(本記事は、和田秀樹氏の著書『「ボケたくない」という病』世界文化社の中から一部を抜粋・編集しています)

脳
(画像=PIXTA)
Q 記憶障害以外にどんな症状がありますか?
認知症というと、真っ先に思い浮かぶのは物忘れや徘徊ですが、ほかにはどんな症状が出てきますか?くわしく教えてください。
A 大きく分けると「中核症状」と「周辺症状」があります。
認知症の症状には、脳が障害を受けるために起こる記憶障害や見当識障害などの「中核症状」とそれが引き金になって生じる、徘徊や妄想などの「周辺症状」があります。

解説

「中核症状」の代表的なものとは──

認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」とに分けられます。認知症の原因は、脳の神経細胞の働きが障害を受けることですが、そのために起こるのが中核症状、そして、この中核症状が引き金になって起こるのが周辺症状です。

中核症状の発症の時期や程度には個人差があるものの、同じタイプの認知症の人には、基本的に同じ中核症状があらわれます。対して周辺症状は、脳機能の低下によって直接生じるのではなく、心身のストレスや周囲の環境、本人の性格など、さまざまな要因が複雑に絡み合ってあらわれます。そのため、同じタイプの認知症であっても、人によって出てくる症状はまちまち。また、複数の症状が出てくる人もいれば、まったく出てこない人もいて、個人差が大きいのが特徴です。

まず中核症状ですが、以下のように、いくつかの代表的な症状があります。

●記憶障害……自分の体験した出来事や過去の記憶が抜け落ちてしまう障害。初期は比較的直近の記憶から失われ、次第に思い出せないことがふえていきます。新しいことが覚えられなくなり、何度も同じことを尋ねたり、捜し物をしたりするようになります。

進行するにつれ、子ども時代のことなど古い記憶も抜け落ち、自分の出生地や誕生日など本人なら当然知っているようなこともわからなくなり、最終的には、家族の顔や名前も忘れてしまいます。

●見当識障害……自分が置かれている状況を理解する能力が「見当識」。これに障害が起こると、「今日は何月何日か」「いまは何時か」「自分は今どこにいるのか」「だれと話をしているのか」などがわからなくなってきます。症状が進行すると、外出したときに自分がどこにいるのかわからなくなって迷ったり、トイレと間違って別の場所で排泄(はいせつ)したりします。また、季節を認識できずに夏でも洋服を着こんだり、冷房もつけずに暑い部屋にこもったりすることも。さらに症状が重くなると、家族など身近な人のことも、だれなのかがわからなくなってきたりします。

●思考・判断力の障害……日常生活や仕事に関して、的確な判断ができなくなり、目の前の事実にどう対処すればいいかを考えたり、状況に合った行動をとることが困難に。たとえば、買い物してきた食品を冷蔵庫に入れる際、一緒に買った洗剤なども入れてしまったり、季節や天候、場所などに合わせて洋服をコーディネートできなくなり、季節にそぐわない服装をしたり、洋服の組み合わせがチグハグになったりします。

●失語……聞く、話す、読む、書く、といった言語機能が失われること。言葉数が少なくなり、言葉も短くなるため、それまでのような流暢な会話ができなくなったり、「あれ」「それ」「これ」などの指示代名詞がふえてきたりします。

進行してくると、文章は読めるのに内容が理解できなかったり、人の話は聞きとれるのに意味がわからなかったり、言葉は理解できるのに話す機能が障害を受けているために復唱できなかったりします。

●失行(しっこう)……身体的な問題はないのに、以前はできた行為ができなくなる状態。具体的には、洋服をうしろ前に着たり、ボタンをうまくかけられなかったり、何に使うものかはわかっているのにハサミや歯ブラシなど日常的に使うものの使い方がわからなくなったり、といったことが起こります。

●失認(しつにん)……視力や聴力などの感覚障害がないのに、対象を認知できなくなるのが失認。顔で相手を判別することができなくなったり、日常的に使うものなのに、それが何なのかわからなくなったりします。また、インターホンや電話の呼び出し音など、よく知っているはずの音を認知できなくなったりすることも。そのため、インターホンや電話が鳴っているのはわかっていても、その意味がわからないために応答しなくなったりします。

徘徊、暴力・暴言は周辺症状のひとつ

次に、周辺症状について解説します。

周辺症状は、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia=行動・心理症状)ともいわれていますが、おもなものは以下の通りです。

●抑うつ・無気力……気持ちが沈んで何もする気がしなくなったり、周囲への興味や関心が薄れた状態。具体的には、外出しなくなって家に閉じこもりがちになったり、人と会おうとしなくなったり、好きだったことや趣味をしなくなったり、本や新聞を読まなくなったりします。

●妄想……よくあるのは「物盗(と)られ妄想」。財布や通帳などを自分でどこかにしまい、そのことを忘れて「だれかが盗んだ」といったりします。

●不安・焦燥……落ち着きがなく、イライラしやすくなります。

●幻覚……実際にはないものが、リアルに見えたり聞こえたりする状態。「部屋の中に子どもがいる」「お客さんがきた」などといい、家族が確かめると、だれもいない、といったことが頻繁に起こるようになったりします。

