(本記事は、和田秀樹氏の著書『「ボケたくない」という病』世界文化社の中から一部を抜粋・編集しています)

鬱
(画像=PIXTA)
Q 一日中ボーッとしている親は認知症でしょうか?
最近、親が外に出ることがめっきりへりました。買い物はもちろん、着替えもあまりしなくなり、一日中ボーッとしていることがふえました。認知症ではないかと思っているのですが……。
A 老人性うつの疑いも捨て切れません。
初期の認知症と間違われやすいのが「老人性うつ」。なんでも「ボケ」で片づけず、認知症以外の原因を疑ってみることも大事です。

解説

老人性うつは認知症より深刻な病気です

おしゃれだったのに、おしゃれを楽しむどころか着替えさえしなくなった、買い物などでしょっちゅう外出していたのにしなくなり、家でボーッとしていることがふえた……。

確かに認知症初期では、物忘れ以外にもこうした症状が出てきます。親にこのような変化があると、子どもとしては、「もしかしてボケ始めた?」と感じるのが当然といえるでしょう。

しかし、無気力になって、それまでしていたことをやらなくなるのは、何も認知症に限ったことではありません。高齢者の無気力は、認知症以外のところに原因が潜んでいる場合もあることを知っておいてほしいと思います。

認知症以外の原因として第一に考えられるのは「老人性うつ」。こちらのほうが認知症よりも深刻です。

というのも、認知症は症状が進んでくると病識がなくなり、多幸的で明るくなる人が多いのに対し、うつの場合、本人はつらい状況をはっきりと自覚しています。

それだけに、落ちこんで悲観的になり、不眠に悩まされ、ときには妄想に取り憑かれて、底なしの恐怖を味わうこともあります。それまでの人生にはいいこともあったはずなのに、不幸一色に塗り替えられてしまい、自責の念や罪悪感にさいなまれて自殺願望に取り憑かれたもりします。

このつらい状況を理解してもらえないばかりか、認知症と誤診されて病気の治療が受けられないとなると……。まさに「生き地獄」です。

老人性うつは早期発見・早期治療が大事

老人性うつは、非常に見過ごされやすい病気です。

この病気では記憶力が落ちるうえ、集中力も続かず「気もそぞろ」状態になるため、さっきいわれたことを覚えていなかったりします。着替えをしない、外出をしない、化粧をしない、風呂に入らない、など「ものぐさになる」といった症状も出てきます。

老人性うつが認知症と誤診されやすいのは、このような、認知症によく似た症状が出るからです。しかし、うつと認知症では治療法がまったく異なります。老人性うつなのに認知症と誤診されて治療を受けると、病気が悪化することも珍しくありません。

老人性うつと認知症の違いをあげています。親や身近な高齢者の様子に異変を感じたら、認知症と決めつけず、うつの可能性も視野に入れて、専門の医療機関を受診させるのが正解です。

残念ながら認知症は治りません。しかし、うつ病は治る病気です。しかも、老人性うつの場合は、ほかの世代のうつ病に比べて薬がよく効く場合が多いですから、早期発見で適切な治療をすれば、病気を長引かせずにすむのです。

ボケたくないという病
(画像=「ボケたくない」という病)

Q 親の認知症が疑われる場合、どこに相談すればいいですか?
気がつくと、母がひとりで暮らす実家がゴミ屋敷のようになっていました。若いころは片づけ好きだった母だけに驚いています。もしかすると、母は認知症なのかもしれません。どこに相談すればいいですか?
A かかりつけ医か地域包括支援センターに相談を。
まず「地域包括支援センター」に相談をしてみましょう。認知症や介護に関する、さまざまな不安や疑問が解消されるはずです。かかりつけ医があるなら、そこでもOK。

解説

地域包括支援センターは認知症や介護の総合相談窓口

きれい好きで几帳面だったのに、ものの整理整頓ができなくなって家の中が乱雑になり、ものがあふれてゴミ屋敷のようになる……。認知症の症状としてありがちです。

親のこうした異変に気づいて焦るものの、どの病院に連れて行けばいいのか、これからいったいどうなってしまうのか、さっぱりわからず、不安ばかりが先行してしまう……。

そんなときに頼りになるのが「地域包括支援センター」です。親の異変に気づいたら、まずここに相談してみるといいでしょう。さまざまな不安や疑問が解消されるはずです。

地域包括支援センターは、認知症に限らず要介護認定など介護に関わる総合相談窓口。保健師や看護師、社会福祉士、主任ケアマネジャー(介護支援専門員)などの資格を持つ職員が、高齢者本人や家族の、介護や病気などの困りごとに対応してくれる公的機関で、認知症を診察してくれる医療機関なども把握しています。

