(本記事は、和田秀樹氏の著書『「ボケたくない」という病』世界文化社の中から一部を抜粋・編集しています)

食事
(画像=PIXTA)

【コツ1】「魚よりも肉」の食生活を心がけよう

肉は体に悪いけど、魚はヘルシー――。

世の中には、こんな主張がまかり通っています。

これを真に受け、若いころは肉をガッツリ食べていたような人でも、年齢を重ねるにつれて、肉より魚にシフトしていく場合が少なくありません。そして、「俺(あるいは私)って、なんて健康的なんだろう!」と、悦に入る……。

確かに、イワシやサンマなどの青魚には、血液をサラサラにするなどの効果があるDHA、EPAといった必須脂肪酸が多く含まれています。もちろん、こうした魚をよく食べるように意識するのは、決して悪いことではありません。しかし、だからといって、肉を敬遠し、魚中心の食生活を送るのはどうなのでしょうか……。

少なくとも、脳にとっては不健康であると断言できます。肉を控えた食生活は、脳の老化を進め、ひいては、認知症のリスクを高めることにもなりかねないのです。

40代以上、いわゆる「中高年」と呼ばれる年代になると、セロトニンの分泌がへってきます。

このセロトニンは、〝幸せホルモン〞とも呼ばれています。脳内で分泌されると緊張した状態がやわらぎ、明るく前向きな気持ちになることが、その所以(ゆえん)です。また、快感や欲求を司るドーパミンや、恐怖や驚愕(きょうがく)をもたらす興奮物質のノルアドレナリンといった神経伝達物質の過剰な分泌を抑えるなど、精神の安定や感情のコントロールにも深く関与していることもわかっています。

こうした作用を持つセロトニンが不足すると、イライラや不安に陥る頻度が増して精神的に不安定になりがちです。それが高じると、うつ病の引き金になることも。いずれにせよ、セロトニン不足が、脳の老化を早めることにつながるのは確かです。

セロトニンの分泌量が減少してくる40代以降は、脳の老化に拍車がかかる危険にさらされていることがわかるでしょう。

とはいえ、やみくもに恐れたり、あきらめたりする必要はありません。加齢にともなうセロトニンの減少を抑えることは可能。つまり、セロトニンの分泌量がへることで加速する脳の老化は防ぐことができる、ということです。

具体的には、どうするか。それは、ズバリ「肉を食べる」です。

セロトニンの分泌を促すには、その材料をせっせと供給してやる必要があります。セロトニンの材料となるのは、トリプトファンと呼ばれるアミノ酸の一種ですが、肉こそ、これを多く含む代表的な食品なのです。

肉に含まれるコレステロールもまた、脳の老化を左右する物質です。コレステロールを目の敵にしている人は多いでしょうが、この物質は脳の細胞膜の材料になり、セロトニンを脳に運ぶ役割を果たしてもいます。さらに、脳内にあるセロトニンは鞘(さや)のようなもので保護されていますが、この鞘はコレステロールでできているのです。

つまり、トリプトファンやコレステロールが不足すると、セロトニンの正常な分泌が損なわれ、結果として、脳が衰えやすくなる可能性が大いにあるということ。「肉を控えた食生活が、脳の老化を進行させ、ひいては、認知症のリスクを高めることにもなりかねない」という理由、おわかりいただけたでしょうか。

コレステロール値を上げるだの、脂肪の過剰摂取になってしまうだのといわれ、肉は何かと〝悪者〞にされがちです。かつては「高齢者は肉を控えろ」というのが、王道の考え方でもありました。しかし、これは大きな間違いで、年をとればとるほど、肉食を心がけるべきといえるでしょう。

ボケたくないという病
(画像=「ボケたくない」という病)

【コツ2】糖質のとりすぎには要注意!

