真水額は19兆円→28兆円に増額、財政赤字は過去最大規模へ
要旨
● 政府は20日、4月7日に閣議決定した緊急経済対策を修正のうえ再び閣議決定した。家計向けの現金給付を「低所得世帯に30万円」→「一人あたり一律10万円」に切り替えたことに伴うもの。同対策の国費部分にあたる2020年度補正予算も修正。地方分も合わせた国・地方の歳出額(真水)は19兆円→28兆円に増額されている。
● 補正予算の追加と税収減によって、財政赤字は過去最大規模となる見込み。従来、政府は2025年の基礎的財政収支の黒字化とそれに向けた2021年度の中間目標を掲げていた。少なくとも2021年度の財政指標には影響が出ざるを得ず、財政再建計画も軌道修正を迫られよう。
家計に一律10万円を支給へ
2日に政府は緊急経済対策を修正したうえで再度の閣議決定を行った(※1)。予算案の閣議決定やり直しは、直近では2019年度の当初予算案がある。この際には、毎月勤労統計の不適切調査問題で生じた対応費6.5億円を計上し直している。今回は修正額の規模が大きいほか、補正予算で閣議決定のやり直しを行ったことはなく、この点で異例の事態となった。
今回修正されたのは家計向けの現金給付だ。当初は住民税非課税世帯などの要件を満たす世帯に30万円を支給するものだったが、一人当たり10万円を一律に支給するものに変更された。支給事務の運用がシンプルになり、支給の迅速化に寄与するものとなろう。家計向け現金給付の予算額は支給対象が広がったことで、当初の4.0兆円から12.9兆円に大幅に増額されている。これを反映した経済対策のフレームが資料1だ。国と地方の支出額(いわゆる真水)は当初の19兆円から28兆円となる。
財政再建計画は軌道修正を迫られよう
大規模な財政出動を通じ、一旦は財政赤字は大きく拡大することとなる。今回の緊急経済対策を踏まえ、2019年度・20年度の財政収支を推計したものが資料2である。現状を踏まえると、財政赤字はリーマン危機後の2009年度を上回る可能性が高く、過去最も財政赤字(GDP比)が大きくなったアジア通貨危機後の1998年度に匹敵するレベルになろう。今後、更なる財政出動が検討されることも考えられ、1998年度を上回る財政赤字額となる可能性も十分にある。先進各国も大規模な財政出動に踏み切っており、各国の財政赤字も大きく膨らむことになる。
日本では、2025年度の国・地方基礎的財政収支の黒字化目標、それを踏まえた2021年度の中間目標を据えた財政再建計画が組まれている。今後の終息度合いにもよるが、コロナ・ショックや一連の財政出動は少なくとも2021年度の財政指標には影響を残すことになるだろう。財政再建計画も軌道修正を余儀なくされる可能性が高いのではないか。(提供:第一生命経済研究所)
(※1) 修正前の緊急経済対策の概要はEconomicTrends「緊急経済対策 108兆円の解剖~本当の真水額はどれほどか?~」 (2020年4月8日発行)を参照。http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2020/hoshi200408.pdf
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 副主任エコノミスト 星野 卓也