(本記事は、和田秀樹氏の著書『「ボケたくない」という病』世界文化社の中から一部を抜粋・編集しています)


Q 認知症になると性格が悪くなるのですか?
自分勝手になったり、突然怒り出したり……。認知症になると性格が悪くなると聞いたことがあるのですが、本当ですか?
A キレたりするのには理由があります。
些細なことで怒りのスイッチが入り、認知症の人がキレて暴言を吐いたりするのは、プライドが傷つけられたりすることへのいらだちが大きな原因です。

解説

社会的認知機能の低下で自己中心的に

認知症のひとつに、前頭側頭型認知症と呼ばれるものがあります。このタイプの認知症は、他人に配慮することができない、周囲の状況を考えずに自分勝手な行動をとってしまう、といった症状が出てきます。そのため、はたから見ると「性格が変わった」「性格が悪くなった」と受け取られてしまったりすることがあります。

このタイプに限らず、認知症全般にいえることですが、社会的認知機能(人とのコミュニケーションや社会生活を営むうえで必要な認知機能)が低下するため、人の心を推しはかって適切な行動をとることが難しくなってきます。結果、自己中心的な振る舞いが目立つようになってくる。このことも、「認知症になると性格が悪くなる」と思われる理由でしょう。

さらに、認知症の症状が進んでくると、暴言などの問題行動が出てくることもあります。だれでも怒ることはありますが、ふつうは、怒りを抑えて外に出さないように心がけるものです。しかし、認知症の人は抑えがきかなくなり、感情がすぐ表に出てしまう。ちょっとしたことで怒りのスイッチが入ってしまうので、「突然怒る」「キレやすい」ということになってしまうのです。

しかし、わけもなく怒ったり、暴言を吐いたりするわけではなく、認知症の人が暴言を吐いたりするのは、自分のプライドを傷つけられたり、強い不安を感じたりしてストレスがかかったときが多いとされています。認知症の人は、できることがへっている自分にいらだちや不安を覚えています。でも、プライドは失っていませんから、自分を否定されたり、子ども扱いをされたりしてプライドを踏みにじられると、キレたりするわけです。

病気が進行すると多幸的になるのも事実

認知症では、性格の「先鋭化」ということも起きてきます。性格の先鋭化とは、もともと持っていた性格面の特徴が際立ってくるということです。

性格の先鋭化が進むと、妄想傾向が強くなることがあります。多いのは「物盗られ妄想」といって「お金や物を盗まれた」と騒ぎ立てたりするものです。

たとえば、「しまっていたお金がなくなった」と思ったとき、ふつうなら、「しまった場所を勘違いしている?」「使ったんだっけ?」「しまったと思ったのは間違いか?」などと、自分の記憶をたどって事実関係を検証します。それによって、「盗まれたかもしれない」という仮説が間違いであることを認識するのです。

ところが、認知症が進んでくると、検証はおろか感情をコントロールすることも難しくなりますから、もともと疑り深い性格の人なら、それが高じてついには本格的な妄想へと変わってしまう。そして、「おまえが盗んだ」などと決めつけて騒いだりするのです。

性格の先鋭化が起こると、もとの性格が疑り深い場合は、このように「物盗られ妄想」が出てくることがありますし、嫉妬深い人はより嫉妬深く、ひがみっぽい人はよりひがみっぽく、気難しい人なら頑固さが目立つようになってきます。

「認知症になると性格が悪くなる」と思われるのは、このように、性格の先鋭化も関係しているのかもしれません。ただし、もともと大らかな人なら、天真爛漫さが際立ってくるというように、性格の先鋭化は、いい作用をもたらすことも。また、認知症が進行してくると、多くの人は多幸的になってニコニコと幸せそうにしていることも多く、むしろ「性格がよくなる」ととらえられることも知っておいてよいでしょう。

「ボケたくない」という病
(画像=「ボケたくない」という病)

Q 振り込め詐欺の被害者は認知症の人ですか?
なぜ簡単に騙されてしまうのか不思議でなりません。振り込め詐欺の被害に遭う高齢者は、やはり認知症の傾向があるのでしょうか?
A 認知症になると騙されやすいのは事実です。
振り込め詐欺の被害者が必ずしも認知症の人とは限りません。しかし、認知症初期の人も多いのではないかと思います。

解説

いとも簡単に騙されるのには理由がある!

「振り込め詐欺」など特殊詐欺による高齢者の被害があとを絶ちません。テレビで、街角で、あれだけ注意喚起されているのに、なぜ、簡単に騙されてしまうのか……。

いったん定着したイメージや覚えた方法を容易には変えない人がいます。専門的には「認知が硬い」といい、通常、高齢になるほどそれが強くなる傾向があります。認知症の人では、病気が進行するほど「認知の硬さ」も強くなっていきます。認知が硬いということは、第一印象を変えないということ。つまり、電話の第一印象で相手が孫や息子だと思ったら、最後までその思いこみを変えず、いとも簡単に相手のいいなりになるのです。

特殊詐欺に騙されるのは、総合的な判断力が落ちていることも関係します。高齢になるとその力は少しずつ落ちていきますが、認知症だとそれが顕著です。総合的な判断とは、直面した出来事に対して経験や人の助言などを参考に対応すること。ところが、認知症の場合、その能力が低下しているため、物事を俯瞰(ふかん)して見ることができません。

認知症の人には記憶障害もあります。周囲から散々注意されていても、そのことをすっかり忘れてしまっている。だから、簡単に詐欺に引っ掛かってしまうというわけです。

特殊詐欺に遭うのが認知症の人とは限りませんが、認知症初期の人も多いと思います。孫や息子を名乗る詐欺師から「事故を起こしてお金が必要」といわれて「大変だ、早く振り込まないと」と思えるのですから、相手のいっていることも、自分が求められていることも理解できている。つまり、認知症だとしたらまだ初期のはず。とはいえ、記憶力が落ちていて以前に受けた注意も忘れ、判断力が低下しているため騙されやすいのですが……。

「ボケたくない」という病
和田秀樹
1960年大阪生まれ。1985年、東京大学医学部卒業。老年精神科医。国際医療福祉大学大学院教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。『自分が高齢になるということ』(新講社刊)ほか著書多数。

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