肉も魚もあまり口にせず、食べるのはもっぱら野菜というように、年齢を重ねてくると、完全ではないにしろ、菜食に傾く人は珍しくありません。野菜中心の食事はいかにも健康によさそうですが、さにあらず。動物性たんぱく質もしっかりとるべきです。

体内で必須アミノ酸のひとつであるメチオニンが代謝されるときに、ホモシステインという物質が生成されます。これは、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβをふやすことがわかっています。

実際、ホモシステインの血中濃度と認知機能には相関関係があることを示すデータも存在しています。たとえば、2002年発表のフラミンガム心臓研究(アメリカ)では、血漿(けっしょう)ホモシステイン濃度が14ナノモル/mlを超えると、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが約2倍になったと報告されています。

このホモシステインは、生きている限り、私たちの体内で生成されてしまいますから、これ自体をなくすことは不可能ですが、代謝して無害な物質に変えることはできます。

そこで必要になってくるのが、〝代謝ビタミン〞とも呼ばれるビタミンB群です。中でも、欠かせないのは葉酸、ビタミンB6、B12。葉酸は葉物野菜に多く含まれていますから、野菜中心の食生活でも摂取できますが、ビタミンB6、B12は肉や卵に豊富ですから、菜食では不足しがちです。したがって、ホモシステインを代謝して無害化する意味でも、肉をはじめとする動物性たんぱく質は、しっかり摂取しなくてはなりません。

ビタミンB群を効率的にとるためには、動物性たんぱく質を十分にとると同時に、炭水化物や甘いものなど糖質を控えることも有効です。というのも、ビタミンB群は糖質の代謝にも関わっているため、糖質をとりすぎるとビタミンB群が不足して、ホモシステインの代謝にまで回らなくなってしまうからです。

また、糖質をとりすぎると血糖値が上昇し、その分だけ多くのインスリンがすい臓から分泌されることになります。私たちの体内にはインスリンを分解する酵素がありますが、この酵素は、アミロイドβも分解します。つまり、インスリンが大量に分泌されると、この酵素が不足してアミロイドβを分解できなくなる。結果、脳にアミロイドβがたまりやすくなってしまうという説があります。

糖質の過剰摂取は、認知症のリスクを高めます。とりすぎないよう、注意しましょう。

ただ、これも程度問題で、低血糖は脳にダメージを与えることがわかっています。結果、高齢者の場合はボケたようになったり失禁をしたりするのです。そんなわけで、薬やインスリンで血糖値を下げすぎる害も問題にされています。

私が浴風会病院に勤務した2年間で行われた解剖の結果では、糖尿病のない人はある人より3倍もアルツハイマー型認知症になりやすいことがわかっています。ところが福岡県の久山町で行われている研究では、糖尿病のある人はない人の2倍アルツハイマー型認知症になっています。この2つの違いは、久山町の場合は糖尿病の治療をきちんとしていたことにあるようです。

また糖尿病の人は血糖値を正常にするよりも、やや高めにコントロールしたほうが、死亡率が低いこともわかっています。それは、正常値を目指して治療をすると、どうしても低血糖の時間帯ができてしまうためと考えられます。糖質をとりすぎるのは問題でしょうが、高齢者の場合は低栄養の人が多いので、むしろある程度の血糖値は維持することが大切なのです。

【コツ3】「あれ」「それ」「これ」の指示代名詞を使わない

年齢を重ねれば重ねるほど、人の名前やものの名称を思い出せないことがふえてきます。これは、脳の老化によるものですから致し方がないこととはいえ、「あれ」「それ」「これ」といった指示代名詞に頼ってばかりいるのは、大いに問題です。

どうしても「あれ」の名称が思い出せない。そんなとき、指示代名詞はとても便利です。「なんだっけ?」と考えるより、「あれ、どこに置いたっけ?」などと指示代名詞を使って会話をするほうが、はるかにラクでしょう。

しかし、すぐ指示代名詞に頼るということは、思い出す努力を怠っているということ。

思い出すということは、脳の出力系を鍛えることになるというのに、指示代名詞を使うことで、そのチャンスを自ら遠ざけてしまうことに……。中高年以降はとくにそうですが、脳の機能は使わなければ錆びていく一方です。

「あれ」「それ」「これ」の指示代名詞が会話の中にふえてきたら、脳の老化の加速度がましている証拠。ものや人の名前が思い出せないとき、安易に指示代名詞を使うのではなく、思い出す努力をしましょう。

