マーケティングとは、顧客のニーズを把握し、製品やサービスが自然に売れるための仕組みを作り上げることである。マーケティングとプロモーションの違いや、プロモーションのマーケティングにおける位置づけはわかりにくい部分があるが、プロモーションはマーケティング戦略の中のプロセスの1つである。この記事では、マーケティング戦略を実践する際の流れや、プロモーションの位置づけと戦略について詳しく解説していく。

マーケティングとは?

マーケティングプロモーション
(画像=PIXTA)

日本マーケティング協会会長 藤重貞慶氏は、「マーケティングとは、顧客の欲求と満足を探り、創造し、伝え、提供することにより、その成果として利益を得ることである」と説明している。

また、日本マーケティング協会はマーケティングを「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」と定義している。

出典:公益社団法人日本マーケティング協会

また経営学者ピーター・ドラッカーは、「販売(筆者注:Selling)とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。何らかの販売は必要である。だがマーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである」と語っている。

出典:P.F.ドラッカー『マネジメント』(ダイヤモンド社)

顧客が何を欲しがっているのか」「顧客はどうすれば満足するのか」に主眼を置き、製品やサービスが自然に売れる仕組みを創り出していくことが、マーケティングと言えるだろう。

マーケティングとプロモーションの違い

製品・サービスを顧客に知らせ、購買を促す「プロモーション」は、マーケティング戦略を実践していくにあたっての具体的なプロセスの1つである。マーケティング戦略の実践においては、

  1. 外部および内部の環境分析
  2. STP分析
  3. マーケティングミックス(4P)

というプロセスを経る。プロモーションは、「3. マーケティングミックス」の構成要素の1つである。したがって、マーケティングが全体概念であるのに対し、プロモーションはその部分であることが「マーケティングとプロモーションの違い」と言えるだろう。

マーケティング戦略の流れとプロモーションの位置づけ

マーケティング戦略の流れと、その中のプロモーションの位置づけを詳しく見ていこう。

1. 外部および内部の環境分析

マーケティング戦略を実践するにあたってまず行うことは、外部および内部の環境分析である。企業を取り巻く環境を把握することで、マーケティング戦略の目標を明確にする。環境分析には、以下のような複数のフレームワークがある。

フレームワーク内容
PSET分析自社の外部環境を、
・政治・法律(Political Environment)
・経済(Economic Environment)
・社会(Social Environment)
・技術(Technological Environment)
の4つの側面から分析するもの。経営学者フィリップ・コトラーにより提唱された。
ファイブ・フォース分析自社の競争環境を、
・売り手の交渉力
・買い手の交渉力
・競争企業間の敵対関係
・新規参入業者の脅威
・代替品の脅威
の5つの側面から分析するもの。経営学者マイケル・ポーターにより提唱された。
3C分析自社の外部および内部環境を、
・顧客(Customer)
・自社(Company)
・競合(Competitor)
の3つの側面から分析するもの。経営コンサルタント大前研一氏により提唱された。
SWOT分析自社の内部環境を、
・強み(Strengths)
・弱み(Weaknesses)
・機会(Opportunities)
・脅威(Threats)
の4つの側面から分析するもの。

2. STP分析

環境分析の次に行うのは、マーケティング戦略の中核ともいえる「STP分析」である。経営学者フィリップ・コトラーにより提唱されたSTP分析は、「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」および「ポジショニング(Positioning)」により、自社がターゲットする市場(顧客)、および自社の立ち位置を明確にするためのフレームワークである。

STP分析のそれぞれのステップは、以下のとおりだ。

ステップ内容
セグメンテーション
(Segmentation)
市場(顧客)を似たような属性やニーズを持つセグメント(かたまり)に細分化する。
ターゲティング
(Targeting)
細分化したセグメントの中から、自社がターゲットとするセグメントを絞り込む。
ポジショニング
(Positioning)
絞り込んだセグメントで競合する商品・サービスに対して自社の立ち位置を明確にする。

一般的に、顧客はそれぞれニーズが異なる。単一の商品やサービスですべての顧客のニーズを満たすことは難しいため、自社が対象とする顧客層を明確化する必要がある。どのような顧客層に対して、どのような立ち位置でアピールしていくかを決定するSTP分析は、その後のマーケティング戦略に大きな影響を与える重要なプロセスと言える。

3.マーケティングミックス(4P)

マーケティングミックスとは、マーケティングの実行戦略のことである。マーケティングミックスの構成要素は、以下のとおりだ。

構成要素内容
製品
(Product)
市場に投入する製品・サービス戦略。開発から生産、パッケージング、サポートまでを含む。
価格
(Price)
価格戦略。損益分岐点はもちろん、顧客の価格相場感、競合との比較、ブランディングを含む。
流通
(Place)
顧客とのチャネルを決める流通戦略。製品・サービスに適したチャネルを決める。
プロモーション
(Promotion)
顧客に製品・サービスを知らせ、購買を促すプロモーション戦略。

