鋭い相場観が好評で、テレビ出演、講演と多忙な複眼経済塾取締役・塾頭のエミン・ユルマズさん。「今回のコロナショックによる相場下落はコロナがすべてではない」と分析するのに続き、コロナ収束後の日本経済は新たなステージに入るという。30年後に日経平均30万円の見方を持つエミン・ユルマズさんの展望を語ってもらった。
トルコ・イスタンブール出身のエコノミスト。2004年に東京大学工学部化学生命工学科卒業、2006年東京大学新領域創成学科修士課程修了後に、野村證券に入社。M&Aアドバイザリー業務、機関投資家営業部、外国株式営業部を経て、2014年野村證券を退社。2015年に四季リサーチ入社、2016年に現職に就任。
※「ZUUonline magazine」6月号に掲載のインタビューをノーカットで掲載。インタビューは3月中旬に行ったもの。
割高米国株の調整の引き金だったコロナショック
今回の相場下落はコロナがすべてではないとみている。昨年秋以降、ツイッターなどで警告してきたが、上場しているすべての時価総額の合計をGDP(国内総生産)で割った値である米国株はすでに割高だった。バフェット指数でみると、コロナショック前は約160%まで上がっていた。ヒストリカルにみて、80%が妥当な水準だ。国にあるのはすべてが上場企業ではないので、上場企業以外でもGDPに貢献している企業はある。大きく見積もっても100%前後であり、米国はこれを超過し過ぎていた。
もう一つの指標はPSR(株価売上高倍率)。時価総額対売上高比率でS&P500では2.4倍まで上がっていた。市場のFANGといわれているIT大手では6倍、7倍まで跳ね上がっていた。つまり、売上高が20兆円、30兆円しかないのに時価総額が100兆円を超えていたという状況だった。PSRにおいて、成長企業においては高くなる側面はあるが、基本的に1倍前後がフェアバリューであるはず。今からアップルやアマゾン・ドットコムの売上高が1兆ドルになるかというと、おそらくならない。ということを総合的に考えると、もともと米国株は割高だった。何かをきっかけに株価は下がると想定していたが、今回はコロナウイルスが売られる表の口実になったといえる。機関投資家は、何か理由がないと売れない。起こるべきして起きた市場の急落だった。
今後のコロナウイルスの影響について考えると、経済的、社会的自粛をやりすぎるとコロナウイルスの被害以上の被害が出る。米国ではサービス業がGDPの67%とほぼ7割を占める国で、国を1カ月止めるだけでも大変な経済損失になる。給料が出ないだけでなく、欧米は「チップの文化」なので、サービス業に従事する彼らの経済的な困難をどうするかという問題にもなる。自粛をやりすぎると景気後退を長引かせることになって、結果的に社会的な被害が大きくなると思う。
さらなる問題は「自粛をいつまでやるか」ということになる。根本的なワクチンがない以上は再び感染が拡大する可能性もある。全世界で自粛をやめることが必要になってくる。私のメインシナリオとしては、初夏の時点で「極度な」自粛は終わり、コロナの話は一度落ち着くと考えている。
そして、景気が今年の後半から回復していく。但し、V字回復とはいかないかもしれない。コロナショック前が前バブル的な景気状況だったので、V時よりもU字型の回復となるだろう。自粛が長引けば当然ダメージが長引き大きくなる。仕事を失った労働者の再就職のあいだ、消費が低迷し不安心理が拡大、特効薬ができない限りは、感染の再拡大、失業恐れなどの不安を100%取り除けないのでV字回復とはいかないというのが通常の見方だ。
リーマンショックほど相場の低迷は長期化しない
ただし、リーマンショックほど悲観はしていない。その理由は、リーマンショックはどの程度の危機なのかが、わからなかった。どの金融機関がどれだけ不良不動産担保証券やデリバティブを抱えているかわからなかった。まるでブラックホールに当時は見えた。
今回は理由がショックの根本的原因が、コロナウイルスだとはっきりしている。ワクチンができれば、またできる流れが見えてくれば相場は戻る。リーマンショックほど長期化するとは思っていない。リーマンは調整も長かった。始まりが2007年のパリバショックで、2008年にリーマンブラザーズが倒産して本格化した。そして、安値を付けたのが2009年とタイムラグが生まれていた。2年間に及ぶ低迷だった。
今回は特徴として株価の調整が早い。約3週間で史上最高値からベアマーケットに入った。これは今までないようなスピード調整だった。なぜ早かったかというと、原因がはっきりしているからだ。ゆえに、原因が取り除かれるとわりと早くマーケット自体は底打ちする可能性がある。
ただし、相場と異なり消費者のマインドが戻るまでは時間がかかる。経済的な減速は、感覚的には9.11(米国の同時多発テロ)に近いかもしれない。当時は一番被害を受けたのが航空会社、観光業だった。一過性の事件だったが、その後米国の消費マインドは冷え込んで、外出も控えられた。