【コツ4】卵・大豆製品を見直してみる

私たちの体内には、記憶の維持に大きく関わる、アセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が存在しています。アセチルコリンの著しい減少は、アルツハイマー型認知症につながるとされ、実際、アルツハイマー型認知症の患者さんは、脳内のアセチルコリンがへっていることが明らかになっています。

ちなみに、最初にできたアルツハイマー型認知症の薬は、「アルツハイマー型認知症の一連の症状は、脳内のアセチルコリンが減少したために起こっているのではないか」という仮説をもとに開発されました。この薬は、アセチルコリンを分解する酵素の働きを抑えることにより、脳内のアセチルコリンの濃度を高める作用を持っています。

セロトニンと同様、アセチルコリンも加齢にともなって分泌量が減少することがわかっています。その材料であるトリプトファンをしっかりとることでセロトニン不足を予防できるように、アセチルコリンもまた、材料を積極的に補充することで、不足による悪影響を予防することが可能です。事実、アセチルコリンの材料をしっかりとることで、認知症のリスクを下げることができたという研究もあります。

アセチルコリンの材料となるのは、コリンという水溶性の栄養素。たんぱく質の含有量が多い食品に含まれますが、とくに豊富なのは、卵(特に卵黄)や大豆です。これらは肉類と同様に、セロトニンの材料であるトリプトファンを多く含むことで知られています。卵はもちろん、みそ、豆腐、納豆といった大豆製品は、私たちにとって身近な食品です。それだけにかえってなおざりにされがちですが、この機会に見直して、ふだんの食卓に積極的に取り入れたいものです。

ボケたくないという病
(画像=「ボケたくない」という病)

【コツ5】中高年ほどカレーを食べるべし

「認知症の根治薬が登場するかも」と期待されていましたが、海外の大手製薬会社主導の治験は頓挫し、今現在、認知症の特効薬と呼べる治療薬は誕生していません。2020年、エーザイがアメリカで承認を目指す薬がありますが、承認されるかは確実ではないようですし、値段もかなり高額なので、日本で現実に使えるのかもわからないのが実情です。

認知症の新薬開発が難航していることで、「食品によって認知症を予防できないか」という方向に舵が切られ、今、世界中で研究がさかんに行われるようになっています。

そんな中、最近、新たに注目を集めているのが、クルクミン。カレーなどに入れるスパイスのひとつ、ターメリックに含まれる成分で、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβをたまりにくくする作用があることがわかっています。カレーをよく食べるインド人は、アメリカ人に比べて、アルツハイマー型認知症の発症率が4分の1程度であることが知られており、クルクミンを混ぜたエサで育てたマウスは、同病気を発症しにくいことが示されているほどです。

クルクミンを多く含むスパイス・ターメリックの和名はウコン。二日酔い対策としてウコンを日常的にとっている人は、知らず知らずのうちに認知症予防をしていることになるのですが、高い効果を狙うなら、カレーからクルクミンを摂取するのがおすすめです。

というのも、クルクミンは油と一緒にとることで吸収率が高まるため。カレーには必ず油が使われています。また、カレーが苦手な人は少ないし、食事から手軽にクルクミンを摂取するなら、カレーが理想的なのです。

日本人の場合、子どもがいると親も一緒にカレーをよく食べますが、子どもが独立すると、カレーを食べる頻度はめっきりへってくるようです。しかし、アミロイドβは50代ごろからたまりはじめることを考えると、「中高年こそカレーを食べるべき」といえるでしょう。カレーが苦手な人は、ターメリックの粉をみそ汁に入れたり、ピラフに混ぜるなどするのがおすすめ。ただし、クルクミンの過剰摂取は、肝障害を引き起こす可能性もあるので要注意。カレーを食べるなら毎日ではなくせいぜい2日に1回のペースで、ターメリックの粉なら1日スプーン1杯ほど、二日酔いの予防などで飲むウコンのドリンクなら1日1本が目安です。これ以上とると、肝臓に負担がかかってしまいます。とくにウコンを日常的に飲んでいる人や肝機能障害がある人は、量や回数を控えめにしてください。

「ボケたくない」という病
和田秀樹
1960年大阪生まれ。1985年、東京大学医学部卒業。老年精神科医。国際医療福祉大学大学院教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。『自分が高齢になるということ』(新講社刊)ほか著書多数。

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