1つの会社で2つ以上の事業を行っている場合に、すべての事業が好調であるということは稀なケースかもしれない。主軸となる事業は好調であるが、別の事業は軌道にのらず、赤字の状態が続いているといったケースも多いのではないだろうか。赤字事業をそのまま継続していくと、取り返しのつかないほど負債が膨らんで、結果的に会社全体に重大な影響を及ぼしてしまうことも経営実務においては散見される。
そのような状況に陥った場合には、会社が行っている業績のうち、良い事業だけを残しながら、悪い事業を切り離すという、いいとこ取りとも思える私的整理スキームを利用したい。その方法は「第二会社方式」という。
第二会社方式とは?
「第二会社方式」とは、財務状況が悪化している企業から収益性の高い事業のみを会社分割や事業譲渡などのM&A手法により切り離したうえで、他の事業者(第二会社)に承継させ、不採算事業は旧会社に残した状態で特別清算(注)等をする事業再生手法のひとつである。今回は、実務上最も適用が多いと思われる「会社分割」を利用した第二会社の具体的な手順を見ていくこととする。
不採算A事業と優良B事業を営んでいる対象会社を例としてみていきたい。まず、優良B事業を会社分割により新会社に承継させる。対象会社は、新会社の株式を所有することとなるから、これを第三者に売却して現金化する。その現金で金融機関等の借入の負債の一部を返済したのち、特別清算手続により対象会社は消滅する。この手続きを図にすると以下のような流れになる。
(注)特別清算とは、会社法で定められた清算手続であり、株式会社に適用される制度である。
特別清算手続においては、第三者の管財人は選任されず、株式会社の解散時に選任される清算人(代表取締役など)が清算株式会社の財産を換価・処分していくことになる。
他方、破産手続により会社を清算させることもあるが、手続が開始されると、第三者である弁護士などの破産管財人が選任され、財産の換価・処分を行うことになるが破産管財人へ支払う報酬を予納しなければならないことなどから、特別清算手続と比較すると一般的にコストがかかるとされている。
第二会社方式の会計上の取り扱いは?
会社分割を採用する場合には、会社分割後に分割法人が整理される予定となっている。しかも、分割法人が交付を受けた分割承継法人の株式は、外部のスポンサー企業に譲渡される予定であることから、税務上の適格分割の要件を満たさない。そのため、分割承継法人の株式をスポンサー企業に譲渡して得た対価は、優良事業の売却益と考えられる。
分割と株式の売却を一体の取引として処理するのが、実態に合っていると考えられるが、会計上は、分割を共通支配下の取引と、株式の売却と分けて処理することも考えられる。なお、分割承継した受入純資産価額(承継した資産・負債の差額)と支払対価(株式)との差額は、会計上および税務上において「のれん」として認識され、会計上では20年以内での均等償却を行うことになる。
第二会社方式のメリットは?
第二会社方式を採用するメリットは、「税務上の優位性」と「手続きの透明化及び明確化」があげられる。
1. 税務上の優位性
対象会社は、借入金等の債務免除になると、債務免除益課税が生じることになる。法的整理を選択した場合には、資産の評価損益の計上と期限切れ欠損金を優先適用するなどして免除益を相殺できる損金を発生させ、青色欠損金を残しておくことも可能である。
私的整理を選択した場合には、原則として、資産の評価損益の計上や期限切れ欠損金の優先適用が認められていない。通常は、企業再編税制の適格要件を満たすことができないため、債務免除益課税が生じる可能性がある。
一方、第二会社方式では、対象会社は事業譲渡等に伴う資産の譲渡損を出すことで債務免除益と相殺することができるほか、対象会社を特別清算する場合には、期限切れ欠損金を利用することができるため、債務免除益を回避することが可能となる。
また、新会社が受け入れた資産と負債の差額は「のれん」となるが、この「のれん」は税務上の損金となるため新会社が青色欠損金を承継することと類似した効果がある。なお、税務上「のれん」は5年の均等償却となる。
2. 手続きの透明化及び明確化
特別清算手続を採用する場合には、裁判所の関与が発生することで、手続きに透明性がある。加えて、優良事業を現金化することにより債権回収が進むため、債務免除を行う債権者側にとっては会社整理の手続きを許容しやすいといえる。
また、清算手続中の債権放棄は、寄付金課税などの税務リスクが少ないこともメリットのひとつといえよう。そして何よりも重要なのは、優良事業を継続させるうえで、既存事業の債務などから法的にも遮断させることが可能なことであろう。そうすることで、優良事業の受け皿である新会社の出資者・スポンサーなどの協力が得やすい環境が構築できるのである。
第二会社方式の4つの問題点
他方、第二会社方式には問題点がある。
1. 許認可の承継の問題
第二会社方式では、法的には、新会社が事業を開始することとなるため、営業上の許認可を再取得する必要がある場合に、その許認可の取得時期が不明確となるほか、許認可を取得するための手続きにコストや時間を要するため、事業の継続性に問題が生じる。
