(本記事は、尾原和啓氏、山口周氏の著書『仮想空間シフト』エムディエヌコーポレーションの中から一部を抜粋・編集しています)

依存の反対はたくさんのものに依存すること

月10万円副業!
(画像=Rido/Shutterstock.com)

尾原:もう一つ人生に関する大きな変化として「安定」に対する考え方、価値観が変わるのではないかと思っています。

今までは正解がわかっていて、その正解に向かっていくというのが安定とされていたんですよ。同じような人間が同じような場所で、みんなで横一直線のスクラムを組んで正解に向かって突進していこう、というイメージですよね。

でもこれからの時代はいつ正解が変化するかわからない。変化が早い時代になるというのは、どこに「穴ぼこ」があるかわからない世界になるということです。

突然穴が開くかもしれない道をみんなでスクラム組んで進んでいたら、全員一緒に落ちてしまいますよね。

じゃあこれからはどうなっていくかというと、安定というのは遠くにいる人と繋がりあって網の目のように協力し合うことなんです。もし自分の下に穴が開いても、他の人は遠くにいるから無事だし、その人たちと網の目のように繋がっていれば自分を救い上げてくれます。

それは会社という単位でもそうだし、個人でもそう。アイデンティティにしても、複数持っていれば一つのアイデンティティが沈んでも他のアイデンティティに没頭することで自分本体は傷つかずにすみますよね。もしくは複数のプロジェクトの中でいろいろな役割を持っていれば、一つの係でうまくいかなくても他の係が生活をささえてくれる。

山口:わかりやすい例で言うと、一つの会社に依存していて、もしもその会社がコロナ禍の影響で倒産してしまったら路頭に迷ってしまう、という話ですよね。

そういう意味では、本当に安定した収入を得るためには複数の収入源を持っていないといけない、というのを今回のコロナ禍を通じて肌で感じた人も多いと思います。

そんな中で副業禁止とか言っていたら、誰も安定できなくなってしまう。そのためもう、副業とか兼業という言葉もなくなるんじゃないでしょうか。それが当たり前の世界になる。

今、兼業というと月火はAの仕事をして水木金はBの仕事をする、みたいな感じですよね。もしくは午前はAで午後はB、あるいは週末起業みたいな。それがプロジェクト単位になるのでもっとまだらで、さらにはプライベートも含めて混ざり合っていくと思います。

尾原:『モチベーション革命』で引用させてもらった小児科医の熊谷晋一郎さんの言葉に「自立とは依存先を増やすことである」というものがあります。何かに依存するのは危険だとよく言われますが、その解決策は依存先をなくすことではなくたくさんの依存先を作ることなのです。

だから今山口さんがおっしゃったように、複数の収入源を持つことも、複数のアイデンティティを持つことも、何かひとつのものに依存せず自立した自分を作るために重要なんですよね。

人生のポートフォリオを作ろう

山口:ただ、そういう「会社に頼らない」生活になるというのにまだ不安を感じるという人も多いですよね。

尾原:少なくとも現在の日本では会社員が安定している、という価値観を持つ人は多くいますからね。

山口:私も、完全に会社員という立場じゃなくなったのは去年からなんですが、その決断をするのは凄く怖かったですよ。

尾原:え、それは意外ですね。山口さんほどの人でも、会社員の方が安心という感覚があったんですか。

山口:それ、よく言われるんですが。実は臆病なところがあるんですよね。「月給がゼロの男」に初めてなってみて、去年は不思議な気持ちでした。

もちろんさまざまなお仕事はさせていただいていたので、収入がどうという話ではないんですが、23歳のころから25年間ずっと月給を貰っていたわけなので、月給がゼロっていうところに不安と言うか、そういう感覚はありましたね。

ただそれって「どちらがリスクなのか」という話なんですよ。毎月決まった額が貰えないということをリスクだと捉えるから会社員は安定しているとみんな考えるわけですけど、一つの会社に依存していたらその依存先が消滅してしまったらその瞬間収入がなくなる、そういうリスクを抱えることになります。

それなら複数に依存している方がリスクは低いという考え方もあるわけです。

この本を読んでくださっている読者の方の多くは、メインの収入源として会社に勤めていらっしゃると思います。その状況からいきなり一つの収入源に依存するなと言われるとすごく怖いと思うんですが、こういう仕事のポートフォリオ、すなわちどんな仕事をいくつやって、どんなバランスで収入を得るかという設計図を作ることはこれからの時代非常に重要だし、やってみると楽しいことだということは伝えたいですね。

