食品・日用品の獲得といった日常生活の維持において、ネットのプレゼンスが向上

中国における2020年1-3月の小売総額は、前年同期比19.0%減の7.9兆元となった(1)(図表1)。新型コロナによる外出制限や収入減に伴う消費自粛を受けた形だ(2)。例年であれば、この時期は春節も含まれるため、消費が拡大するが、今般は、外食(前年同期比44.3%減)に加えて、宝飾類(37.7%減)、衣類(32.3%減)、自動車(30.3%減)や家具(29.3%減)など高額消費が急減し、消費全体が冷え込んだ。一方、基本的な日常生活を支える食品類(前年同期比19.2%増)、飲料類(4.1%増)、医薬品類(2.9%増)は消費が堅調に伸びている。

中国労働力,シェアリング
(画像=ニッセイ基礎研究所)

小売総額のうち、ネット販売(1-3月)をみると、全体としては前年比0.8%減(2.2兆元)となったものの、そのうち、商品(現物のみ、サービスなどを除く)の販売については5.9%増(1.9兆元)となった。ネットによる食品の販売は前年同期比32.7%増、日用品については10.0%増となった(図表2)。ネット小売額は小売総額の23.6%を占めるまで拡大し、前年同期と比べると5.4ポイントも上昇した。新型コロナによって消費全体が冷え込む一方、日々の生活を支える食品・日用品に消費が集中し、’巣ごもり消費’におけるネット販売のプレゼンスが向上した姿が見えてくる。

中国労働力,シェアリング
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)2020年1-3月における消費者物価指数は前年同期比4.9%と上昇。都市部は4.6%上昇、農村部は5.9%上昇であった。特に食品・タバコ類が14.9%上昇しており、その中でも生鮮野菜が9.0%、豚肉が122.5%と大幅に上昇した。
(2)2020年1-3月における平均可処分所得は0.8%増(CPIを考慮すると実質前年比3.9%減)の8561元であった。都市部の住民の平均可処分所得は前年同期比0.5%増(実質3.9%減)の11691元、農村部の住民は前年同期比0.9%増(実質4.7%減)の4641元であった。

短期労働などの雇用が不安定化、新たに生まれた人材・労働力の緩やかなシェアリング

消費のあり方の変化に伴って、労働需要や労働市場も変動する。国家統計局は、1~2月の労働市場について、新型コロナによる大きな影響を受けていると発表している。都市、農村部の失業率は5.3%(前年同期比0.1ポイント増)、6.2%(0.9ポイント増)と増加傾向にある(3)。1月~2月は生産停止の増加や事業停止の延長から、人員の大幅削減、失業率の上昇が目立った。ホテル、飲食、交通運輸、文化・娯楽施設などの人員削減が顕著で、特に、そういった事業で短期や一時的な契約で働く農村出身者の雇用の不安定化が問題となった。企業による人材募集は減少し、社会では働きたくても働けない人が急増していたのだ。

新型コロナによって注目されたのが’人材や労働力のシェアリング’だ。需要拡大するオンラインの事業者が、縮小するオフラインの事業者と直接提携し、一時的に人材や労働力を共有、借り受ける仕組みだ。例えば、飲食(レストラン)、娯楽施設、ホテル、百貨店で働いていた人材を、提携したネットスーパーやネット通販の受注作業や在庫管理業務などに一時的に配置転換するものである。これまで繁忙期のネット通販の配達員のシェアリングなど類似の仕組みは以前からあったが、2月8日にアリババグループのネットスーパー盒馬鮮生が提唱したことで、他事業にも拡大した。

今般、出現したシェアリングシステムは、多くが企業間で直接提携し、短期間、労働力を互いに融通しあう柔軟なシステムである。当初、盒馬鮮生が、窮状を訴えた外食チェーンの雲海肴や青年餐庁と提携したことに端を発している。外食チェーン側は営業休止という状況の中、自社の従業員に希望を募り、希望者は簡単な試験や研修を受けて、直接ネットスーパーに出勤するという形をとった。従事するのは、すぐ開始できる受注や在庫整理、棚出しなど基礎的な作業とし、給与は働いた時間で計算され、所属先企業が再開した場合はいつでも戻れることなどを基本条件としている。

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(3)国家統計局、「疫情冲撃下失業率情報統?政策実施将帯動就業形勢改善」、2020年3月16日

政府・企業・従業員・ユーザーの’四方よし’も、定着化には法的整備が必要

上掲のような仕組みによって、従業員は所属先企業の基本給と、出先で働いた時間給を合計して給与を受け取ることができ、休業中であっても生活を一定程度維持することができる。中国でもギグ・エコノミーとして単発で働くシステムもあるが、このシェアリングシステムは従来の雇用契約や役職、社会保険などの保障を維持することが可能だ。政府にとっては労働市場が一気に不安定化することを回避することができ、失業保険による給付も抑えることもできる。また、人材を引き受けた企業側にとっては業務の迅速化、効率化をはかることができる。ユーザーとしても待ち時間の短縮化など相互に利点がある。

盒馬鮮生はこのシェアリングシステムを通じて、3月20日までに50社と提携し、4,000人を確保している。また、同社に続いてウォルマート、京東、蘇寧、レノボなどネット販売のみならず他業種まで活用が広がっている。新型コロナという非常時に、労働市場で給与を引き上げて人材を奪い合うのではなく、企業の経営活動を相互に救済する特別措置と考えることもできる。盒馬鮮生は、このようなシェアリングシステムのプラットフォームの運営に乗り出すともしているが、一時的なものにととめず今後更なる定着をはかるには法的な整備も必要となってくるであろう。

リバウンド消費と618への期待

中国は、新型コロナの収束を主張し、外出制限など生活上の規制も緩和されつつある。春節(2月)にできなかった消費を取り返すべく「リバウンド消費」への期待も膨らんでいる。3月8日の婦人デーには、化粧品など高額な商品のネット販売が急増した点も、期待感に拍車をかけているのであろう。しかし、政府の意向とは裏腹に、市民の新型コロナの再燃や再感染など第2波への警戒は強い。外出を伴うオフライン消費の回復には、引き続き一定程度の時間がかかるであろう。そもそも店舗販売であったものをオンラインの販売に切り替えるなど、新型コロナで更に浸透したオンラインの消費が、オフラインの消費や企業活動の落ち込みを支える動きも進んでいる。6月18日はネット通販大手の京東の創業日で、大型セールが待ち受けている。当面、消費意向をはかるうえでは618に注目してみるのもよいかもしれない。

片山ゆき(かたやま ゆき)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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