このセンターは、特別養護老人ホームや老人保健施設などに設置されているのが一般的です(東京都内ではそうとは限らないようですが)。例えば東京都世田谷区なら『あんしんすこやかセンター』、新宿区なら『高齢者総合相談センター』というように、市区町村によって名称が異なることがあります。わからなければ、市区町村の介護保健課、高齢福祉課などに電話で問い合わせ、最寄りの地域包括支援センターを教えてもらいましょう。

ちなみに、親と同居している場合なら、自宅近くのセンターへ行けばいいのですが、別居しているなら、親が住む地域のセンターを訪ねる必要があります。地域にどのような専門医がいて、どんな施設やサービスがあるかは、その地域のセンターでなければわからないからです。ただし、とにかくいろいろ相談してみたいという場合なら、とりあえず自宅近くの地域包括支援センターに行くのも手。基本的な知識は得られるはずです。

いずれにせよ、地域包括支援センターに行く場合は、相談したいこと、知りたいことを整理しておくのがポイント。認知症が疑われる親の症状、困っていることなどを具体的に伝えることも大切です。そのうえで専門の医療機関を紹介してもらうといいでしょう。

認知症医療疾患センターや認知症サポート医に相談しても

自宅近くに「認知症医療疾患センター」があるなら、そこに相談するのも選択肢のひとつです。

これは、認知症に関する専門医療の提供と、介護サービス事業者との連携を担う存在として設置されている機関で、2019年4月末現在、全国に449か所あります。大病院が運営する入院施設も整った基幹型、精神科病院が運営する地域型、診療所やクリニックが運営する連携型、と3つのタイプに分かれていますが、いずれも、電話相談を受けつけていますから、まずは電話で相談し、その後、受診してみてはどうでしょうか。

専門医のドアをいきなり叩くのは、ハードルが高いと感じたり、本人が嫌がったりする場合もあるでしょう。そんなときは診断への第一歩として、自宅近くの「かかりつけ医」に相談してみるのも、ひとつの選択です。

最近は「認知症サポート医」(認知症対応の研修を修了した医師)になっている開業医もふえていますから、かかりつけ医が認知症サポート医である可能性もあります。もちろんそうでなくても、かかりつけ医は専門の医療機関を紹介してくれたり、情報を提供してくれたりするはずです。

ボケたくないという病
(画像=「ボケたくない」という病)

Q 認知症と診断された際、家族がやらなくてはならない手続きは?
親や配偶者などが専門医から認知症と診断されたときに、家族がまずやらなくてはならないことは? 最初に行うべき手続きなどについて教えてください。
A まずは要介護認定を申請します。
認知症の進行をできるだけ遅らせ、家族や地域の仲間とともに幸せに暮らしていく環境を整えるうえで欠かせない介護保険サービスを受けるため、まずは「要介護認定」の申請が必要です。

解説

介護保険を受けるためには要介護認定が必要

介護保険は「65歳以上で、介護か日常生活の支援が必要になった人」などが受けられるサービスです。これ抜きでは、「認知症生活」の充実は望めません。介護保険サービスの最大の目的のひとつは、認知症と共存するための環境づくり。病気の進行をできるだけ遅らせ、家庭や地域で幸せに暮らす環境を整えるために、介護保険は存在しています。

65歳になると、医療保険の保険証とは別に、市区町村から「介護保険被保険者証」が交付されます。しかし、これだけで介護保険のサービスが受けられるわけではなく、サービスを受けるためには、「介護が必要な状態」と認められなければなりません

この認定を受けるには、認知症の人が住む市区町村の役所の窓口(介護保険課など)に、本人または家族が申請する必要があります。既述した地域包括支援センターに代行申請を依頼することも可能です。要介護認定の申請が受理されると、市区町村の担当者が自宅(入院中なら病院)を訪れて聞き取り調査(認定調査)が行われます。全国共通の調査票を使って行われる調査では、「日常生活の自立度」「認知機能」「精神・行動障害」「社会生活への適応」などについて聞かれます。