2. 移転コストの問題
新会社での事業を進める中で、不動産などの資産を移転する必要がある場合に、不動産取得税や登録免許税などの移転コストが新に発生するという問題点がある。
3. 資金調達の問題
新会社では運転資金や新規設備投資の資金需要が生じるが、旧会社の既存の取引金融機関からの資金調達は非常にハードルが高いといえる。
4. 債権者に対する不当な損害発生の問題
第二会社方式を採用すると、対象会社に貸付などを行っていた金融機関などの債権者は不利益を被ることが発生してしまう。債権者が貸付を行っていたのは、対象会社が優良事業だったからだが、その優良事業がまったく関係のない新会社に移転してしまい、対象会社には不採算事業しか残らないことになる。その後、対象会社が破産等の手続きを行うと、実質的な債権回収ができなくなるためだ。
実務においても、一部のコンサルタントなどが不意打ち的な会社分割による第二会社方式を採用することで、金融機関などに不測の損害を与えた事例が散見された。このような行為を防止する観点から、会社分割の悪用により、債権者を害するような財産移転を取り消す最高裁判決が下されてもいる(最高裁2012年10月12日)。
このようなことを受け、第二会社方式の問題点をクリアしながら、第二会社方式のメリットを最大限生かすために、「産業競争力強化法」が整備された。
第二会社方式と産業競争力強化法との関係
2014年1月20日に施行された産業競争力強化法の規定に基づき、第二会社方式について「中小企業承継事業再生計画」の認定制度が創設された。認定されると第二会社は、1.営業上必要な許認可の承継、2.税負担の軽減、3.金融支援を事業の再生に活用することができる。
1. 支援措置
中小企業の第二会社方式による再生計画(中小企業承継事業再生計画)の認定を受けると、第二会社方式が抱える課題に対する以下のような支援が受けられる。
・営業上必要な許認可の承継
第二会社が営業上の許認可を再取得する必要がある場合には、旧会社が保有していた事業に係る許認可を第二会社が承継することができる。承継の対象となる主な許可は、旅館営業の許可、一般建設業の許可・特定建設業の許可、一般旅客自動車運送事業の許可(バス・タクシー)、一般貨物自動車運送事業の許可(トラック)、火薬類の製造の許可、火薬類の販売営業の許可、一般ガス事業の許可・簡易ガス事業の許可、熱供給事業の許可等である。
・税負担の軽減措置
第二会社を設立した場合等の登記に係る登録免許税、第二会社に不動産を移転した場合に課される登録免許税及び不動産取得税が軽減される。
・金融支援
第二会社が必要とする事業を取得するための対価や設備資金など新規の資金調達が必要な場合には金融支援を受けることができる。なお、「中小企業承継事業再生計画」の申請ができる「特定中小企業者」とは、次の要件を満たす中小企業をいう。
2. 認定要件
第二会社方式による再生計画の認定を受けるためには、下記の9つの要件を満たす必要がある。
・財務の悪化状況として、計画申請時点で以下を満たすこと
ⅰ)ネット有利子負債÷CF(キャッシュフロー)>20
ⅱ)キャッシュフロー<0
・中小企業承継事業再生計画の対象となる事業の強化に関して、計画終了時点で以下を満たすこと。
ⅰ)ネット有利子負債/CF(キャッシュフロー)≦10
ⅱ)経常収支≧0
・計画の実施方法として、既存または新たに設立する事業者への吸収分割又は事業譲渡、又は新設分割により特定中小企業者から承継事業者へ事業を承継するとともに、事業の承継後、特定中小企業者を特別清算手続又は破産手続により事業の承継後2年以内に清算するものであること。
・債権者調整が適切になされているものを認定するため、公正な債権者調整プロセス(中小企業再生支援協議会、RCC企業再生スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、民事再生法等)を経ていること
・承継事業者の事業実施に係る資金調達計画が適切に作成されていること
・営業に必要な許認可について、承継事業者が保有、又は取得見込みがあること
・承継される事業に係る従業員の8割以上の雇用を計画期間中確保すること
・従業員との適切な調整が図られていること
・特定中小企業者の取引先企業の売掛債権を毀損させないこと
第二会社方式による事業再生は計画的・スピーディに
不採算事業の整理を中心とする企業再生を行う状況になった場合には、スピードが重要なポイントとなる。しかし、金融機関等の債権者にも事前の情報共有等を行わず、一方的に会社分割を行い、債務の圧縮を図ったとしても、会社分割等の再生スキームの効力が否定される可能性が残ってしまう。
そのため、私的整理を検討する段階においては、信頼できる専門家に相談しながら、事前に十分に検討を行い、計画的かつスピード感をもって実施しなければならない。また、債権者に対し、再生スキームについて十分に説明し、可能な限りその理解を得たうえで実行することが極めて重要である。(提供:THE OWNER)
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)