非正規社員を選択している理由を知ろう
武藤 もう一つ、よくある誤解として、「非正規社員は皆、本当は正社員になりたいのだ」というものがあります。実際には、『令和元年版 労働経済の分析』(厚生労働省)によると、2019年第1四半期の時点で、非正規社員のうち不本意なのは、男性で18.2%、女性で9.2%。それぞれの理由で、積極的に非正規雇用を選んでいる人のほうが、ずっと多いのです。
例えば、接客が好きで、接客だけに専念したいから、異動がある正社員にはなりたくないという人もいます。対応が難しいクレームがあっても最終責任者となる正社員が後ろにいると思ったほうが安心して働けるから、自分は非正規社員でいい、と考えている人もいます。
――本人が、給料が低くても非正規社員がいいと言うのなら、問題はあまり起きそうにないですね。
武藤 そういうわけではありません。責任を取ってくれる人がいるほうが安心して接客できると思って非正規社員を選んでいるのに、正社員が逃げ回って、結局、非正規社員がクレームに対応させられているとしたら、どうでしょうか。非正規社員を選んだ理由がなくなってしまいます。
つまり、非正規社員一人ひとりが、なぜ非正規社員という雇用形態を選択しているのかを把握し、それを踏まえて仕事を任せることが、現場マネージャーにとって重要なのです。「非正規社員は正社員になりたいのになれなかった人だ」と一律に捉えてしまうと、非正規社員に高いパフォーマンスを発揮してもらうことができません。
――なるほど。部下の一人ひとりのモチベーションの源泉を知ることが、マネージャーにとって重要だとよく言われますが、非正規社員の部下に対しても同じだということですね。
武藤 「全員が正社員を望んでいる」と考えるのではなく、正社員も非正規社員も、それぞれの考えや事情でそれぞれの雇用形態を選択しているのだということを理解してください。これも一種のダイバーシティです。
もちろん、本当は正社員になりたい非正規社員も中にはいます。そうした非正規社員のために、正社員登用制度を設けたりすることは必要です。
――同一労働同一賃金になると、非正規社員の給料が正社員と異なることを合理的に説明できるようにするため、企業や上司が非正規社員に大きな仕事を任せないということにもなるのではないでしょうか?
武藤 確かに、そういう解決策もあるかもしれません。正社員がする仕事と非正規社員がする仕事を明確に線引きすることで、正社員も非正規社員も納得できている会社もあります。
もちろん、大きな仕事を任せるのであれば、それに基づく合理的な処遇にするという対応策が必要です。
加えて、お勧めしたいのは、日常の業務では、正社員と非正規社員の違いを意識させず、「同じ組織・チームの大事な一員なんだ」というマネジメントをすることです。例えば、営業チームのアシスタントがマネージャーやメンバーに「今月の数字、もうちょっとで達成ですね!」などと声をかけて鼓舞している。全員で一つのチームになっている。けれども、実は、アシスタントは非正規社員で、他は正社員、というようなケースです。
こういうチームのマネージャーは、部下のやる気を引き出すのがうまい。非正規社員を正社員と区別するのではなく、「あなたも組織の一員だ」と感じてもらうようにすれば、非正規社員は不満を持ちにくい。
同一労働同一賃金という言葉を聞くと、正社員と非正規社員の違いに注目するようになり、処遇によって非正規社員の不満を解消しようと考えがちですが、処遇だけでは不満は解消できないんです。
武藤久美子(リクルートマネジメントソリューションズ シニアコンサルタント)
(『THE21オンライン』2020年04月15日 公開)
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