(本記事は、今泉清氏の著書『ONE TEAM!ラグビー日本代表に学ぶ最強組織のつくり方』日本能率協会マネジメントセンターの中から一部を抜粋・編集しています)

読書
(画像=PIXTA)

ジェイミー・ジョセフというリーダーが描いたストーリーづくり

ジェイミー・ジョセフに課せられたリーダーとしてのミッション。

それは、これまでラグビー日本代表チームが乗り超えられなかった壁である、ワールドカップでベスト8に進出することだった。

世界最強のラグビーチーム、オールブラックスでもプレーした経験を持つジェイミー。世界で勝つための「勝者のラグビー」を誰よりも知り尽くしている。

日本人が好むとされる「指示されたとおりに動く」管理的なラグビースタイルから脱却し、一人ひとりが状況に応じて最適な判断を下し、時にはリスクを冒してでもトライを取りに行くという、オールブラックス流のラグビーへの転換を決意した。

ジェイミーは、このミッションを達成するために、選手たちの前でベスト8に進出するためのストーリーを語りながら、「ティア1(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリア)」と呼ばれる強豪10チームに勝つためのマインドを選手たちに植え付けていった。

無論、最初から選手たちの共感を得られたわけでも、コーチ陣やスタッフとの足並みを揃えられたわけでもなかったことは先に述べたとおりである。

高度なスキルや戦術、それに伴うフィットネスを要求するジェイミーに対して、戸惑う選手も少なくなかった。

さらには、自分たちよりも強いとされる「ティア1」のチームに勝つためには時にはリスクを冒してでもチャレンジする必要があるのだが、これをもっとも苦手としているのが日本人だとジェイミーは語っている。

ジェイミーがいくらストーリーを語っても、選手やコーチ、スタッフが100%勝つ気にならなければ、それは「絵に描いた餅」で終わってしまう。

そこで、ジェイミーはワールドカップでベスト8に進出するための綿密な計画を立てていった。

スピードの速いラグビーを展開するために、タックルを受けながらボールをつなぐオフロードパスの導入や、守備の隙をついて相手の裏を取るキックの精度の向上。日本の弱点とも言われたスクラム、ラインアウト、タックルを発展させるためのフィットネスの強化。そのうえでスーパーラグビーのサンウルブズで南半球の強豪チームとの実戦経験や、日本代表チームにおけるティア1とのテストマッチの実施。

こうした実戦からあぶり出された課題の克服。スキルや戦術に加え、「世界の強豪を相手にしても勝てるんだ」というメンタリティーを選手たちに持たせていった。その成果がワールドカップ開幕直前におこなわれたパシフィック・ネーションズカップ2019のフィジー戦での34対21の勝利にあらわれていたということだ。その手ごたえをもっとも感じていたのがジェイミー本人ではないだろうか。

監督、選手、コーチ、スタッフと一体となり、互いを信頼し、チームのために誰もが持てる力をすべて発揮する。同じストーリーを共有しながら積極性を持ち、集中してラグビーに取り組む姿に、私は本当の「ONE TEAM」となった日本代表チームを見た気がした。

あるスポーツ誌に目を通していると、ジェイミーのリーダーとしてのインテグリティを垣間見ることのできたあるエピソードがあった。

それは、ニュージーランドにいたジェイミーが、建設中のある聖堂でゴミ拾いをしている人に出会った話だ。

ジェイミーがその人と話をしていると、彼は清掃員ではなく、聖堂建築においての重要人物だったことがわかった。

重要な役割を担う人がゴミ拾いをしている姿から、目の前にある自分の仕事への向き合い方を深く考えさせられたという内容の話だ。

リーダーとしてストーリーを描く。そのストーリーにエネルギーと時間をかけて骨組みをつくり込み、そのストーリーをチーム全員でしっかりと共有しながら、それぞれが自分の与えられたポジションの仕事を全うする。

こうしたジェイミー流の「PDCA」サイクルがまわり出したことで、日本ラグビーの歴史は塗り替えられたのだ。

選手を「その気にさせる」エディー・ジョーンズのリーダーシップ

一般的に「マネジメント」という言葉は、「管理する」などと訳されるが、管理だけを指す言葉ではない。

「選手の能力を最大限に引き出し、その気にさせる」というのが、ラグビーにおけるマネジメントだと私は考えている。

こうしたマネジメント能力に長けているリーダー。選手をその気にさせる手腕において彼の右に出る者なしという人物がいる。

エディー・ジョーンズである。

エディーがラグビー界の名将であることは誰もが知る事実であり、さまざまなところでエディーのリーダーシップについては語られている。

エディーの著作やインタビュー記事などを読んでいても、「あー、私がサントリー時代に教わったことが、日本代表チームでも、イングランド代表チームでも一貫しているな」と感じることがよくある。

