シンカー: 先週火曜日に発表されたIMFの世界経済見通し(WEO)では、新型コロナウイルスの影響により、2020年の世界経済の実質GDP成長率が-3.0%に落ち込むと予想されている。前回1月時点の予想では+3.3%となっていた。IMFチーフエコノミストのギタ・ゴピナート氏は、世界経済の見通しは1月時点から“劇的に変化”し、12年前の金融危機の影響を小さく見せてしまうほどだとしている。2021年の世界経済の成長率は+5.8%と財政面の支援などから正常化が見込まれるが、リバウンドの強さがどれくらいになるかは不透明で、その後の成長率は新型コロナウイルス以前のトレンドを下回る可能性が高いとみているようだ。

各社ともカバーしてない国はIMFの予想を前提にすることが慣例になっている。よって、グローバルな成長率の前提が大きく引き下げられることになる。日本では、政府の緊急事態宣言の地域拡大などによる活動自粛も大きくなっている。グローバルな成長率の前提の引き下げの影響と合わせて、SGの2020年の実質GDP成長率予想を-1.0%から-1.7%へ下方修正した。下方修正幅があまり大きくないのは、4月に決まった経済対策が国民一律給付金などで規模が拡大(新たな財政措置としてGDP比5.5%程度から7.5%程度へ)すること、秋までにV字回復を促進する追加経済対策(GDP比1%程度)が実施されることを織り込んでいるからだ。数か月で新型コロナウィルス問題が終息に向かえば、成長率は年後半にはペントアップ需要を含めて強くリバウンドするだろう。堅調な雇用所得環境に支えられ、新商品・サービスの投入もあり、消費は回復していくだろう。企業の設備投資サイクルも堅調さを取り戻すだろう。原油安も支えだ。グローバル景気回復下で、オリンピック開催の2021年には、成長率は潜在水準(1%程度)を大幅に上回る+2.7%(+2.0%から上方修正)にV字回復し、2022年にデフレ完全脱却となろう。外需ではなく、消費と設備投資が両輪の内需拡大が成長を自立的に牽引するだろう。条件は、雇用の大幅な調整と企業のデレバレッジの再燃がなく、5月上旬までに非常事態宣言が解除され、5月末までには中国との貿易関係が十分に機能し始め、6月末までに生産活動が底打ちを始め、それまでに年初からの二つの大規模な経済対策の効果がしっかり出るとともに、その後にV字回復を促進する新たな経済対策が出ることだろう。

SGのアセットアロケーションチームのグローバルな基本シナリオでも、新型コロナウイルスの感染が 4-6月期にピークに達し、その後は非同期的に(アジアが最初)、かつロックダウンの際よりも緩やかに、そして何より秩序ある形で(つまり、市場のボラティリティはより抑制される)下期にほとんどの人々が正常な活動に戻り、2021 年の V 字回復への道が開かれると想定している。ただし、現在発行されている全ての新規(ソブリン)債務の代償が待ち受けるため、その先の成長については楽観視しているわけではない。人々が仕事に復帰するための段階的かつ秩序あるプロセスを政策当局が十分に計画的に確保しなければウイルス感染の第 2 波の可能性があることは明らかだ。マンパワーの不足は農作物の収穫量低迷と、一部の農業コモディティ価格の急騰につながる可能性がある。グローバリゼーションに反対する動きと大規模な債務マネタイゼーションの結果としてインフレが発生する可能性がある。危機が落ち着いた後は反格差運動が勢いを増す可能性がある。これらのリスクも念頭に置いておく必要があるだろう。インフレリスクに頑強性があり、格差問題が小さい日本の経済とマーケットは、財政拡大と金融緩和の反動で経済政策が緊縮に向かわない限り(過剰な財政恐怖症を抱えたこれまでのストップ・アンド・ゴーの政策への政策当局の猛省とデフレ完全脱却への強い意志が必要である)、パフォーマンスが相対的に良好となる可能性がある。デフレ完全脱却の動きが過去の悲観心理を払拭できる可能性もあるだろう。日本株を比較的選好するポートフォリオを推奨する。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●米国経済(4/14): FRBが企業向け信用ファシリティを拡大

FRBは企業向け信用ファシリティを拡大した。金融市場にとって重要なことに、投資不適格債も買入れ対象に含めた。またFRBは、待望の「メインストリート融資ファシリティ」を発表した。FRBは信用チャネルを積極的に支援してきた。現在の買入れ期限は、プログラムの大多数で2020年9月30日となっている。だがFRBは延長する可能性があると述べている。FRBのバランスシートは、こうしたファシリティの限度に近づくにつれて大きく拡大すると見込まれる。量的緩和(QE)による米国債やMBS機関債の購入も、バランスシートをさらに拡大させるだろう。FRBのバランスシートは、さらに10兆ドル拡大するとみられる。