もう一つ指摘しておきたいのは一つの仕事しかやっていないと、その仕事でリスクをとることができなくなる、どうしても守りに入ってしまうということです。複数の仕事をやっていると、安定的に成果を出す仕事と、少し無理目の取り組みをしてリスクをとる仕事を組み合わせることで、良い意味で失敗体験を継続することができます。年齢を重ねることで一般に失敗のもたらすダメージは大きくなりますから、複数の仕事を掛け持つことで

リスク分散できるのはとても重要なポイントです。

尾原:自分の人生を自由にデザインできるわけですからね。そこはぜひ楽しんで欲しいと思います。

山口:収入面だけではなくコミュニティとかアイデンティティという面でみても同じことがいえます。「そのコミュニティから排除されたら生きていけない」という状況だからセクハラやパワハラがあっても会社をなかなか辞められないわけじゃないですか。

それで人が辞めないと言うことは、セクハラやパワハラや、いわゆる「ブラック」という変な会社が、生き残ってしまう、労働市場から淘汰されないということになりますから社会全体で見ても良いことではないですよね。

みんなが複数の仕事をもっていて「不当なことを押し付けられることや、こちらの権利を侵害してくるような仕事はいつでも切ってやる」という状態ならば、ブラック企業は自然と淘汰されていくはずなので。

ライフワークとライスワークを分離させる

尾原:副業、兼業、というところでいうならライフワークとライスワークを分離させよう、というテーマは以前から提案しています。

たとえ収入がなくてもやりたい、という仕事がライフワークです。まさに自分らしさを人生かけて追究することです。

一方で生活するための収入を稼ぐための仕事がライスワーク。こちらは時給的な考え方というか、収益の効率みたいなものが求められます。

この2つが一致してライフワークで困らないくらい稼げるようになるのが理想ですが、そうはいかない人の方が多いですよね。

山口:私もそれは微妙にズレています。

尾原:お、そうなんですか?ほう。

山口:やっぱりモノを書いたり、こうやって尾原さんと対談したりというのはライフワークですよね。やりがいがあるし、楽しいので。

けれど単位時間あたりの収益でいえば、やっぱり大企業の幹部候補をトレーニングするとか経営者にアドバイスするみたいな仕事の方が良くなるんです。

尾原:ははは、それはそうですね。なるほど。

山口:もちろん大企業にアドバイスするのが嫌だとか苦痛というわけではないんですよ。

ある種の臨床の場というか、そこでインプットしたことを執筆や対談をするというアウトプットに活かしているので、ライフワークである執筆や対談も、ライスワークである企業アドバイスも、完全に別々というわけではなくて一つの価値生産サイクルの中で繋がってはいます。

ただやっぱりどっちの方がワクワクするかといえば、こちらの対談の方がワクワクしますよね。

尾原:それはそうですね。私もよく仕事の中で、充電のための仕事と放電のための仕事、みたいな言い方をしています。

ちょっと今から放電してお金を稼ぐけど、放電ばっかりしていると人生がやせ細っていくから、たとえお金が稼げなくても自分自身を充電できるような仕事もやっていく、という。

山口:そうですね。だからそこはやっぱり、自分を俯瞰して経営するような視点が必要ですよね。金銭的な豊かさと精神的な豊かさのバランスをとりながらポートフォリオを作らなければならない。

尾原:放電するときはできるだけ効率的にお金を稼ぎたいわけですよね、基本的には。でもその一方で、たとえお金が入らなくてもうまく充電できていればそれで楽しいから、金銭的な豊かさはさほどいらないという人もいるだろうし、いて良いわけです。

そこは人それぞれだから、自分の価値観というのをしっかり把握する、まさに自分を経営する感覚で見つめなおす必要がありますよね。

仮想空間シフト
尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。フューチャリスト。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグル、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『アフターデジタル』(日経BP)、『ネットビジネス進化論』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)など。
山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後に独立。現在は「人文科学と経営科学の交差点で知的成果を生み出す」というテーマで活動を行う。株式会社ライプニッツ代表、一橋大学大学院経営管理研究科非常勤講師、世界経済フォーラムGlobalFutureCouncilメンバーなどの他、複数企業の社外取締役、戦略・組織アドバイザーを務める。著書に『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。

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