この調査できちんと認定されなければ、本来受けられるはずのサービスが受けられなくなる場合も。例えば、本当は「要介護3」なのに、もう一段軽い「要介護2」に認定されてしまうと、特別養護老人ホームに申しこむことができなくなってしまうのです。

そこで重要になってくるのが、家族の立ち会い。認知症でも、初めて会う調査員の前ではシャキッと振る舞うことが多々あります。遠慮やプライドから、何でも「できる」「問題ない」と答えてしまう傾向も。これでは正しい認定ができないので、家族から真実を伝えましょう。ただし本人のプライドを傷つけないよう、別室で話すなどの配慮は必要です。

こうして出た調査結果と、かかりつけ医などが書いた「主治医意見書」(認定調査のときにふだんよりしっかりした対応をすることがよくあるため、かかりつけ医にふだんの病状を書いてもらうのも重要なテクニック)をもとに判定が行われ、要介護度が決定されます。要介護度は、「非該当(自立)」を除き、軽い順に「要支援1〜2」「要介護1〜5」の7段階。これが出てはじめて、介護サービスのスタートに立つことができるというわけです。

受ける介護保険のサービスはケアプランに基づいて決定

要介護認定が下りたら、利用する介護保険サービスを具体的に決めていくことになります。利用者が自分で勉強して利用可能金額に応じて申しこむこともできますが、一般的には、プロが作成した「ケアプラン」に基づいて行うことになります。

ケアプランとは、介護保険サービスを、利用者の状況に合わせて、いつ、どれだけ利用するかに関する計画。本人や家族で作成することも可能ではありますが、実際には、要支援1、2なら地域包括支援センターに、要介護1〜5であれば「ケアマネジャー」に作成を依頼することがほとんどです。作成は無料であることが多いようです。

ケアマネジャーとは、介護サービス事業者の選定・手配・調整などのコーディネート業務を行う介護のプロフェッショナル。介護を必要とする人の相談にのり、その人に適したケアが受けられるようコーディネートするのが役割です。つまり、よい介護生活を送りたいなら、よいケアマネジャーに出会うことがカギとなってきます。

よいケアマネジャーとは、認知症介護に詳しい人であることは大前提。さらに、本人や家族の要望をきちんと聞き、意思決定ができるように納得するまで説明をしてくれ、各施設の現状を知り、複数のケアプランやサービスを提供してくれる人なら安心です。

よいケアマネジャーと出会うコツ

介護生活の成否を握っているともいえる重要な存在のケアマネジャーは、「居宅介護支援事業所」などに所属しています。

居宅介護支援事業所とは、介護を必要としている人が適切な生活支援を受けられるよう、各種介護サービスに関する手続きを代行してくれる事業所のこと。要介護認定を受けると、結果とともに、市区町村内にある、こうした居宅介護支援事業所のリストが送られてきます。利用者は、送られてきたリストの中から事業所を選び、介護保険サービスの契約をすることになります。

よいケアマネジャーに出会えるかどうかは、事業所選びにかかっています。事業所を選ぶときには、3つのポイントを押さえておきましょう。

ひとつは「自宅から近い」こと。自宅と事業所との距離が近いほうが、ケアマネジャーもこまめに自宅を訪れてくれるなど、きめ細かな対応が期待できるからです。

次のポイントは、「ケアマネジャーが3人以上いる」こと。小さな事業所だとひとりしかいない場合が多いものですが、やはり規模が大きいほうが、さまざま視点からの目配りが期待できます。そして、もうひとつのポイントは「ベテランのケアマネジャーがいる」こと。現場経験が豊かなケアマネジャーに担当してもらえれば、安心であることはいうまでもありません。ただ、特定の事業所に所属している人の場合は、自分の事業所のサービスばかり紹介することもあるため要注意です(もちろん、いい人もいますが)。

地域包括支援センターにおすすめの事業所を尋ねても、立場上、答えてはくれないでしょうから、「家から近い事業所は?」「ケアマネージャーが3人以上いる事業所は?」「ベテランのケアマネジャーがいる事業所は?」などと尋ねてみましょう。

ボケたくないという病
(画像=「ボケたくない」という病)

Q 離れて暮らす親の遠距離介護は可能ですか?
遠く離れて暮らす親がボケはじめました。引き取って一緒に生活したいのですが、本人が拒みます。かといって放っておくわけにはいきません……。遠距離介護は可能なものなのでしょうか。
A 遠距離介護は可能ですし、メリットもいっぱい。
親を呼び寄せて同居することが、必ずしもいいとは限りません。離れていても介護はできますし、遠距離介護ならではのメリットもあります。

