「withコロナ時代」に事業ピボットや事業多角化の一手として、あるいはこの独立・起業の選択肢の一つとして注目を浴びるスモールM&Aについて検討している向きも多いのではないだろうか。

スモールM&Aプラットフォーム「バトンズ」代表取締役社長 兼 CEOの大山敬義 氏は、日本M&A創業メンバーの一人であり、M&A業界で30年以上のキャリアを持つ。2018年に立ち上げた「バトンズ」は今年、登録者数が4万5000人を突破(2020年5月時点)、コロナ禍においても買い手の登録者数は1日平均約100名のペースで伸びているという。

だが、日本におけるスモールM&Aの歴史はまだ浅く、まとまって情報を得られる場は少ない。

ZUU onlineでは次世代を担うビジネスパーソンに向け、「スモールM&A入門編」となるセミナーを完全オンラインで企画。これからの新時代を切り開く第一歩としてほしい。

大山敬義(おおやま・たかよし)さん
大山敬義
株式会社バトンズ代表取締役 兼 CEO。 1967年神奈川県生まれ。91年日本M&Aセンターの設立に参画し、同社のM&Aコンサルタントとして活動。入社以来28年にわたって100件以上のM&Aを成約。2012年より同社常務取締役、15年より常務取締役総合企画本部長に就任。18年に小規模事業者向けのM&Aサービスを提供するアンドビズ株式会社(現・株式会社バトンズ)の代表取締役に就任。

※以下、大山氏談。6月30日開催のオンラインセミナー『2時間で学ぶスモールM&Aで失敗しない方法』の一部を全3回にわたって抜粋・編集しお届けします

目次

  1. 起業するかスモールM&Aで会社を買うか
  2. M&Aなら「成功の仕方」がわかった状態でスタートできる
  3. 「成功の仕方」を模索するのが起業
  4. スモールM&Aでシナジー効果は期待しない
  5. 買収先の経営資源に着目せよ

起業するかスモールM&Aで会社を買うか

失敗しないスモールM&A#2
(画像=PIXTA,ZUU online)

今日はもう一つのテーマとして、会社を興す場合と、M&Aの違いについて、ちょっとお話をしたいと思います。

わかりやすいように、飲食店を自分で興す場合と、スモールM&Aで買う場合と、何が違うかってことを考えていきたいと思います。

例えば、飲食店を立ち上げるって簡単そうに見える、という人もいるかもしれないです。「料理がうまいから店立ち上げようかな」とか、「俺の腕を持ってすればうまいラーメンがつくれて、繁盛店ができるんじゃないか」と素人は思うんですが、そんなこと全くないです。調理と経営は全く別のものです。

例えばラーメンでも何でもいいですが飲食店をやろうと思ったら、最低でもこれぐらいは考えたほうがよいでしょう。

ラーメン一杯の原価ってどのくらいか、ってご存知でしょうか。ものにもよりますが、例えばチャーシュー1個15円、のりは一枚1円50銭、麺が一束9円とかね。私、やったことがあるんでわかるんですが、普通、わからないですよね。

あとは材料の「ロス率」というものがあります。仕入れた全ての材料がロスなく全て使い切れるってありえません。このロス率は10%以内に抑えないと、飲食店っていうのは全部赤字になってしまいます。あとは、座席が1日何回転すると損益分岐点を超えるのかとか、店員さんはシフトで何時間やったら採算がとれるのか、とか。本当にキリがないです。

これがわからないと、飲食店を成功させられない、ということです。これ、考えてみるとものすごくハードルが高いですよ。

M&Aなら「成功の仕方」がわかった状態でスタートできる

M&Aの場合の素晴らしいところは、後ほど話題にする、どういう会社を買ったらいいかっていうことにも直接繋がることなんですが、この係数が全部わかっているところです、最初から。原価いくらで、材料の仕入れ値がいくらで、一日何回転すれば黒字で、何回転しかしなかった日は赤字になる、ということが全部わかります。

つまり、成功の仕方、というか。最初から数字で全部明らかになっている。新規開業するのとM&Aどっちが簡単か?で言えば間違いなくM&Aです。

今の話って、結構重要な話をしておりまして、会社の買い方で1番大事なところというのが、それぞれの業種のKPIが何か、といことです。何をしたら会社が黒字になるか。

例えば私はM&Aをしてホテルの経営もしているんですが、ホテルの場合、「客室数×客単価×回転率」で全ての売り上げが決まります。この三つのパラメータしかないんですよ、売り上げは。この三つのパラメータのうちどれを上げるか。ホテルの場合、客室数は決まっているので、従って変化するパラメータは二つだけです。客単価か、回転率か。

例えば、業界水準と比べてどっちかが低い、とします。単価が低いという場合は、仮にいくら客単価を上げたとしたら黒字になるか、を考えます。じゃあどうやってこの客単価を上げるのか、自分にはアイデアがあったので、これならできるという自信があり(ホテルを)買った、ということですね。

つまり、どのKPIを自分なら改良できるか、ということさえわかればM&Aというのはものすごく楽になるんです。

「成功の仕方」を模索するのが起業

逆にKPIがわからない、というのが新規事業なんですね。ベンチャーとか、スタートアップとかみんなそうなんですよ。よくピボットと言うのですが、自分の会社の事業内容を何回も入れ替える、ということをスタートアップは平気でやります。

何回も正しい KPI を模索するのが新規事業、あるいは起業です。それがすでに決まっていて、足し算引き算をすれば何とかなるってのがM&Aです。

起業をたくさん同時にやるって人はなかなかいないんですね。たまにイーロン・マスクさんのような、シリアルアントレプレナーみたいな人もいますが、ごくごく限られた天才なんです。

極端な話、M&Aっていうのは正直言えばいくつも同時にできる。