1-3月期は前期比年率▲3.4%と2四半期連続のマイナス成長

2020年1-3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.9%(前期比年率▲3.4%)と2四半期連続のマイナス成長となった。

新型コロナウィルスの感染拡大を受けた政府の自粛要請の影響で、民間消費(前期比▲0.7%)、住宅投資(同▲4.5%)、設備投資(同▲0.5%)の国内民間需要がいずれも減少したことに加え、インバウンド需要の激減で財貨・サービスの輸出が前期比▲6.0%と大幅に減少し、財貨・サービスの輸入の減少幅(同▲4.9%)を上回ったため、外需(前期比・寄与度▲0.2%)も成長率を押し下げた。

2020年1-3月期の成長率のマイナス幅は2019年10-12月期の前期比年率▲7.3%から縮小したが、消費税率引き上げの影響で大きく落ち込んだ後であることを踏まえれば、経済の実態は見た目以上に厳しい。日本経済は、消費税率引き上げ後の落ち込みから徐々に持ち直しつつあったが、新型コロナウィルスの感染拡大とそれに伴う自粛要請によって、その流れは完全に途切れてしまった。

2019年度の実質GDP成長率は▲0.1%(2018年度は0.3%)と5年ぶりのマイナス成長、名目GDP成長率は0.7%(2018年度は0.1%)となった。

●緊急事態宣言の発令を受けて4月の経済活動は急速な落ち込みに

個人消費は消費税率引き上げの影響で大きく落ち込んだ後、緩やかな持ち直しが続いていたが、2/26の政府の自粛要請を受けて3月には大幅な減少となった。

家計調査の実質消費支出は2月の前年比▲0.3%から3月には同▲6.0%へと減少幅が急拡大した。内訳をみると、外出自粛の影響で内食の需要が高まったことから、食料品は前年比5.1%の増加となったが、外食が同▲32.6%と大きく落ち込んだことから、食料全体では同▲2.4%の減少となった。また、トイレットペーパー(前年比26.4%)、マスク、ガーゼなどの保健用消耗品(同17.8%)が大幅に増加したほか、自宅で過ごす時間が長くなったことを受けて、ゲーム機(同165.8%)、ゲームソフト等(同157.0%)、インターネット接続料(同12.4%)は増加したが、外出自粛の影響で、宿泊料、パック旅行費、映画・演劇等入場料、文化施設入場料、遊園地入場・乗物代などの教養娯楽サービス(同▲34.6%)、鉄道運賃、バス代、タクシー代、航空運賃などの交通費(同▲52.2%)が大きく落ち込んだ。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

緊急事態宣言が発令されたことを受けて、4月の経済活動の水準は3月から一段と大きく落ち込む公算が大きい。すでに公表されている4月の経済指標を確認すると、自動車販売台数(含む軽乗用車)が3月の前年比▲8.9%から同▲30.4%へと減少幅が大きく拡大したほか、多くの店舗で臨時休業を余儀なくされた百貨店の売上高は3月の前年比▲33.4%(店舗調整後)から4月には同▲70%台の減少になったとみられる(4月は主要各社の速報値をもとにした当研究所の見込値)。また、4月上中旬の貿易統計の輸出額は3月の前年比▲11.7%から同▲22.4%へと減少幅が拡大した。

政府は、4/7に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を発令した後、4/16には対象を全国47都道府県に広げた。このうち、北海道、茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川、石川、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、福岡の13都道府県を特定警戒都道府県に指定した。5/4には5/6を期限としていた緊急事態宣言の期間を5/31まで延長することを決定したが、5/14には北海道、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、京都の8都道府県を引き続き特定警戒都道府県とする一方で、それ以外の39県で緊急事態宣言を解除した。

緊急事態宣言対象地域のGDPが日本全体に占める割合は、4/7~4/15が48%、4/16~5/13が100%(うち特定警戒都道府県が65%)、5/14~が50%となる(日付は決定日)。経済活動の水準は5月以降徐々に持ち直しに向かう可能性が高い。ただし、緊急事態宣言が解除された地域でも、都道府県境を超えての移動については引き続き自粛が要請されていること、緊急事態宣言が全国で解除されたとしても、人々がソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保する姿勢が強くなっていることから、外食、旅行、娯楽などのサービス支出は当面抑制されるだろう。