本記事の主題であるプロモーションは、マーケティングミックスにおける構成要素の1つである。

プロモーションミックス

プロモーション戦略は、「プロモーションミックス」と呼ばれる複数の方法を組み合わせて行われる。プロモーションミックスの主な構成要素は、以下の5つだ。

1.広告宣伝

広告宣伝はテレビや新聞、雑誌、インターネットの広告、看板広告など、企業が広告費を投じて行うものである。プロモーション手法の中でも、代表的なものと言える。

近年はネット広告の比重が増し、バナー広告やメール広告、リスティング広告、アフィリエイト広告、SNS広告、動画広告など、さまざまな手法が生まれている。

2. 販売促進(セールスプロモーション)

販売促進は、フライヤーやパンフレット、クーポン、見本市、展示会など、広告宣伝と比較してよりダイレクトに購買につなげるプロモーション手法だ。顧客が意思決定をする直前にアプローチできることがメリットと言える。

販売促進には、顧客に対してダイレクトに行うものと、流通業者に対して行うものがある。

3.広報活動

広報活動は、企業や製品・サービスの認知度向上を主な目的として行う。プレスリリースやニュースリリースなどの形で広告費をかけず、テレビや新聞・雑誌、インターネットなどのメディアで取り上げてもらい、情報を露出する。

メディアの特性に応じた情報内容、掲載依頼方法を考慮することがポイントになる。

4.人的販売

人的販売は、人を介したプロモーション手法である。郵便や電話、メールなどを用いて見込み顧客に個別にアプローチしていく。営業担当者が見込み顧客に直接アピールできるため、内容の濃い情報発信ができる。

ただし、顧客から「押し付け」と取られる場合もあるため、他のプロモーション手法と適切に組み合わせていく必要がある。

5. 口コミ・SNS

口コミやSNSも、重要なプロモーション手法である。近年は特にSNSの重要性が高まっているため、SNSによる顧客とのコミュニケーションは不可欠だ。

口コミ・SNSによるプロモーションは、直接購買につながるほか、商品・サービスの認知度アップ、ブランディング、顧客ロイヤリティの向上にも効果がある。

プロモーション戦略策定のポイント

プロモーション戦略を策定する際のポイントは、以下のとおりだ。

1.STP戦略との整合性

プロモーション戦略を策定するにあたって最も重要なことは、STP戦略との整合性を十分考慮することである。STP戦略において決定したターゲットの顧客層とプロモーション戦略が食い違えば、プロモーションの効果が大幅に低下するからだ。

たとえば「若い女性」をターゲットとするなら、新聞などのメディアでは大きな効果が期待できない。テレビCMやSNSなど、若い女性が頻繁に接するメディアを選ぶ必要がある。

また、プロモーションの内容も重要だ。若い女性ターゲットとした化粧品のプロモーションの内容が高級感を訴えるものならば、そのプロモーションが成功する可能性は低くなる。

2.マーケティングミックスとの整合性

プロモーション戦略を策定するにあたっては、マーケティングミックスとの整合性を考慮することも大切だ。販売する製品がスナック菓子や清涼飲料水など比較的安価なものならば、テレビCMなどのマスプロモーションが効果的だろう。

それに対してBtoBのマーケティングツールなど、商品の特性や使い方が直感的に理解しにくいものについては、Webサイトや動画などで丁寧に説明する必要がある。

近年は、テレビCMをWeb流入の入り口として使用し、詳細な説明をWebサイトで行うプロモーション戦略が多く採用されている。

3.見込み顧客の態度変容プロセスに合わせて適切な手法を選ぶ

見込み顧客は、商品・サービスをまず「認知」し、次に「興味」を持ち、「欲求」を感じて「購買行動」へと向かっていく。したがって「認知」はテレビCMで獲得して、その後の「興味」はWebサイトで喚起するなど、それぞれのプロセスで効果的なプロモーション手法を採用することが重要だ。また、それらのプロモーション手法が見込み顧客の購買行動に向けて、有機的なつながりを持つことも欠かせない。

プロモーション戦略は適切に実践しよう

プロモーションは、マーケティング戦略の一部である。プロモーション戦略を策定するにあたっては、まずマーケティング戦略を策定し、それと整合性を持つように策定しなければならない。プロモーション戦略には多くの手法があるので、適切な手法を選んで実践していこう。(提供:THE OWNER

文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)