要旨

● 17日に緊急事態宣言の対象範囲が全国に拡大した。経済への影響は地域、業種、時間の3軸で広がるリスクが高まっている。この3つの軸の観点から、影響拡大リスクを試算した。

● 明らかになるのは、時間軸、事態の長期化が経済活動に深刻な影響を及ぼすことである。また、建設業や製造業が休止に追い込まれる場合、相対的に地域経済への影響が大きくなる。経済活動の自粛が地域軸、業種軸で広がりを見せる場合には、これまで都市圏中心であった新型コロナウイルスの経済影響はより広範なものとなるリスクがある。

● 今後、3軸のそれぞれで影響が拡大するリスクがある。政府は、財政政策の追加を含め政策を柔軟かつ大胆に切り替えていく姿勢が必要となろう。また、経済への影響を極小化する視点も重要だ。家計、企業の不透明感を払拭するために、自粛状態からの出口のステップを示していくことも今後求められることであろう。

リスク,RISK
(画像=PIXTA)

3つの軸で経済への影響が広がるリスク

新型コロナウイルスの感染拡大は、外出の自粛などを通じて経済活動に甚大な影響を及ぼしている。経済への影響は以下に示す3つの軸で整理することができよう。その3軸すべてにおいて、経済への影響が拡大するリスクは高まっている状況だ。

第一の軸は「地域軸」である。当初は「1都1府5県」を対象としていた緊急事態宣言は、17日にその対象地域を全国とすることが決定。また、特に感染拡大が深刻な地域として、従来の「1都1府5県」に加えて6道府県を加えた13の都道府県を「特定警戒都道府県」と位置付けることとなった。これによって、旧緊急事態宣言並みの影響が全国に及ぶとみるのは行き過ぎに思われるが、少なくとも「特定警戒」に指定された13都道府県では、経済活動の自粛が相応に広がると考えられる。

第二の軸は「業種軸」である。足元、緊急事態宣言やそれに伴う自粛要請、訪日外国人数の激減などに伴って、大きな影響を受けているのは、対個人サービス業や小売業などの個人消費関連業種が中心だ。製造業には、自動車などをはじめとした需要減の影響から工場の稼働停止を決定する動きは生じている。しかし、多くの企業は現時点で感染拡大によって工場を閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれているわけではない。しかし、ここにきて建設業では、大手ゼネコンの工事現場で感染が広がったことを受けて、工事中断を決定する動きが広がっている。次なるリスクは、こうした動きの製造業への伝播である。個人消費関連以外の業態にも影響が広がれば、その深刻度合いは一段フェーズを高めることになる。

第三の軸は「時間軸」である。緊急事態宣言の期間は大型連休の5月6日までとされているが、そこで感染が終息に向かっている保証はない。中国の武漢での都市封鎖の期間は約2か月半にわたっている。早期の感染終息が難しい場合には、強制的な経済活動停止状態が長期化するリスクがある。

この3つの軸を意識して、経済への影響把握を試みたものが、以下の資料1である。内閣府の公表している県民経済計算をベースに、支出項目毎の消費や建設業・製造業の生産額にそれぞれ一定の影響が生じると仮定したうえで、平時との差分を試算(※1)し、GDPへの影響をみた。時間軸として、緊急事態宣言に伴う経済活動の自粛が「1カ月」、「2カ月」、「3カ月」続いた場合、自粛が「1都1府5県」(対象地域拡大前)、「特定警戒13都道府県」、「全国」にわたった場合、経済への影響が「消費とインバウンド需要の減少」「建設業の工事停止が加わる」「さらに製造業の稼働停止が加わる」場合のそれぞれ3パターンに分け、影響を試算している。(仮定は資料1の注釈を参照)

緊急事態宣言、経済リスクの検証
(画像=第一生命経済研究所)

資料1から明らかになるのは、時間軸、つまり事態の長期化が経済活動に深刻な影響を及ぼすことである。1か月であっても兆円単位の影響が生じているが、これが2カ月、3カ月と続くとそれに伴って影響は深刻化していくことになる。さらに、消費やインバウンドへの影響にとどまらず、建設業や製造業が企業活動停止に追い込まれた場合の影響も大きい。なお、建設業や製造業の産業シェアは地方経済ほど高い傾向がある。地域軸、業種軸のリスクが顕現化する場合、相対的に地域経済への影響が大きくなっていく。都市部・個人消費関連に集中していた新型コロナの影響はより広範なものへ変質していくことになる。

なお、この試算はあくまで初期的なインパクトの試算である。特に、建設業や製造業は関連業種の裾野が広く、他産業への波及効果が大きいという特徴もある(資料2)。これらを含めば経済への影響は試算値より膨らむことになると考えられる。

緊急事態宣言、経済リスクの検証
(画像=第一生命経済研究所)

以上、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を3つの軸で整理した。今後、それぞれの方向で影響が拡大するリスクがある。その際に必要なことは、政策を柔軟かつ大胆に切り替えていく姿勢であろう。政府はすでに緊急事態宣言の発令に合わせて経済対策を組んでいるが、刻一刻と変化する情勢に合わせて、財政政策を追加することも必要になってくるだろう。

また、感染拡大の抑制を目指す中で、経済への打撃を極小化する視点も重要になる。将来的には、感染拡大が落ち着いてきた段階で、徐々に経済活動を正常化させていくことになると考えられる。家計、企業の不透明感を払拭するため、自粛状態からの出口のステップを示していくことも今後求められることであろう。(提供:第一生命経済研究所


(※1) 緊急事態宣言に伴う追加的な押し下げ幅ではない。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也