久能 克也
久能 克也(くのう・かつや)
Opty.G.K.代表。「社長が自分で自分をクビにできる」メソッドを伝える。2002年東京外国語大学を卒業後、大手人材会社に入社し3,000人の組織にてマーケティング業務を経験。退社後単身中国上海に渡り、コンサルティング会社を起業し共同経営者に就任した。帰国後、自社や顧問先の経営を劇的に変えたEOS®(Entrepreneurial Operating System/起業家のための経営システム)の普及活動に従事している。10年後のビジョン達成のために「今」すべきことだけに集中し、経営者の負担を軽くしながら業績アップさせるコンサルティングが得意。座右の銘はLess Is More。

営業部門によるバックオフィス部門へのマウント

コストセンター
(画像=Prostock-studio/stock.adobe.com)

営業部門や製造部門が総務や経理などのバックオフィス部門を「コストセンター」と呼んでマウントするケースがあります。はっきり言いますがこれはダサいばかりか事実にも反しています。経営に対する知識の欠如とすら言えるので注意しましょう。

私がここで言いたいのは「同じ目標に向かう仲間なんだから反目するのはやめよう」とか「お互い様なんだから仲良くしよう」とかいう生暖かいお話ではありません。もっと鋭い経営の現実に照らして、バックオフィス部門をコストセンターと呼ぶのは間違ってますよ、と言いたいのです。

営業・マーケが生み出せるのは「売上と粗利」のみ

まず営業やマーケティング部門がプロフィットセンターと呼べない理由を見てみましょう。

損益計算書(PL)を思い浮かべて見ると分かりやすいはずです。100の売上があったら、製造業なら製造原価、小売や卸売業なら仕入れ原価を差し引きます。分かりやすく50としましょう。すると50がいわゆる「粗利(売上総利益)」です。ここから人件費や営業にかかった費用(「販売管理費」略して「販管費」)を差し引くと営業利益が出ます。ここでは販管費を30としましょう。すると営業利益は20です。

営業部門が頑張って達成できるのは売上と粗利だけです。販売件数を増やす、できるだけ高く売るという活動がそれに当たります。でも、その活動に際限なく費用をかけられるわけではありません。そうすると販管費が高くなり、営業利益が出しにくくなります。

このことから分かるように、営業部門がコントロールできるのは売上と粗利だけ。よってプロフィットセンターでなく、アーニング(earnings)センターやレベニュー(revenue)センターとでも呼ぶべきなのです。

では利益を出すのは?

経理がしっかり入金を見て回収の指揮を取り、支出を抑える。総務は仕事しやすい環境を低コストで整える。ITは業務効率を向上させる。これらの機能がなかったら利益が出ません。PLで言うと販管費の部分を抑えるのがこれらの部門の役割です。これらの機能こそが利益を生むので、プロフィットセンターと呼ぶべきなのです。

営業やマーケティング部門に任せていたら経費は好き放題に使うし、効率的な環境は整わないし、ムダの多い作業をし続けてしまう恐れがあります。

利益を出せるバックオフィス部門をデザインする

経営者は仕方なくバックオフィス部門を雇うのではなく、利益を出しやすくするために必要な機能は何か?それが担える人材は誰か?と問い、組織をデザインするべきなのです。

工場もプロフィットセンターと呼ばれますが、それでも経理部門による適切な原価管理・在庫管理や、IT部門のサポートによる製造の効率化があってこその利益です。

会社の3つの機能とは?

EOS®(起業家のための経営システム)では会社の機能は究極的には3つしかないと考えます。その3つとは「営業/マーケティング」「オペレーション」「バックオフィス」です。日本ではなじみのない分け方かも知れませんが、下にそれぞれの機能を記します。これを見ればイメージしやすいと思います。

1.営業/マーケティング:売る。仕事を取ってくる
2.オペレーション:顧客に商品・サービス・価値を届ける
3.バックオフィス:総務・経理・ITなどバックオフィス全般

営業がないと何も始まらない

この3つはどれも欠かすことができません。なぜならどれか一つが欠けていても、ビジネスは回らないからです。たとえば「営業/マーケティング」の機能がなければ会社はどうなるでしょうか?そうです。そもそも何も起きなくなります。商品やサービスがあってもそれを買ってくれる人を誰も連れてきてくれないのですから、何も起きませんし、何もはじまりません。無です。

「製造する仕事があるじゃないか」と思うかも知れませんが、誰も買わないのでそのうち製造もする必要がなくなり、やはり無になりますね。

オペレーションがないと売りっぱなしの会社に

そしてオペレーションです。製造業であれば製造部門と納品を担当する部門、小売や卸売業なら納品部門がこれに当たります。コンサルティング業ならコンサルタントがいる部門です。顧客に価値を届ける部門、そのための価値を生み出す部門がオペレーションです。

ではオペレーションの機能がないと会社はどうなるでしょう?はい、「売りっぱなし」の会社になります。売っても売り物がない、あっても納品しない、そんな会社です。営業/マーケティング部門があれば当初は売上が立つかも知れませんが、すぐに評判が悪くなって買う人がいなくなることは想像に難くありません。

バックオフィス部門が収益性を向上させる

そして最後のバックオフィスです。あなたの会社に総務や経理、ITなどを担当する人がいないことを想像してみてください。入金が管理されないので回収漏れが多い、ムダに経費が使われる、投資が有効だったか振り返りができない、オフィスが乱雑で効率が悪い、ITが整備されていないため紙ベースで仕事をしている・・・。当然リモートワークなども導入できません。こう考えるとバックオフィス部門は営業/マーケティングとオペレーションの部門が効率・効果的に仕事ができるように環境を整えること、それによって「収益性」を向上させる機能があることが分かります。

よって、上で見たようにファイナンス部門こそ「利益を生む」ためにあり、これがないと野放図な経営になって利益が生まれない会社になってしまうわけです。バックオフィスこそがプロフィットセンターだという理由がお分かりいただけたでしょうか。もちろんこの3部門を統合・調整する役割も重要だということは言うまでもありません(この役割をEOS®では「インテグレーター」と呼びます)。

必要悪な機能なんてない

このように明確に役割を定義すると「バックオフィスは必要悪」のような考え方は生まれません。3つのうちのどの機能も会社の存続、成長のためには欠かすことができず、そのためお互いの部門に対して精神論にとどまらない本当の尊敬、尊重が生まれるわけです。

文・久能克也(Opty.G.K.代表)

(提供:THE OWNER