シンカー:新型コロナウィルス問題で景気に一時的な大きな下押し圧力がかかっても、しっかりとした経済政策による対応で信用サイクルと設備投資サイクルが腰折れなければ、デフレ完全脱却への元の道に戻れるだろう。問題に対処するための財政拡大と、終息後の企業活動の再活性化でネットの資金需要が復活してアベノミクス2.0が稼働するだろう。(震災復興による財政拡大が種となった2013年以降のアベノミクス1.0と似ている形になる。)

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

1.異常なプラスの企業貯蓄率による過剰貯蓄の総需要破壊の力が、内需低迷とデフレの原因だった。日銀が大規模な金融緩和を実施し、信用サイクルが上振れ、企業のデレバレッジが大きく緩和し(企業貯蓄率が低下し)、失業率も低下した。貨幣経済(名目GDP)と総賃金が拡大に転じた。

2.人手不足とITの新技術(AI、IoT、ロボティクス、ビッグデータ、5Gなど)の後押しを受け、設備投資サイクルが上振れ、期待成長率とインフレ期待が上昇してきたことを示す。財政緊縮とまだ慎重な企業行動により、ネットの資金需要(財政収支+企業貯蓄率)は消滅していて、経済が回って賃金とマネーが拡大する力(リフレ・サイクル)がまだ弱いことで、なかなかデフレを完全脱却できない。

3.新型コロナウィルス問題で景気に一時的な大きな下押し圧力がかかっても、しっかりとした経済政策による対応で信用サイクルと設備投資サイクルが腰折れなければ、デフレ完全脱却への元の道に戻れるだろう。

4.問題に対処するための財政拡大と、終息後の企業活動の再活性化でネットの資金需要が復活してアベノミクス2.0が稼働するだろう。(震災復興による財政拡大が種となった2013年以降のアベノミクス1.0と似ている形になる。)失業率は更に低下し、総賃金が強く拡大するとともに、家計も景気拡大を実感するようになるだろう。

5.2022年の政府のデフレ完全脱却宣言(企業貯蓄率のマイナス化=正常化)のタイミングで、長期金利の誘導目標を、景気・マーケットの拡大と物価上昇率の加速を阻害しない速度で引き上げ始めるだろう。短期の政策金利をプラスに戻し緩和から脱却するのは、物価目標達成後の2023年となろう。

6.潜在成長率が上昇し、アベノミクスがしっかり効果を発揮していることが既に確認された。景気拡大とともに、投資が拡大し、生産性が上昇するというバブル崩壊後初めての現象が確認できれば、日本経済は復活することになる。

7.名目GDP成長率(膨張力)が長期金利(抑制力)を上回り、日銀の早期の緩和出口はなく、マイナスの実質長期金利は維持され、リフレ・サイクルは加速、財政は安定化するだろう。ネットの資金需要は適度で、金利高騰はないだろう。

図)信用サイクル

信用サイクル
(画像=日銀、総務省、SG)

図)設備投資サイクル

設備投資サイクル
(画像=内閣府、日銀、SG)

図)リフレサイクル(ネットの資金需要)

リフレサイクル(ネットの資金需要)
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)リフレスプレッド(名目GDP成長率-長期金利)

リフレスプレッド(名目GDP成長率−長期金利)
(画像=内閣府、ブルームバーグ、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司