シンカー: 財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスで、日米欧ともにマネーが拡大するための目詰まりが解消し、これまでの経済活動の足かせとなってきたグローバルデフレから経済活動を促進するインフレに変化していくマクロ・ロジックをこれまで解説してきた。一方、危機に備えた貯蓄である貨幣の予備的需要が増加し、政府を除く各部門の貯蓄率が一時的に大きく上昇するとみられる。しかし、これまで過度のレバレッジのような現象はなかったため、財政拡大による政府の貯蓄率の低下の方が大きく、目詰まりは解消の方向に動くのではないかと考えられる。企業のリストラやデレバレッジが財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスの効果をオフセットしてしまっていないかを判断するには、企業の投資行動の強弱を確認すればよいだろう。日本では、4?6月期の実質GDPは前期比年率?27.8%と落ちこんだが、実質設備投資は同?5.8%となり、アウトパフォームしている。実質設備投資のGDP比率は16.1%から17.2%へ上昇した。4?6月期の日銀短観でも、2021年度の大企業全産業設備投資計画は前年度比+3.2%となり、売上高計画の同?1.9%をアウトパフォームしている。短期の業況感に左右されない、人口動態にともなう労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクス・5Gを含む技術と産業の革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発が大きな後押しとなっているとみられる。政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がデジタル・トランスフォーメーションなどのイノベーションを促進するだろ。米国でも、4?6月期の実質GDPは前期比年率?32.9%と落ちこんだが、実質設備投資は同?27.0%となり、アウトパフォームしている。実質設備投資のGDP比率は14.4%から14.7%へ上昇した。5・6月のコア資本財受注は前月比+1.5%・+3.4%と、持ち直している。確かに、短期的な経済状況は、新型コロナウィルス感染の第二波の動向とワクチンの開発・普及の速度に依存している。しかし、財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスが継続し、企業の投資行動が堅調であることが確認できれば、中期的な経済動向を強く悲観する必要はないだろう。株価は中長期的な資産価値を織り込むものであるので、比較して重要なのは後者であると考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●グローバルストラテジー(8/14):米国CPI上昇率の急加速は、債券(および株式)が売り込まれる引き金になるか

S&P株価指数は現時点で、3月23日の底値から55%という異例の大幅上昇になっており、史上最高値に急接近している。この期間を通じて、債券利回りは過去最低に近い水準が続いてきた。これを株式ストラテジストの多くが、株式全体および「グロース」株とITセクター株式が引続き選好されている主因の一つに挙げている。こうした見方を基にすると、米国債利回り急上昇の引き金になる何かの要因は、強気の株式市場を脅かすことにもなる。これと全く同じことが2018年第4四半期に発生しており、債券利回りが3%を超えた。7月の米国コアCPI上昇率は0.6%と驚くほど高水準で、短期的にはデフレによって打撃を受けるという筆者の見通しに完全に逆らう格好になっている。インフレ加速懸念が債券利回りを押上げるならば、上記のような株価上昇の足元を揺るがすことにもなりかねない。

●メキシコ経済(8/11):中銀声明はタカ派的…追加緩和のペースダウンが見込まれる

メキシコ中銀(Banxico)が8月に実施した利下げと声明を受けて、メキシコ政策金利の弊社予測を上方修正、2020年末時点は3.75%、最終的な水準(引下げ/緩和終了時点=2021年第2半期/Q2)は2.75%とする。従来予測はそれぞれ3.0%、2.5%(2021年Q1時点)だった。こうした予測が強調するように、「コアインフレ率の大幅減速を待つ期間が長引くにつれ、メキシコ中銀の今サイクルでの緩和は今後ペースダウンする」と弊社はみている。しかし、政策金利(翌日物金利)の最終的な水準の弊社予測(上述の通り2.75%)は、コンセンサス予測(4.10%)を依然として大きく下回っている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司