●英国経済(4/20): 企業のコロナ危機対応

ONS(国家統計局)は新型コロナウイルスの影響を調査(BICS)しているが、直近では回答を寄せた4分の1の企業が、一時的に事業所を閉鎖または取引を停止したと答えていた。企業が使用する労働力(雇用)の大幅削減で対応せざるを得なかったという結果も、至極当然と考えられる。だが調査結果でポジティブな点は、いまのところ企業は労働者の0.4%しか解雇しておらず、政府の雇用支援スキームを活用して同21.4%を一時帰休させていることだ。

●英国経済(4/15): BOEのW&Mファシリティ… 財政ファイナンスであるが、一般には知られていない形

英国財務省とイングランド銀行(BOE)は先週、BOEがウエイズ・アンド・ミーンズ・ファシリティ(W&Mファシリティ)を拡大すると発表した。目的は「新型コロナウイルス禍による混乱期に、キャッシュフローの円滑化や市場の秩序ある機能を支援するために必要となった場合、政府に追加流動性の短期的な源泉を供給すること」。このことは、BOEが政府支出を直接ファイナンスすることを意味しており、「財政ファイナンス」ということになる。実際には、これ(W&Mファシリティの拡大)は初めてではなく、新しくタブーを破ったわけでもない。今回と同じ目的で、最近では2009年に利用された。

●欧州経済(4/13): 財務相会合の合意、バズーカ砲とは名ばかり

ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)は2日間の議論の後に、新型コロナウイルス流行を受けたEU共同の財政対応を強める方法でようやく合意した。発表された金額(5,400億ユーロ)は大きく、3通りの財源からもたらされる(EU、EIB/欧州投資銀行、ESM/欧州安定化メカニズム)。だが弊社の推定では、その3分の1しか利用されない、またごく一部の国しか金融支援を要請しないと考えられる。また3種類のスキームはどれも、ユーロボンドやコロナ債とは見なされない(それらのスキームは、資金移転ではなく要請した加盟国への融資であるため)。コロナ債を巡る議論は、終わってはいないが後送りとなった。ECBの量的緩和(QE)プログラムが債券利回りを抑制している限り、中央(ECB)の金融支援能力の必要性が明確になる可能性は無いからだ。だがGDP成長率の構造的低下がひとたび明らかになり、債券利回りが上昇し始めれば、債務持続性の問題が再発する可能性がある。それを受け共通債発行のアイディアが(規模、範囲とも限定的とはいえ)再浮上することも考えられる。

●アセット・アロケーション(4/20): Mini MAP: クレジットと(アジアの)成長に照準

MULTI ASSET PORTFOLIO(MAP)は、アセットアロケーションに関する弊社の戦略的見解を提示する四半期レポートである。MINI MAPはMAPの長期的枠組みの中にとどまるが、アセットアロケーション変更においてタイミングの問題を考慮に入れることを可能にする。基本シナリオ:コロナウイルスの感染は2Qにピークに達し、秩序あるロックダウン解除が2021年のV字成長回復への道を開くが、現在発行されている全ての新規(ソブリン)債務の代償が待ち受けるため、その後の見通しはより厳しいものとなる。バランスのとれたポートフォリオを維持:2020年のリセッションは第2次世界大戦以降のどのリセッションよりもはるかに急激なものとなる可能性が高い。財政・金融投入の規模とスピードも前例がない。そうしたなか、弊社はバランスのとれたアロケーション(株式43%、債券43%)を維持するが、MAPポートフォリオにかなり大きな変更を加える。クレジットへのエクスポージャーを引き上げ:弊社は、信用危機の回避を明確に支持している政策当局の潮流に逆らうことはせず、クレジット(投資適格とジャンクの両方)のウェイトを僅か5%から23%に引き上げる。ソブリン債へのエクスポージャーを引き下げ:現在の超低利回りの中で、ソブリン債全体のウェイトを20ポイント引き下げて15%とする。株式へのエクスポージャーを若干引き下げ:最近の非常に力強いラリーと、依然残る業績・配当リスクを踏まえ、株式のウェイトをやや引き下げる(-2ポイントの43%に)。弊社はアジア(主に中国)を選好するとともに、欧州よりも日本を明確に選好する。コモディティへのエクスポージャーを引き上げ:金をプロテクションとして保持する一方で、他のコモディティについても底入れの可能性を見極め、中国および世界経済の回復に照準を合わせて原油以上にベースメタルへのエクスポージャーを引き上げたい。また、一部のコモディティ通貨についても底入れを見極めたい。

