かつてカリスマファンドマネジャーと呼ばれたレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長。今回の「コロナショック」を前に、現金ポジションを引き上げるなど、事前にリスク対応を進めたという。運用する投資信託「ひふみ」の方針である「守りながらふやす長期運用」を実践した形だ。藤野社長に、現在のマーケットを分析していただくとともに、ここから有効な投資スタンスを聞いてみた。
国内・外資大手投資運用会社でファンドマネジャーを歴任後、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。主に日本の成長企業に投資する株式投信「ひふみ投信」シリーズを運用。JPXアカデミーフェロー、明治大学商学部兼任講師、東京理科大学上席特任教授。一般社団法人投資信託協会理事。
※「ZUUonline magazine」6月号に掲載のインタビューをノーカットで掲載。インタビューは3月中旬に行ったもの。
現金ポジションを高めた理由
2月半ばから1週間ほどかけて運用資産のキャッシュポジションを高めた。レオスキャピタルの運用方針はもともと現金のポジションを上げ下げする投資をしていない。原則、長期投資で、銘柄選択で勝負するというスタンスであり、現金の出し入れで付加価値を高める投資手法は採用していない。ただし、現金比率を50%まで上げられる仕組みにしている。
まだ、ファンドマネジャ―時代だった2000年、PER(株価収益率)100倍から200倍の銘柄がどんどん上がっていった。株式市場はこのようなバブルが生じるときがある。しかし、こうした相場の変調を感じ取って現金化しようとしても株式の組み入れ100%を前提にするファンドが多く、厳しいと思っても買わざるを得ない状態があったことの経験から、現金ポジションを機動的に引き上げるシステムを組んでいた。
今回、現金ポジションを高めた理由は、コロナショックによる相場の下落を確信したためだ。しかし、コロナウイルスの蔓延をマーケットは当初、特に米国が過小評価していた節がある。コロナウイルス感染の実態が表面化していけば、相場は暴落する。このウイルス感染拡大の局面で、株価が上がる要因はまず考えられない。さらに、米国の株式水準は史上最高値にもあった。ここから上がる可能性があるかというと小さく、リーマンショック、場合によっては1930年代の世界大恐慌に迫ることが生じる事態も想定された。アクティブ運用のよさを見せるチャンスでもあり、これが理由だ。
2月14日、千葉県の20代のサラリーマンが感染ルート不明で新型コロナによる感染が確認された。このときの日経平均はまだ2万3000円台水準、NYダウは2万9500ドル近辺だった。メディアの報道で、大型客船「ダイヤモンドプリンセス号」の感染拡大のニュースが大きく報道されて、日本株が下げ始めていたころだ。
振り返ると、昨年12月下旬に中国・武漢で新しい病気、風土病のようなものが出始めたとの第一報が日本国内であり、それが年明け1月になって広がり、春節のインバウンドで緊張感が増したという流れがある。韓国、日本、イランの感染者数が増加するなか、新型コロナウイルスはアジアならびに中国の特殊な問題だと思われていた。
当時は、1日、1日が勝負だと考え、現金ポジションを高めるため、株式の売却をスタートさせた。目標はキャッシュ比率40%だったが、まずは30%超を目標とした。毎日200億円、300億円、場合によっては400億円を売り続け、結果的に2000億円のキャッシュを作り、全体で31.5%の現金比率になった2月24日にNYダウが前日比1000ドルを超える下げをみて、これに連動して日本株も下げが本格化した。
米国でNYダウ暴落が起きた引き金は、イタリアで感染者が急増したためだ。ようやく、新型コロナウイルス問題は、アジアだけでなく欧米の問題でもあることに気が付いた。そして、NYダウが下がるのと連動して米国での感染者数も増えていったのがここまでの流れだ。
ウイルスに強い日本の文化と制度が相場の強みに
コロナショックによる暴落後、ここからのマーケットがどの程度下がるかどうかは、新規感染者数と死亡者もしくは回復者の差分が視点となる。もちろん増加の限りは状況の悪化が継続する。しばらくは感染者数の拡大が予想され、世界の中で新型コロナの影響がネガティブに働くのが米国とみられる。米国は軍事力、経済力、文化発信力も世界トップだが、感染症に非常に弱い国だったという欠点が表面化した。これを受けて、米国株が下がれば日本株も影響を受ける。ただ、皮肉だが、日本は相対的に感染症には強かった。
米国株の上昇に対して日本株の上昇が鈍く魅力的でないといわれてきたが、しばらくは米国株の不調が続く中で、相対的に日本株が評価される状態が長く続く可能性がでてきた。