緊急事態宣言対象地域のGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

実質成長率は2020年度▲5.5%、2021年度3.6%を予想

●2020年4-6月期はリーマン・ショック後を超えるマイナス成長に

22020年4-6月期の実質GDPは前期比▲6.7%(前期比年率▲24.1%)と、リーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を超えるマイナス成長となるだろう。外出自粛の影響で民間消費が前期比▲7.7%と現行のGDP統計(1994年~)で最大の落ち込みとなるほか、企業収益の急激な悪化を受けて設備投資も同▲5.9%の大幅減少となることが予想される。

また、海外経済の急速な悪化や海外からの入国制限を受けて、財貨・サービスの輸出が前期比▲26.4%の大幅減少となる一方、国内需要の落ち込み、海外工場の操業停止、海外旅行の消失を受けて、財貨・サービス輸入も前期比▲17.8%と大幅に減少するだろう。輸出の減少幅が輸入の減少幅を上回ることにより、外需寄与度は前期比▲1.3%と成長率の押し下げ要因となるが、国内需要(同▲5.3%)に比べれば下押し幅は小さいだろう。

今回の経済見通しでは、緊急事態宣言は5月末までに全国で解除され、個人消費をはじめとした経済活動の水準は4月を底として5月以降は徐々に持ち直すことを想定している。家計調査の実質消費支出は2020年3月の前年比▲6.0%から4月には外出自粛の影響で外食、旅行、娯楽などのサービス消費の減少ペースが加速することから、前年比で▲20%近くまで減少幅が急拡大した後、5月以降はマイナス幅が徐々に縮小すると予想する。ただし、新型コロナウィルス感染症専門家会議が提言した「新しい生活様式」の実践が、緊急事態宣言解除後も消費の抑制要因となる可能性が高い。このため、2020年夏場にかけても前年比で▲10%近いマイナスが続き、2020年中は消費支出が前年の水準に戻ることはないだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

緊急事態宣言が解除されることを前提として、実質GDPは2020年7-9月期が前期比年率7.6%、10-12月期が同8.7%と高成長が続くと予想するが、4-6月期の大幅な落ち込みを取り戻すまでには至らない。需要項目別には、民間消費は外出自粛によって手控えられていたサービス関連を中心として7-9月期に増加に転じるが、工事の進捗ベースで計上される住宅投資、設備投資が増加に転じるのは10-12月期までずれ込むだろう。また、国内の経済活動が再開されたとしても、世界的に出入国制限が緩和、解除されるのはしばらく先となる可能性が高い。このため、輸出入はサービスを中心として回復ペースが緩慢なものとなることが予想される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

自粛期間が短ければ、自粛要請解除後に経済がV字回復することも期待できたが、自粛要請、緊急事態宣言に伴う経済活動の収縮が一定期間継続したことで、今回の景気悪化が不可逆的なものとなる可能性が高くなった。すなわち、倒産、失業者の大幅増加、企業収益、雇用者所得の大幅な落ち込みが不可避となったことで経済活動の基盤が損なわれ、新型コロナウィルスの終息後も経済活動が短期間で元の水準に戻ることは難しくなった。人々が3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避ける姿勢が従来よりも強くなったことで、新型コロナウィルスの第2波が襲来した場合は言うまでもなく、通常のインフルエンザ流行時にも外食、旅行、コンサート、各種イベントなどが敬遠され、レジャー関連の需要が落ち込むリスクもある。

実質GDP成長率は2020年度が▲5.5%、2021年度が3.6%と予想する。今回の予測期間末である2022年1-3月期の実質GDPは直近のピーク(2019年7-9月期)と比べて▲2.7%低い水準にとどまる。実質GDPが元の水準に戻るのは2022年度以降となろう。

今回の経済見通しにおける実質GDPの水準を新型コロナウィルスの影響が限定的とみていた2/18時点の経済見通し1と比較すると、四半期ベースでは2020年4-6月期が▲43.8兆円(季節調整済・年率換算値)と下振れ幅が最も大きい。年度ベースでは2019年度が▲1.7兆円(うち民間消費が▲0.4兆円、設備投資が▲1.1兆円)、2020年度が▲32.7兆円(うち民間消費が▲16.1兆円、設備投資が▲10.5兆円)、2021年度が▲19.2兆円(うち民間消費が▲5.0兆円、設備投資が▲10.7兆円)下振れしている。このほとんどが新型コロナウィルス感染拡大とそれに伴う自粛要請による影響である。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)この時点では、新型コロナウィルスによる実質GDPの押し下げ幅は2020年1-3月期が▲5,640億円、4-6月期が▲560億円と試算していた