そこで、私なりにエディーのリーダーシップをひと言で言えば、冒頭に述べたマネジメントの本質にたどり着く。つまりは、「選手の能力を最大限に引き出し、その気にさせる」ということなのである。

ではここで、エディーのリーダーシップについて、私自身の経験を交えながら紐解いてみたい。

エディーのリーダーシップでまず私が感銘を受けたこと。そのひとつめが「観察力」であった。

エディーは徹底して選手の一挙手一投足を観察し続け、選手の能力を最大限引き出していた。それは何もグラウンドだけに留まらない。

普段の表情や声のトーンなどにも気をくばり、絶妙な距離感で選手一人ひとりをくまなく観察していたのである。

エディーはとても気さくなところがあり、私たちが遊びでやっているミニゲームに飛び入り参加してみたり、一緒に食事をしたり、たまに飲んだりもした。

こうしたなかでの対話を通じても、やはり選手たちを観察していた。

また、練習で元気がない選手や、試合でのプレーで精彩を欠いている選手には、選手と顔を突き合わせてメンタルまで細かいケアをする徹底ぶりだった。

この「徹底ぶり」が、エディーのふたつめのリーダーシップだ。

私がサントリーでプレーしていたとき、多くの選手は仕事とラグビーを掛け持ちしていた。

なかにはプロ契約している外国人選手が交じっているのだが、エディーは彼らにはプロとして努力する姿勢を強く求めていたのが印象的だった。

ある練習で、プロである彼らが手の抜いたプレーをしたとき、エディーは「君たちはプロなんだろう?だったら人の倍以上の努力をしなさい!」と叱咤した。それによって、チーム内にはポジティブな緊張感が生まれ、集中して練習に取り組めるようになった。

いま思えば、エディーはラグビーのスキルや戦術などよりも、こうした一人ひとりの言動や態度を非常に大事にしていたリーダーだった。

そして3つめのリーダーシップが、「選手をその気にさせる」である。

正確にいえば、「選手を勝てる気にさせる」ことだ。

サントリーでいえば、トップリーグで頂点に立つ。

日本代表チームであれば、南アフリカに勝つ。

イングランド代表チームであれば、オールブラックスに勝つ。

エディーはこのように自身が描いたビジョンを選手たちと共有し、すべて実現してきたリーダーだ。

当然、選手に求める要求も高いわけだが、「君にこれができない根拠がどこにあるんだ?」と選手たちの〝やる気スイッチ〟を探し、次第に選手をその気にさせてしまう。

こうしたリーダーとしての一貫性、すなわちインテグリティを持ったリーダーがエディーなのだ。

ONE TEAM!ラグビー日本代表に学ぶ最強組織のつくり方
今泉 清
元ラグビー日本代表、人材育成コンサルタント。1967年生まれ。大分舞鶴高から早稲田大学に入学。天衣無縫ともいえるプレーぶりから早稲田ラグビーを代表する選手として活躍、在学の4年間で関東大学対抗戦優勝2回、大学選手権優勝2回、日本選手権優勝1回と早稲田ラグビー黄金期をつくる。1990年対抗戦明治との優勝決定戦でのロスタイム70メートル独走トライは今もラグビーファンには語り継がれている。大学卒業後はラグビー王国ニュージーランドでプレー。一流のラグビーを経験した後、名門サントリーに加入。1995年にはラグビーW杯南アフリカ大会日本代表に選出されるなど華々しい経歴を持つ。引退後は、母校・早稲田大学ラグビー部のコーチに就任し、清宮克幸監督の右腕として結果を出すと、その後サントリーのプレイングコーチに就任、後進の指導にあたった。現在は、ラグビーを通じて取得した『組織論』をテーマにした人材育成コンサルタント及び講演家として活動しているほか、CSテレビチャンネルJ SPORTSで世界のラグビー解説者を務めている。著書に『オールブラックス圧倒的勝利のマインドセット』(学研プラス)、『勝ちグセ。』(日本実業出版社)などがある。

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