け取ることができる。

分割共済金は10年・15年受取が選択でき、共済金の額が同じであれば15年受取のほうが受取総額は多くなる。分割対象となる共済金ごとの受取額は下記の通りとなる。

なお一度分割受取を選択した場合には、その後分割受取の中断をすることができず、未払い部分の共済金の繰上請求をすることは不可となる。ただし受取期間中に契約者が死亡した場合には、その相続人は未払いの分割共済金を一括して繰上請求することができる。

【分割共済金の額】

・10年分割受取の場合

共済金の額(分割対象額)2ヵ月ごと(月額換算)受取総額
3,000,000 円52,500 円(26,250 円)3,150,000 円
5,000,000 円87,500 円(43,750 円)5,250,000 円
10,000,000 円175,000 円(87,500 円)10,500,000 円
15,000,000 円262,500 円(131,250 円)15,750,000 円
30,000,000 円525,000 円(262,500 円)31,500,000 円

・15 年分割受取の場合

共済金の額(分割対象額)3ヵ月ごと(月額換算)受取総額
3,000,000 円36,000 円(18,000 円)3,240,000 円
5,000,000 円60,000 円(30,000 円)5,400,000 円
10,000,000 円120,000 円(60,000 円)10,800,000 円
15,000,000 円180,000 円(90,000 円)16,200,000 円
30,000,000 円360,000 円(180,000 円)32,400,000 円

・共済金等の税法上の取り扱い

共済金等は、受取時の年齢や受取方法等で税法上の取り扱いが下記の通り異なる。65歳未満での任意解約や掛金未払による解約の場合には、一時所得となることが注意点となる。

受取方法税法上の取り扱い
共済金・準共済金の一括受取退職所得
共済金の分割受取公的年金等の雑所得
共済金の一括・分割併用受取(一括分)退職所得
(分割分)公的年金等の雑所得
遺族の共済金受取(死亡退職金)(相続税法上)みなし相続財産
65歳以上の任意解約又は65歳以上の共同経営者の任意退任退職所得
65歳未満の任意解約又は65歳未満の共同経営者の任意退任一時所得
12か月以上の掛金未払いによる解約(機構解約)の解約手当金受取一時所得

小規模企業共済の掛金の変更と注意点

掛金の増額・減額による掛金区分ごとの共済金の額

小規模企業共済の共済金や解約手当金は、掛金月額を500 円ごとに区分した「掛金区分」に応じて「掛金納付月額」が決められ、これらを合計した額となる。途中で掛金を増額・減額した場合には、その額は掛金納付月額が区分され、掛金や解約手当金の額にも影響する。

掛金の増額や減額をした場合の具体的受取額は下記の通りとなる。

【例1】
N 年4月に掛金月額1万円で加入した後、N+5 年4月に掛金月額を2万円増額し、その後N+10年4月にさらに2万円増額し、N+15年3月に個人事業を廃止した場合の基本共済金の額

5万円60ヵ月納付掛金区分C (合計60ヵ月納付)
4万円60ヵ月納付
3万円60ヵ月納付60ヵ月納付掛金区分B
(合計120ヵ月納付)
2万円60ヵ月納付60ヵ月納付
1万円60ヵ月納付60ヵ月納付60ヵ月納付掛金区分A
(合計180ヵ月納付)
N 年4月 N +5年
4月 
N +10年
4月  
N +15年
3月  
掛金区分共済金A
掛金月額掛金納付月数掛金合計額掛金区分ごとの基本共済金
A:10,000円180か月1,800,000円2,011,000円
B:20,000円120か月2,400,000円2,581,200円
C:20,000円60か月1,200,000円1,242,800円
合計5,400,000円5,835,000円

共済金として受け取る場合には、掛金区分ごとの納付月数が36ヵ月未満の場合にはその期間の掛金合計額が受け取れる。また36ヵ月以上の場合には所定の支給率を乗除して計算された額が受け取れるため、掛金合計額を上回る。なお納付月数が6ヵ月未満の場合には共済金は受け取れず掛け捨てとなる。