●徘徊……家の中や外を歩き回ること。絶えず歩き回っているため、何の目的もなく歩き回っていると思われがちですが、本人にとっては目的がある場合がほとんどです。家の中で歩き回るのは、トイレや自分の部屋がわからなくなって捜していたり、家から外に出かけるのは、今いる場所が自分の家ではないと思いこんで自分の家に帰ろうと思ったり、自分はまだ現役だと思い、かつての職場に向かおうと思ったりするためです。

●睡眠障害……不眠、日中の眠気、夜間の睡眠がへり、日中はほとんど寝ているといった昼夜逆転など。これらの睡眠障害は、睡眠リズムの乱れや、見当識障害によって昼夜の区別がつかなくなることで起こります。

●暴力・暴言……感情が敏感になり、ちょっとしたことでスイッチが入って暴力をふるったり、暴言を吐いたりすることがあります。自分のプライドを傷つけられたり、欲求が満たされなかったり、強い不安を感じたりするなど、何かしらのストレスがかかったときに生じることが多いとされています。

●食行動障害……脳の食欲中枢にダメージがあると、空腹感や満腹感を覚えなくなり、拒食や過食の症状が出てくることがあります。また、匂いや味がわからなくなったり、その匂いや味が意味することが理解できなくなったりして、食べ物ではないものを口にすることもあります。

以上がおもな周辺症状です。ただし、既述したように周辺症状が出る人はせいぜい1割程度です。必要以上に不安に思わないほうが賢明でしょうし、周囲の対応のしかたや薬で改善できることも多いので、医師や専門家に相談することが重要です。

頭のいい人の脳の使い方
(画像=pathdoc/stock.adobe.com)

Q 認知症は自覚できますか?
認知症になると「何もわからなくなる」といったイメージがあるのですが、実際のところはどうなのでしょうか?認知症になった人は「自分は認知症である」と自覚できるものですか?
A 軽度のうちなら病識はあります。
まだ症状が軽いうちは、「自分は認知症だ」という病識もありますし、自らの思いを表現することもできます。

解説

自分のことを語る認知症患者さんもふえています

かつては、認知症患者は自分が認知症になったこともわからないだろうし、つらくもないだろうと思われていました。認知症は、加齢とともに認知機能が自然に低下していく中で発症するため、本人はもちろん、周囲も気づきにくく、気づいたときにはすでに進行していて、本人が自分の内面を語れる状態ではなかったことが、その大きな理由です。

このような風潮が変わったのは、2004年以降。この年、京都で開かれた「国際アルツハイマー病協会」の国際会議で、若年性認知症を患う男性が自分の状態や内面を語ったことがきっかけでした。これを機に、「本人には何もわからない」という、それまでの常識が覆(くつがえ)りはじめます。また、自分のことを語る認知症の人もふえ、少しずつ認知症に対しての理解が進んでいきました。そして今、「認知症は軽度のうちなら、病識(自分が病気だという認識)がある」ことも、広く知られるようになりつつあります。

それには、精神科医で認知症研究の第一人者でもある長谷川和夫氏の存在も大きいと思います。既述しましたが、氏は、2017年10月に自分が認知症患者であることを公表し、以来、いろいろな場で自らの経験や思いを語られています。

ある雑誌のインタビューでは、「認知症になってはじめてわかったこと」として、「悲しいときは悲しいし、嬉しいときは嬉しい。そこは普通の人とまったく同じ。認知症になったからといって、何もかもわからなくなるわけじゃない」と話しておられます。

氏は、認知症への偏見をなくすために発信を続けており、「僕を通して、認知症は隠すようなものじゃないとひとりでも多くの人に知ってもらいたい」と伝えています。

疑問
(画像=Getty Images)

Q 認知症になると性格が悪くなるのですか?
自分勝手になったり、突然怒り出したり……。認知症になると性格が悪くなると聞いたことがあるのですが、本当ですか?
A キレたりするのには理由があります。
些細なことで怒りのスイッチが入り、認知症の人がキレて暴言を吐いたりするのは、プライドが傷つけられたりすることへのいらだちが大きな原因です。

解説

社会的認知機能の低下で自己中心的に

認知症のひとつに、前頭側頭型認知症と呼ばれるものがあります。このタイプの認知症は、他人に配慮することができない、周囲の状況を考えずに自分勝手な行動をとってしまう、といった症状が出てきます。そのため、はたから見ると「性格が変わった」「性格が悪くなった」と受け取られてしまったりすることがあります。

このタイプに限らず、認知症全般にいえることですが、社会的認知機能(人とのコミュニケーションや社会生活を営むうえで必要な認知機能)が低下するため、人の心を推しはかって適切な行動をとることが難しくなってきます。結果、自己中心的な振る舞いが目立つようになってくる。このことも、「認知症になると性格が悪くなる」と思われる理由でしょう。

