4月16日に政府は、緊急事態宣言を7都府県から47都道府県に広げることを決めた。それが5月6日の期限で終わればよいが、そこには延長リスクがくすぶる。そこで、コロナ・ショックがより長期化したときの打撃について考えてみることとした。
緊急事態宣言を47都道府県に広げる
安倍首相は、緊急事態宣言の対象を47都道府県に拡大することを4月16日に決めた。4月7日に東京都を含む7都府県に宣言を出してから9日後のことである。
その期限は、同じく5月6日となっているが、心配なのはより長期化するリスクである。東京都の週末自粛も1週間だけでは済まなかった。学校の休校も延長されている。国内だけではなく、海外でも都市封鎖を延長する動きがある。企業の間でも、こうした延長リスクが強く警戒されている。
政府の緊急事態宣言の拡大で疑問が残るのは、休業補償を伴わずにそれを実行しているところだ。必要なのは国民1人10万円よりも、企業を守ることで間接的に雇用者を保護することだろう。これは、給付金が不要か否かというよりも、それより先に企業・雇用を保護する手当ての方が優先順位を前に持ってこないといけないという考え方に基づく。
東京都では、国の方針とは別に50万円の休業補償を行うことを決めた。他の道府県が同様の措置を実施できるかどうかは微妙である。それに、50万円の補償金で中小企業が安心できるかという問題もある。
もしも、5月6日の期限までに緊急事態宣言が終了せず、補償なき休業が続くとしたならば、経済活動はより大きな打撃を受けるだろう。
家賃はどうなるか?
人と人との接触を減らそうとすると、サービス業への打撃は特に大きい。宿泊・飲食業は、すでに最も苦しい業種となっている。緊急事態宣言で、それらが必ずしも休業要請の対象とはならなくても、非常に厳しい状況に変わりはない。いや、外出自粛が極力8割になることで、打撃はより大きくなるとみた方がよいだろう。
もしも、収束までの我慢が1か月から2か月間へと長引いたとき何が起こりそうか。事業者は収入を得られないまま、2か月間を耐えなくてはいけない。企業活動では、売り上げの増減とは関係なくかかる費用として、固定費がかかる。人件費や不動産賃料、金融費用、光熱費、広告宣伝費、研究開発費などがある。例えば、飲食店が1か月間休業するとしても、その1か月間は家賃などを支払い続ける必要はある。おそらく、その飲食店が2か月分の家賃を支払って、手元資金が乏しいと感じると、次に家賃交渉を行って、猶予を申し出るか、家賃引き下げを要請するだろう。店舗のオーナーは、次のテナントを探すことに不安を抱いて、猶予や値下げに応じる可能性は十分にある。
筆者の見方は、休業の長期化は、賃料の引き下げを広範囲に誘引するというものだ。それによって、不動産価格は下がるだろう。一時、東証REIT 指数は、それまでの約半値に価格が急落した。コロ ナ危機が不動産市況を下押しする理由は、自粛の長期化を警戒したからだろう。
損失が金融機関と政府に広がる
不安なことは、ホテル・飲食店・レジャー施設などの業績が回復しにくく、債務返済能力を失うことである。外出自粛が長引くと、苦しんでいる事業者に貸付けた資金が徐々に不良債権化する。無利子・無担保で貸付けた資金は回収しにくく、金融機関側への損失も大きいと思われる。
現状、民間金融機関は、マイナス金利政策の長期化によって、以前よりもはるかに体力を落としている。不良債権を抱えて持ちこたえられる体力がどのくらいあるかは厳しいものがある。
マクロ的に、金融システムの痛みが大きいときは、その損失を政府がいくらか肩代わりせざるを得なくなる。2010年代初頭の欧州債務危機をみてもそうであった。その不安が、日本にも生じてくる可能性がある。
ストック面での打撃
コロナ危機は、日本経済よりも、欧米経済の方が、実質GDP 成長率の落ち込み幅では大きいとみられている。そうした予想値をみて、日本の方が軽いと判断できるからだろうか。
今回の経済への打撃は、非製造業の中の消費者向けビジネス、B to Cの分野ほど大きい。製造業や事業者向けビジネス、B to Bの分野は相対的にまだ傷は深くない。
日本のB to Cの分野は、長期化するデフレによって、利益率が十分に回復できないままだった。そこへコロナ危機に見舞われた。もともと脆弱だった収益基盤に、休業によるダメージが加わった。従って、欧米経済に比べて、ストック面での悪影響は軽いとみてはいけないだろう。
2021年7月に東京五輪が開かれて、それがホテル・飲食店・レジャー施設にはプラスになる。ただ、それも地域差があるとみられる。むしろ、人口減少が2020年代にかけて重みを増していくことは、厳しい展望になるだろう。
さらに言えば、日本の財政にももっと厳しい未来が待っている。危機時の積極的な財政出動は仕方ないとしても、残された債務を返済するめどは以前よりも立ちにくい。 (提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生