新型コロナウイルス感染拡大の動向に世間の関心が集まるなか、ついに緊急事態宣言が一部地域で解除された。一方で、新たな生活様式として3密を避けるライフスタイルはまだまだ継続するだろう。外出自粛が続いたコロナ禍において一変したのは、飲食店の需要だ。業界総じて「料理宅配(デリバリー)」のサービスに特需が生じており、業界動向に注目したい。

特需に沸く「料理宅配」

デリバリー特需
(画像=PIXTA)

外出自粛要請により、多くの店舗が休業を余儀なくされた一方で、デリバリーサービスを通じた料理宅配の需要が急激に高まっている。休業の不安一転、あまりの注文数に驚く飲食店も多い。身近なチェーン店のみならず、都内の一流レストランまでもが料理宅配を始めている状況だ。

需要減少に嘆くタクシー業界がフードデリバリーに協力

料理宅配の急拡大を受け、国土交通省では、外出自粛により需要が減少していたタクシーを有効活用する目的も含んだ措置として、タクシー事業者による有償貨物輸送の特例を4月21日に通達した。

さっそく、日本最大級の出前サービス「出前館」と、タクシーアプリを運営するMobility Technologies社が提携し、料理宅配の配達ニーズとタクシー事業者のマッチングをはかる取り組みを始めた。このほかにも、各地域にて続々とタクシー会社と飲食店のコラボレーションによる料理宅配サービスが広がっている。

デリバリー事業各社の対応例

アプリ分析ツール「AppApe」を手がけるフラー社によると、フードデリバリー大手「出前館」および「Ubereats(ウーバーイーツ)」では、緊急事態宣言を境に利用者が6割も増えたという。

「出前館」が休業店の従業員を一時雇用

「出前館」では、緊急事態宣言以来、昼間の住宅街において需要の高まりがみられているという。これには、臨時休校による子育て世代からのニーズのほか、テレワークの普及なども背景として考えられる。

さらに「出前館」では、外食業界の景気を支える支援として、休業中の飲食店の従業員を配達員として一時的に雇う「緊急雇用シェア」を開始した。同社は、飲食店とデリバリー事業者との人材交流による、業務の理解促進も目的としている。従業員はそれぞれ勤務先の営業再開が見込めた時点で戻ることができる体制を整えるとしており、業界支援に積極的な姿勢を見せる。

「ウーバーイーツ」も宅配事業拡大に意欲的

米・ウーバーテクノロジーズの「ウーバーイーツ」も料理宅配の特需に沸き、進出エリア拡大とともに人材確保に動いている。提携企業の動きも活発だ。国内のコンビニで唯一「ウーバーイーツ」を利用できるローソンでは、5月末までに首都圏・近畿圏で対象店舗を500店に拡大する予定だ。

緊急事態宣言が解除されても、宅配需要の動向には大いに注目していきたいところだ。

自治体も飲食店の料理宅配を後押し

自治体も、地域支援の一環として料理宅配サービスの利用促進を後押ししている。

渋谷区:クーポン用意でデリバリー利用促進

東京・渋谷区では区民のデリバリー利用を促進するため、対象サービス利用時に使える割引や配送料無料などのクーポン特典を用意した。「出前館」「LINEデリマ」「dデリバリー」「Uber Eats」を対象としている。渋谷区では、事業者からの連携提案により実施が決まったといい、クーポン費用は区と事業者で折半するなどして対応するという。

大阪府:デリバリー利用につかえるポイントを還元

大阪府ではデリバリー事業3社と連携し、出前利用促進キャンペーンを実施している。キャッシュレス決済での1,000円以上の1注文につき、500円分のポイント等を付与するという内容だ。ポイント等の使用用途を、飲食店の提供する料理宅配に関する注文のみに限定し、府民の継続的なデリバリー利用促進をはかっている。

神戸市:「Uber Eats+KOBE」手数料を補助

神戸市はウーバーイーツと事業連携協定を締結し、飲食店支援策「Uber Eats+KOBE」を実施。市内の中小飲食店約560店への注文に対して市から補助金を支給するもので、店舗がデリバリーを導入しやすいよう、飲食店にかかる利用手数料の約4割を神戸市が負担する。

同市では、デリバリー事業のPRによって、市内の就労者に「配達パートナー」という働き方を提案し、収入の確保を検討する機会につなげたい考えだ。

福岡市:クーポンでデリバリー利用促進

福岡市では、市が指定したデリバリーサービスの利用において、1,000円以上の電子決済でクーポンを還元する緊急独自制度を実施している。対象業者は「LINEデリマ」「dデリバリー」「ウーバーイーツ」などだ。

配達員不足などの課題が深刻化する一面も

一方で、飲食店側で課題となっているのが配達員の確保だ。調理現場からは「調理・配達が間に合わない」という声もあり、現場を逼迫している状況だという。

さらに、料理宅配だけで営業利益をあげていくには、平時とは違った工夫が強いられ、難しい局面もあるだろう。緊急事態宣言が解除され、営業が再開されるとともに宅配需要と供給量がどう動くか気になるところではある。

デリバリー事業業界に再編の動きか

デリバリー事業業界では、コロナ禍の追い風とともに競合との顧客獲得競争が激化している状況だ。先日、米・ウーバーテクノロジーズが競合・グラブハブの買収交渉を進めていることがわかり、同社では「ウーバーイーツ」のさらなる強化を見込んでいるとみられる。

また、「出前館」では競合の攻勢が強まっている状況を受け、LINEの実質子会社としてシステム開発の加速化を狙うなどの動きを見せている。今後は業界の再編動向からも目が離せなくなりそうだ。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部