さらに、認知症の症状が進んでくると、暴言などの問題行動が出てくることもあります。だれでも怒ることはありますが、ふつうは、怒りを抑えて外に出さないように心がけるものです。しかし、認知症の人は抑えがきかなくなり、感情がすぐ表に出てしまう。ちょっとしたことで怒りのスイッチが入ってしまうので、「突然怒る」「キレやすい」ということになってしまうのです。

しかし、わけもなく怒ったり、暴言を吐いたりするわけではなく、認知症の人が暴言を吐いたりするのは、自分のプライドを傷つけられたり、強い不安を感じたりしてストレスがかかったときが多いとされています。認知症の人は、できることがへっている自分にいらだちや不安を覚えています。でも、プライドは失っていませんから、自分を否定されたり、子ども扱いをされたりしてプライドを踏みにじられると、キレたりするわけです。

病気が進行すると多幸的になるのも事実

認知症では、性格の「先鋭化」ということも起きてきます。性格の先鋭化とは、もともと持っていた性格面の特徴が際立ってくるということです。

性格の先鋭化が進むと、妄想傾向が強くなることがあります。多いのは「物盗られ妄想」といって「お金や物を盗まれた」と騒ぎ立てたりするものです。

たとえば、「しまっていたお金がなくなった」と思ったとき、ふつうなら、「しまった場所を勘違いしている?」「使ったんだっけ?」「しまったと思ったのは間違いか?」などと、自分の記憶をたどって事実関係を検証します。それによって、「盗まれたかもしれない」という仮説が間違いであることを認識するのです。

ところが、認知症が進んでくると、検証はおろか感情をコントロールすることも難しくなりますから、もともと疑り深い性格の人なら、それが高じてついには本格的な妄想へと変わってしまう。そして、「おまえが盗んだ」などと決めつけて騒いだりするのです。

性格の先鋭化が起こると、もとの性格が疑り深い場合は、このように「物盗られ妄想」が出てくることがありますし、嫉妬深い人はより嫉妬深く、ひがみっぽい人はよりひがみっぽく、気難しい人なら頑固さが目立つようになってきます。

「認知症になると性格が悪くなる」と思われるのは、このように、性格の先鋭化も関係しているのかもしれません。ただし、もともと大らかな人なら、天真爛漫さが際立ってくるというように、性格の先鋭化は、いい作用をもたらすことも。また、認知症が進行してくると、多くの人は多幸的になってニコニコと幸せそうにしていることも多く、むしろ「性格がよくなる」ととらえられることも知っておいてよいでしょう。

「ボケたくない」という病
(画像=「ボケたくない」という病)

Q 振り込め詐欺の被害者は認知症の人ですか?
なぜ簡単に騙されてしまうのか不思議でなりません。振り込め詐欺の被害に遭う高齢者は、やはり認知症の傾向があるのでしょうか?
A 認知症になると騙されやすいのは事実です。
振り込め詐欺の被害者が必ずしも認知症の人とは限りません。しかし、認知症初期の人も多いのではないかと思います。

解説

いとも簡単に騙されるのには理由がある!

「振り込め詐欺」など特殊詐欺による高齢者の被害があとを絶ちません。テレビで、街角で、あれだけ注意喚起されているのに、なぜ、簡単に騙されてしまうのか……。

いったん定着したイメージや覚えた方法を容易には変えない人がいます。専門的には「認知が硬い」といい、通常、高齢になるほどそれが強くなる傾向があります。認知症の人では、病気が進行するほど「認知の硬さ」も強くなっていきます。認知が硬いということは、第一印象を変えないということ。つまり、電話の第一印象で相手が孫や息子だと思ったら、最後までその思いこみを変えず、いとも簡単に相手のいいなりになるのです。

特殊詐欺に騙されるのは、総合的な判断力が落ちていることも関係します。高齢になるとその力は少しずつ落ちていきますが、認知症だとそれが顕著です。総合的な判断とは、直面した出来事に対して経験や人の助言などを参考に対応すること。ところが、認知症の場合、その能力が低下しているため、物事を俯瞰(ふかん)して見ることができません。

認知症の人には記憶障害もあります。周囲から散々注意されていても、そのことをすっかり忘れてしまっている。だから、簡単に詐欺に引っ掛かってしまうというわけです。

特殊詐欺に遭うのが認知症の人とは限りませんが、認知症初期の人も多いと思います。孫や息子を名乗る詐欺師から「事故を起こしてお金が必要」といわれて「大変だ、早く振り込まないと」と思えるのですから、相手のいっていることも、自分が求められていることも理解できている。つまり、認知症だとしたらまだ初期のはず。とはいえ、記憶力が落ちていて以前に受けた注意も忘れ、判断力が低下しているため騙されやすいのですが……。

「ボケたくない」という病
和田秀樹
1960年大阪生まれ。1985年、東京大学医学部卒業。老年精神科医。国際医療福祉大学大学院教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。『自分が高齢になるということ』(新講社刊)ほか著書多数。

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