2015年以降相続税が増税した影響からか近年は「いかなる財産も引き継がない」相続放棄を選択する人が増えました。相続放棄をしても被相続人の思い出の品である形見は受け取ることができるのですが、ここで注意をしないと後々思わぬ重荷を背負うことになりかねません。今回は「形見だけ引取」にした場合における相続の2つのリスクについて解説します。

相続の大変さを嫌って増える「相続放棄」

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(画像=manuel-adorf/stock.adobe.com)

相続放棄は近年非常に多くなっています。2018年度裁判所司法統計年報家事編によれば、2018年度の相続放棄の件数は21万5,320件です。2016年度までの約10年間は10万件台を維持していましたが2017年度から20万件を突破しました。背景には親の多額の借金や使うことのない地方の不動産の引き継ぎを忌避したい相続人の心理があるとみられます。

また相続の手続きそのものも大変です。被相続人が亡くなった後の葬儀だけでなく遺品整理や遺言書探しなどもあります。さらに相続人たちへの連絡や遺産分割協議の進行、登記手続き、被相続人の生前の所得に関する準確定申告や相続税の申告など盛りだくさんです。これらの作業を忙しい日々の合間をぬって1年足らずの短期間で行わなくてはなりません。

そのため財産だけでなく手続きそのものを嫌って相続放棄するケースもあります。

相続放棄にしても形見は受け取れる

相続放棄をするといっても、ありとあらゆるものの引き継ぎができなくなるわけではありません。相続放棄をしても被相続人の形見を受け取ることは可能です。形見に該当するものには主に次のようなものがあります。

・思い出のアルバムやCD、DVD
・被相続人の衣類、カバン、書籍など
・被相続人の指輪、貴金属など

「形見だけ引取」にしたときの2つのリスク

「相続放棄を行い形見だけ引き取る」という相続を選択した場合、いいことだけではありません。なぜなら被相続人や相続人が「ただの形見」だと思っていても実は形見以上の価値があるかもしれないからです。「形見以上の財産価値があった」というものの多くは時計や宝飾品、貴金属など、いわゆる「肌身に身につけるもの」です。

ただ掘り出し物の漫画や書画、骨とう品、美術品なども本人たちは形見と思っていても実際には財産と呼べるほどの評価額がつくこともあります。相当の財産評価額がつくことが後から分かった場合、相続人には次の2つのリスクが発生します。

リスク1:相続放棄が認められなくなるおそれ

相続放棄はいつでもどんな場合でも認められるわけではありません。相続放棄をするといいながら一部財産を隠匿あるいは処分した場合には、相続放棄が認められず単純承認をしたものとみなされ、通常の相続の手続きに移行することになります。具体的には、以下のような行為が隠匿・処分に該当します。

【処分・隠匿に該当する行為】
・被相続人の財産などの譲渡・損壊・廃棄
・形見分け以上の価値がある財産の受取・売却
・相続人による遺産分割協議の実施
・財産目録に一部の財産を記載しない

つまりただの形見だと思っていたものに実際は相当の財産価値があった場合、その形見を誰かに売ったり廃棄したり形見の存在を財産目録に記載しなかったりといったことがあると「財産価値のあるものを引き継ぐ意思がある」とみなされ相続放棄がなかったことになるのです。

リスク2:相続税の課税対象に

1で単純承認が行われたということは、相続人がすべての財産・債務を承継することとなります。単純承認の結果、相続税が発生する可能性もあるでしょう。「相続があったことを知った日から10ヵ月以内」という期限までに申告・納税すれば相続税だけで済みます。しかし期限を過ぎて形見の財産価値を知り単純承認に移行した場合、相続税だけでなく延滞税や無申告加算税などのペナルティもあわせて納付しなくてはなりません。

形見を引き継ぐ前に評価の検討を

上記のようなリスクを避けるためには、形見の評価を事前にきちんと行うことが必要です。評価に時間がかかる可能性を考慮するならば鑑定評価はできれば相続が発生する前がよいでしょう。また相続放棄の手続きそのものも相続開始があったことを知った日から3ヵ月以内という非常に短い期限しかありません。

相続そのものの対策にもいえることですが全体を鑑みてよりよい選択をするならば早めの財産評価と検討が必要です。(提供:相続MEMO


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