【例2】
N 年8月に掛金月額1万円で加入した後、N+8 年8月に掛金月額を1万円増額し、その後N+13年8月に掛金月額をさらに3万円増額し、N+14 年7月に掛金月額を1万円減額した後、N+21年2月に任意解約した場合の解約手当金の額

5万円11ヵ月納付掛金区分D
(合計11ヵ月納付)
4万円11ヵ月納付80ヵ月納付掛金区分C
(合計91ヵ月納付)
3万円11ヵ月納付80ヵ月納付
2万円60ヵ月納付11ヵ月納付80ヵ月納付掛金区分B
(合計151ヵ月納付)
1万円96ヵ月納付60ヵ月納付11ヵ月納付80ヵ月納付掛金区分A
(合計247ヵ月納付)
N 年8月 N +8年
8月 
N +13年
8月  
N +14年
7月  
N +21年
2月  
掛金区分掛金区分に係る掛金
納付月数に対する支給割合
解約手当金
掛金月額掛金納付月数掛金合計額
A:10,000円247ヵ月2,470,000円100.25%2,476,175円
B:10,000円151ヵ月1,510,000円88.75%1,340,125円
C:20,000円91ヵ月1,820,000円81.25%1,478,750円
D:10,000円11ヵ月110,000円80.00%88,000円
合計5,910,000円5,383,050円

解約手当金は、掛金区分ごとの納付月数が240ヵ月未満の場合には掛金合計額を下回るため、上記のように加入期間が240ヵ月を上回っていても、解約手当金が掛金総額を下回ってしまうケースがある。

上記2つの例共に納付月数が同じであれば増額・減額のタイミングは関係無く、例えば例1では、加入から掛金5万円を60ヵ月納付した後2万円減額して60ヵ月納付、さらに2万円減額して60ヵ月納付した場合の共済金Aの額も上記と同じとなる。

例2についても、掛金区分ごとの納付金額と納付月数が同じであれば、増額・減額のタイミングに関わらず解約手当金の額は上記と同額となる。

ただし今後、共済金・解約手当金の支給率や支給割合が変更された場合にはこの限りではない。

小規模企業共済の掛金の前納・後納

小規模企業共済の掛金は前納・後納が可能で、前納をすると前納減額金が一定額受け取れ、納付期限を過ぎて掛金を納付する際には、後納割増金が必要となる。後納割増金は、掛金の額につき年14.6%の割合で、納付期限の翌日から納付日の前日までの日数によって計算した額を上限に支払うことになる。

掛金を前納したときは前納月数に応じた前納減額金を受け取れるが、下記の方法で算出した額を毎年3月末に集計し、合計額が5,000円以上になった場合に、その年の6月に支払われる。

計算式:掛金月額×0.9/1,000×前納月数の合計

※前納月数の合計:翌月分(1)+翌々月分(1+1)+‥‥‥nか月分(n)
※nが12を超える場合には12として計算

【例1】
掛金月額5万円の共済契約者が当月分を含め12か月分(前納11か月)60万円を納付した場合
50,000円×0.9/1,000×(1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11)=2,970円

【例2】
掛金月額3万円の共済契約者が当月分を含め15か月分(前納14か月)45万円を納付した場合
30,000円×0.9/1,000×(1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11+12+12+12)=2,754円

掛金の掛止め・再開

小規模企業共済では、掛金の払込を一定期間ストップする「掛止め」や掛止めした掛金を再開することも可能である。ただし掛止めは次のいずれかの要件を満たす必要があり、期間6ヵ月または12ヵ月となっている。

1.所得がなく掛金の納付が著しく困難な時
2.災害に遭遇し、又は入院しているため掛金の納付が著しく困難な時

掛止め期間は、共済金等の計算のための共済契約期間には入らず、共済金等の退職所得控除額の計算のための共済契約期間にも入らない。また、掛金の払込を再開した後に、掛止め期間中の掛金を払い込むことができない点も注意が必要である。

小規模企業共済は、月額掛金や期間によって将来受け取れる共済金等の額が変わり、加入後に掛金を増額・減額した場合にも共済金等の額に影響がある。特に小規模企業共済では、「掛金区分」ごとの納付月数に注意しながら、将来のための準備をして頂きたい。(提供:THE OWNER

文・澤田朗(フィナンシャルプランナー・相続士)