●債券市場(4/20):底入れを待ち望んで

全般的にV字型の景気回復が基本シナリオであることに変わりはないが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機の深刻さや持続期間をめぐり多大な不透明感がくすぶり続けている。局面を打開する真のゲームチェンジャーとなり得るのは、ワクチンの開発や治療法の確立など、持続性のある医療的な解決に限られよう。金利が上昇トレンドを開始するためには、景気見通しが決定的に改善され、経済の収縮が一段と深まるテールリスクが大幅に低下していく必要があろう。現在、米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)はいずれも最大限の支援を供与している。ECBが決定した適格担保要件の緩和措置は4月20日に発効する。その資産購入プログラムは、欧州における暗黙の債務相互化メカニズムと言ってもよい。

●債券市場(4/13):在宅ワークのための13チャート

イースターの週末に向けてリスク・センチメントが改善された一方、債券利回りの上振れリスクと下振れリスクは当面対称的な状態が続くと考えられる。米連邦準備制度理事会(FRB)のプログラムが軌道に乗れば、市場の流動性が改善されることから、利回りの安定化が期待できるはずだ。しかし、COVID-19カーブのフラット化(=新型コロナウイルス感染症の収束)の明確な兆しや、事態が正常に戻る可能性を見極める必要があるため、ウイニングランをするのは早すぎる。また、感染の再発や流行の再燃も深刻なリスクとして残る。こうした状況から、米国10年国債の利回りは第2四半期末までに0.40%で底を打ち、その後は今年いっぱい少しずつ上昇していく展開が見込まれる。同様に、経済の先行き不透明感が解消するまでは、ドイツ10年国債の利回りが-0.50%を大幅に上回るような状況も予想しがたい。利回りはまだ下振れの可能性を残しているが、緊急的な異例の景気刺激策が打ち出されたことを踏まえ、状況が好転すれば利回り急反発の方向にリスクが傾いていくと考えられる。このため、米国のイールドカーブは短期的にブル・フラット化しても、今年後半にはベア・スティープ化すると見込まれる。予想どおり、米独間の10年国債スプレッドは今年に入って劇的に、100BP以上も縮小してきた。今後3カ月間にわたり米国債利回りの低下が続けば、スプレッドはさらに15BP程度縮小する可能性も考えられよう。しかし、金融・財政刺激策の大きさからすると、景気回復局面では米国がその牽引役となり、米独10年国債スプレッドは拡大に転じると予想される。

●グローバルストラテジー(4/17):投資家には、低調なGDPよりもデフレの方がショックになる

エコノミスト達は、見込まれる景気後退の深刻さや回復の形態を議論することに時間を費やしているが、米国CPIが最近低下していることにはほとんど注目していない。投資家にとって、コアCPI低下は実体経済(GDP成長率)の低迷より遥かに大きなショックになると見込まれるが、気づいていない向きが多い。弊社も現在は「氷河期」から「大融解」への移行途上とみているが、その間の「大暴落」が短期的には主な投資テーマになるだろう。

●グローバルストラテジー(4/10):市場は、明らかになる景気低迷を見過ごせるのか

株式市場が上向いていることで、投資家の間には弱気相場の最悪期は既に終わったという期待が出ている。だが我々は(大方と同じく)、これは初期段階(弱気相場での一時的な反騰)に過ぎず真の弱気相場はこれから始まるのではないか、と考えている。言うまでもなく、経済封鎖が長く続けば続くほど、政府借入(債務)額のピーク時水準は高くなる。現在の民間セクター支援の大部分は銀行融資になっているが、リフレの暴風を吸収するために大規模な利益移転プログラムも実行されてきた。こうしたプログラムのコスト見通しは、すでに度を越して増加している。一例を挙げると、英国の、一時帰休となった労働者の賃金の80%を政府が支払うスキームのコストは、当初見込みの3倍になる可能性があると見込まれている。直近の推定では、英国の民間被雇用者の3分の1が一時帰休となり、政府が今後3カ月で負担するコストが300-400億ポンドになると示されている。これが意味するのは、政府によるこの「1種類の」企業支援だけで、年率換算でGDPの7%程度に相当するということだ。これは常軌を逸している。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司