3月分のサービス消費急減が反映できず、2次速報で大幅下方修正の可能性あり

1-3月期GDP1次速報は景気悪化度合いを過小評価する可能性大

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、3月以降の景気はサービス消費を中心として大幅に悪化しているとみられる。当然この悪化はGDP統計にもいずれ反映されるが、5月18日に公表される1-3月期GDP1次速報の段階では十分に反映しきれず、景気の悪化度合いを過小評価してしまう可能性が高い。またその後、6月8日公表の1-3月期GDPの2次速報において3月のサービス消費悪化分が改めて反映されることで、1次速報の結果から大きく下方修正される可能性があるだろう。このように、1-3月期のGDPは結果の解釈に注意が必要で、ユーザーが混乱する可能性があると思われる。本稿では、こうした事態が生じる理由について解説する。

GDP
(画像=PIXTA)

3月分のサービス関連統計が、GDP1次速報に反映できない

最大の問題は、3月分のサービス関連の経済指標の公表が遅く、GDP1次速報の推計に間に合わないことである。実際、GDPの供給側推計において、1次速報段階ではその四半期の最終月(1-3月期であれば3月)のサービス関連指標はほとんど反映できない。

GDPのサービス関連の基礎統計として最も利用されているのが「サービス産業動向調査」であり、宿泊、飲食、娯楽サービス、鉄道輸送、道路輸送、理容・美容、学習支援、物品賃貸、通信、放送、といったところはすべてこの統計をもとに推計が行われている。ただこのサービス産業動向調査はとにかく公表が遅く、当該月の翌々月末にならないと公表されない。他の主要経済指標と比べてほぼ1ヶ月遅れるイメージだ。今回問題となる20年3月分の結果も5月29日公表予定であり、5月18日に公表される1-3月期GDP1次速報の推計には間に合わない。

サービス産業動向調査の他の基礎統計としては「特定サービス産業動態統計」があり、これは結婚、葬儀、広告、情報サービス、インターネット附随サービスなどの推計に用いられている。サービス産業動向調査ほどではないがこの統計も公表が遅く、3月分の結果は5月14日の公表となる。1次速報(5/18公表)よりも前ではあるが、推計作業の関係で通常この統計は1次速報段階では最終月の結果は反映されない取り扱いとなっている。そのほか、航空輸送やその他運輸などでは別の統計が推計に用いられているが、これらも1次速報には間に合わない。要するに、ほとんどのサービス関連指標は最終月の結果がGDP1次速報に反映できないということだ。反映できるのは住宅賃貸料や金融関連くらいのものである。

基礎統計の公表がGDPの推計に間に合わない場合、その指標については仮置き値が用いられる。サービス産業動向調査や特定サービス産業動態統計の場合では、1、2月平均の前年比の値を用いて3月分の値が仮置きされている。その後、2次速報段階では3月分の結果も公表されているので、仮置き値を実績値に置き換えて改めて推計がされることになる。

サービス消費の変動は比較的小さいため、通常であればこれで大きな問題になることはない。だが、今回は違う。外出自粛やイベントの中止などの動きが一気に強まったのは2月末からであり、1、2月の段階では新型コロナウイルスの悪影響が明確な形では生じていない。そのため、この1、2月平均の伸びを用いれば、「3月もあまり悪影響を受けていない」という形で3月分が仮置きされることになる。だが実際は3月のサービス消費が急減したことは間違いないため、仮置き値と経済実態に大きな乖離が生じることになる(※1)。

なお、GDPの個人消費の推計に際しては、供給側統計だけでなく、需要側統計も用いられる。具体的には、需要側統計から作成された「需要側推計値」と供給側統計から作成された「供給側推計値」を統合することで求められる「並行推計項目」を作成。それに、需要側・供給側の別なく推計する「共通推計項目」を加えて個人消費が推計されている(※2)。 需要側統計は家計調査や家計消費状況調査が基礎統計だが、3月分の公表日は5月8日であり、この結果は1次速報にも反映される。そのため、3月分のサービス消費の悪化がGDP1次速報で全く反映されないわけではない。もっとも、以前は家計調査等の需要側推計がGDPの結果に大きな影響を及ぼしてきたが、数度の推計方法改定を経て、現在では需要側統計がGDPの個人消費に与える影響はかなり小さくなっている。具体的には、供給側推計値と需要側推計値を合成する際の比率は0.76と0.24であり、需要側の比率はかなり小さい(かつては概ね1 対1の比率だった)。また、需要側と供給側を統合して求める「並行推計項目」自体、国内家計最終消費支出に占めるシェアは約4割であることを踏まえると、需要側統計がGDP個人消費推計に占める割合はせいぜい1 割程度に過ぎない。

結果として、5月18 日に公表される1-3月期GDP1次速報では新型コロナウイルス感染拡大による3月分のサービス消費悪化を反映しきれず、景気の落ち込み度合いを過小評価する可能性が高い。仮に1-3月期のマイナス幅が小さくなったとしても、その結果を鵜呑みにしない方が良いだろう。一方、5月29日公表の3月分サービス産業動向調査の結果が反映されることで、6月8日公表の1-3月期GDPの2次速報の結果は、1 次速報から大きく下方修正される可能性があることに注意が必要である。このように、1-3月期のGDPはコロナウイルスによる経済への打撃を1次速報段階では反映しきれないとみられ、結果の解釈に注意が必要である。

加工統計であるGDPとしては仕方のないこととはいえ、最重要統計ともいえるGDP統計が経済実態を正しく反映しきれないことの問題は無視できない。経済のサービス化が進むなか、サービス業の動向を把握することの重要性は日々増している一方、サービス関連統計の整備はなかなか進まず、結果公表のタイミングも他の統計と比較してかなり遅い。今回の事態が生じる原因である「サービス関連の基礎統計の公表の遅さ」については早急な改善が求められる。 (提供:第一生命経済研究所


(※1) サービスだけでなく、財についてもこの問題は生じるため、ここでも景気実態の反映は不十分なものになる。財の基礎統計には「生産動態統計」が最も多く使用され、次いで「鉱工業出荷」が用いられる。鉱工業出荷は3月分が1次速報推計に間に合うが、生産動態統計は間に合わない。ただ、一部の生産動態統計の3月分の仮置きは、鉱工業出荷の情報を用いた形で行われる(類似する鉱工業指数と物価の前月比で延長)。出荷指数は1次速報に反映されること、生産動態統計の一部では出荷指数の情報を用いた延長が行われること、を踏まえると、サービス消費ほどの問題は生じないとみられる。

(※2) この他に「財貨・サービスの販売」もあるが、国内家計最終消費支出に占める割合は1割未満。


第一生命経済研究所 調査研究本部
経済調査部長・主席エコノミスト 新家 義貴