シンカー: 新型コロナウィルス問題に対処するため、各国は巨額の財政拡大に踏み切った。財政収支の赤字幅は大きく膨らむことになる。米国では、財政赤字の拡大に対して、家計と企業の貯蓄率の上昇が小さければ、国際経常収支の赤字幅は膨らむことになる。米国は国際経常収支を赤字にすることで、世界に向けてドルを供給しているのが、ドル基軸通貨体制であると考えられる。米国の国際経常収支の赤字幅が増加し、しかもFEDの強力な金融緩和が継続するということは、世界のドル供給が増加することを示唆している。これまでは、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済と国内でマネーが拡大する力であるネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)は強かったが、住宅バブル後の家計のデレバレッジで貯蓄率が大きく上昇したため、国際経常収支赤字額は縮小し、世界に向けてのドル供給の制限になってきていた。グローバルにマネーが拡大する要因は、新型コロナウィルス問題が終息に向かえば、リスク資産価格の上昇、そしてこれまでのグローバルなデフレがインフレへ変化していくきっかけとなるかもしれない。米金利の上昇が限定的で、グローバル・インフレによって国際商品市況が堅調になれば、新興国の経済パフォーマンスの改善につながる。現在は、新型コロナウィルス問題が深刻で、新興国に対する厳しい見方が多いが、アップサイド・ポテンシャルがあるかもしれない。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●フランス経済(7/7):中道右派内閣が、2022年大統領選を前に改革を再開

フランスのマクロン大統領は、広く見込まれていた通り、統一地方選後の先週金曜日に(また2022年春に行われる大統領選の2年前に)内閣改造を選択した。新首相のカステックス氏は、「フランスの経済、社会、環境、文化の再建」を実現するために「政府の統一と目標達成」を主導することを望んでいる。新内閣の構成が、経験豊富で中道右派的な閣僚に傾いていることは明らかだ。新首相は(与党が)国民議会で大差の過半数を占める中で、新しい優先事項と改革を実施する大きな余地を持つだろう。具体的には、7月14日にマクロン大統領が発表する財政刺激策(GDP比3.6ppと見込まれる)、年金改革、失業給付改革、若年労働者向けの政策、環境アジェンダなどが挙げられる。マクロン大統領は明らかに、自身の基盤(大半が中道右派)を失わないために改革に向けた取組みを再開して、2022年大統領選挙に向けて地歩を固めることを望んでいる。地方選の教訓は「右寄りの勢力が依然として多くの支持を得ている」ということだった。また、仮に大統領選挙がきょう実施されるなら、マクロン氏の主な競争相手はやはりマリーヌ・ルペン氏になる。カステックス首相の課題は、中道左派に流れた支持層の回復とともに、社会不安やストライキの再発を避けることになるだろう。

●英国経済(7/8):スナック財務相、雇用への影響を明らかに懸念

英国のスナック財務相の夏季財政報告は「雇用維持計画(PLAN FOR JOBS)」と銘打たれ、現行の雇用維持スキームが10月に終わることに対する、政府の大きな懸念が解消された。大きなサプライズは雇用維持ボーナスで、一時帰休から戻った従業員の雇用を2021年1月の終わりまで維持すれば、そうした従業員1名当たりに1,000ポンドの一時金が雇用主に支払われる。このコストは、そうした労働者の雇用が全て維持されるなら90億ポンドになる可能性があるが、もちろんこれは希望的観測だ。このスキームは 2020年第4四半期の失業を鈍らせると見込まれ、それは称賛できる。しかし、(需要の壊滅的減少によって不採算となった)従業員の雇用を永続的に維持するように多くの雇用者(企業)を説得するには、金額が十分でないとみられる。夏季財政報告の他の部分は見込まれていた通りで、土地印紙税やサービスおよび観光にかかるVAT(付加価値税)の一時的引下げが含まれる。

●外国債券(7/13):フライング?

米国での新型コロナウイルス感染者の記録的な増加(古き不安)にもかかわらず、経済指標の改善とワクチン開発をめぐるポジティブな動き(新たな希望)がここ数日間のリスクオンの波に拍車をかけた。状況は不安定であり、リスク・センチメントは変化していくだろう。薄商いの夏の市場に特有の動きとして、ヒストリカル・ボラティリティーが上昇してきた。弊社は金利の上昇、イールドカーブのスティープ化、スプレッドの縮小という中期見通しを維持しているが、夏場のヘッジ対策も継続していく。

●グローバル・ストラテジー(7/10):亡き元上司(恩師)の金言が思い出される

筆者の生産性は、ロックダウンに大きく影響された。今年第2四半期には本レポート(Global Strategy Weekly)を、近年では通例の6本ではなく11本発行した。隔週の海外出張が無かったことで、筆者はきわめて状況が不安定だった期間に、通常より定期的に本レポートを発行できた。筆者のクラインオート・ベンソン所属時代の上司で、筆者を鼓舞してくれたロジャー・パーマー氏(Roger Palmer)は、1989年に本レポート(Global Strategy Weekly)の執筆・発行を開始した。その後長い間、本当に週刊で発行されていた。だが現在の定期読者の皆さまはお気づきのようにここ20年ほどは、「Weekly」の看板に偽りあり(おそらく「貿易説明法」違反である)という状態が続いている。実際も発行は2週間に1回のペースになっており、その主因は、筆者のワンマン体制になっていることと、海外クライアント対象のマーケティング(訪問)をこなそうとしていることだ。しかし筆者もバイサイドで勤務したことがあり、顧客がセルサイドからの無用のレポートの山にほぼ溺れていることを知っている。このため筆者が隔週で発行するレポートは、簡潔なコメントが前提で、日和見主義(執筆者が、自分は正しかったと後から主張できる形態)にも陥らない。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司