解説

ひとり暮らしのほうが認知症の進行は遅い

離れて暮らしている場合、親が高齢になってくると、だれでも心配が尽きません。できることなら同居したいと思いますし、親がボケてきたらなおさらでしょう。

しかし、子どもが仕事を持っていて働き盛りだったりすると、親の元へUターンするのは現実的ではありません。そこで子どもは、親を自分の家や近所へ呼び寄せることを考えると思いますが、たいていの場合、親のほうが拒否します。住み慣れた場所を離れるということは、愛着のある家、友人やなじみの店、見慣れた風景や聞き慣れた方言とも離れなくてはならないということ。さみしいし、抵抗を示すのが通常でしょう。

「それでも子どもと一緒だからいいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、呼び寄せたところで、子どもは仕事に出かけ、結局、親は慣れない土地で日中ひとりぼっち、あるいは、子の配偶者に気を遣って肩身の狭い思いをしたりして、どちらにしても精神衛生上、よくありません。新たな環境になじむことは難しく、認知症が進行するケースも珍しくないのです。

認知症の親がひとり暮らしをするのは、多くの困難や危険があると思われがちです。だからこそ、ほとんどの人が同居を検討するのですが、実は、ひとり暮らしのほうが、認知症の進行は遅いことがわかっています。

認知症でも、元気にひとり暮らしをしている高齢者はたくさんいます。かなりボケてしまっていても、毎日決まった時間に起きて布団を上げ、仏壇に手を合わせ、朝食をとり、猫に忘れずに餌をやる……というようなことを、大きなミスを犯すことなく続けている人は大勢いるのです。

このような独居の高齢者は、家族が何でもやってくれる同居に比べると、頭と体を使う機会がはるかに多いといえます。ひとり暮らしのほうが認知症の進行が遅いのは、頭と体をよく使うことが理由です。また、同居によって、介護保険サービスの利用に制限が出てくる場合もあります。必ずしも「同居がベスト」とはいえないことがわかるでしょう。

独居の高齢者を見守るサービスはいろいろ

遠く離れて暮らしながら、親の介護を続けている人は珍しくありません。遠距離介護は、決して不可能なことではないのです。

遠距離介護では、親も子も、それぞれが住み慣れた土地で、それまで通りの生活を続けられます。もちろん、子どもは行ったり来たりの生活になりますから、最初は2つの地点で気持ちを切り替えることができず、戸惑いもあるでしょう。でも、大丈夫。次第に慣れてくるものです。

親、自分の家族、親の担当ケアマネジャー、地域包括支援センターの人などとも納得できるまで話し合い、介護保険のサービスを有意義に利用してください。

独居の高齢者を見守るサービスもいろいろあります。介護保険でまかなえる訪問介護サービスやデイサービスを毎日入れると、介護保険の限度額をオーバーします。そこで、よく使われるのが、それらを利用しない日だけ、食事の宅配サービスを利用する方法。配達は手渡しを原則としている事業者が多く、安否確認を兼ねていることが一般的です。 

対面ではなく、機器による見守りサービスも多種多様です。ポットのお湯を使った時間や回数を子に通知するサービスもあれば、ガスの使用量、冷蔵庫などの使用頻度を通知するものなどいろいろあります。いずれも、使用量や使用頻度などで親の生活の変化の有無を確認するというものです。

「緊急通報システム」というサービスもあります。ひとり暮らしの高齢者がペンダント型の緊急ボタンを身につけておき、具合が悪くなったときなどにボタンを押せば、警備会社の職員などが駆けつけ、必要に応じて救急車が出動するシステムです。

この緊急通報システムを含め、どんな見守りサービスなら安心を得られるかは、親子ごとに違っているはずです。よく検討し、自分たちに合ったサービスを導入しましょう。

また、近所の人や親類も、とくに地方では力になってくれることも珍しくありません。ただし、受け取ってもらえないかもしれませんが、お礼は申し出るほうがいいでしょう。

ボケたくないという病
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ボケたくないという病
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「ボケたくない」という病
和田秀樹
1960年大阪生まれ。1985年、東京大学医学部卒業。老年精神科医。国際医療福祉大学大学院教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。『自分が高齢になるということ』(新講社刊)ほか著書多数。

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