2020年4-6月の実質GDPが大きく落ち込んだことで、デフレ・ギャップはリーマンショック直後を抜いて過去最大になりそうだ。直近ピークの経済水準に戻れるのは、ESPフォーキャスト調査の平均的見通しを使うと2024年末頃になる。4年以上も経済水準が復元できないことになる。デフレ・ギャップの解消も、2025年1-3月まで遅れるだろう。感染リスクが長引くと、経済復元はこうした想定よりもさらに遅れる。

デフレーション
(画像=PIXTA)

デフレ・ギャップは過去最大に

内閣府から8月17日に発表された2020年4-6月の実質GDP成長率の一次速報は、前期比▲7.8%(年率前期比▲27.8%)と大幅なマイナス成長となった。欧米の同時期のマイナス成長(米国4-6月▲32.9%、ユーロ件同▲40.3%)よりはいくらか小幅だが、未曾有のマイナスであることは間違いない。この巨大な落ち込みによって、GDPギャップのマイナス幅、つまりデフレ・ギャップも広がることになる。内閣府が発表しているGDP ギャップを筆者が推計すると、▲10.2%(2020年1-3月は▲2.4%)と過去最大になる見通しである(図表1)。リーマンショック直後の2009年1-3月は▲6.9%だったので、それより大きなデフレ・ギャップということになりそうだ。

デフレ再来、経済水準の回復は2024 年末まで遅れる
(画像=第一生命経済研究所)

改めてデフレ・ギャップの意味を説明すると、これは物価下落の圧力となるマイナスの需給ギャップのことである。需要水準が一気に落ちたとき、供給能力との間にギャップが生じる。これが過剰供給能力となり、企業には潜在的なコスト圧力となる。企業は、過剰供給能力を解消するために、値下げをしてでも需要を獲得しようとするから、それが物価下落の圧力につながる。

リーマンショック後は、2013 年頃まで約5年間(4年と3四半期)もデフレ・ギャップが継続して、その間、消費者物価コアの前年比はおおむねマイナスだった。今回も、消費者物価のマイナスが生じてそれが長期化する可能性が大きい。

では、今後の実質GDPはどうなりそうなのだろうか。先行きの見通しは、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(8月)を用いる。ESPフォーキャストでは、四半期毎の見通しが2022年1-3月まで発表されている。2022年度の見通しは1.23%となっている。2023年度以降の見通しはないので、1.23%で延長することとした。 コロナ感染の手前の実質GDPのピークは、2019年7-9月の539.3兆円である。この水準に戻れるのは、2024年10-12月となる(図表2)。4年以上も先のことになりそうだ。

デフレ再来、経済水準の回復は2024 年末まで遅れる
(画像=第一生命経済研究所)

GDPギャップの見通し

次に、GDPギャップの推移について計算してみたい。2020年4-6月のデフレ・ギャップは前述の通り、▲10.2%まで拡大しそうだ。その後は、マイナス幅が縮小していくが、そのペースは緩慢にならざるを得ない。少し計算が複雑なのは、今後の潜在成長率が変化していくことだ。リーマンショック後は、潜在成長率を計算する前提の労働投入量・資本投入量がマイナスに転化して、一時的に潜在成長率が▲0.1%まで低下した。今回もやはり潜在成長率はゼロ近傍まで低下すると予想する。2020年1-3月の潜在成長率は0.9%だったが、この数字は約1年かけてゼロ近傍になるだろう。そうした前提で今後のGDPギャップを計算すると、2025年1-3月にようやくデフレ・ギャップが解消してプラスに転化する見通しである(図表3)。

デフレ再来、経済水準の回復は2024 年末まで遅れる
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成長ポテンシャルが低い日本経済

今後の日本経済が、早期にデフレ状態から脱却するにはどうすればよいのか。また、コロナ感染のリスクが根強く残る中では、公共事業などの伝統的な総需要創出策は積極的には打てないだろう。

心配される雇用悪化は、その中心がサービス業になるだろう。それを予防するには、どうにか早急にサービス需要を押し戻さなくてはいけない。特に、観光業の悪化は著しく、放置していると深刻な事態になる。観光庁の試算では、観光業の就業者数は673万人(2018年)で、全就業者の9.8%を占めている。この中には非正規労働者も多く、雇用削減は他の分野よりも速いとみられる。

当分、インバウンド需要が戻ってこないとすれば、どうにか国内需要を押し上げるしかない。政府が7月22日から開始したGo To キャンペーンは、現時点ではまだ感染リスクが高いので不評となっているが、政策選択としては間違っていない。感染リスクがある程度収まったタイミングでもっと拡充してもよいだろう。経済政策は、コロナ感染による長期戦リスクに備えるかたちで、今後、給付金などの拡充を行ってもよいと考えられる。

もっとマクロで考えると、日本経済の悪化の本質は、人口減少など成長ポテンシャルが低いことである。労働投入量・資本投入量はともに大きな伸びが期待できない。コロナ感染が拡大してから国際機関が発表した経済予測では、欧米に比べて日本の成長率見通しは、2021年のリバウンドの弱さで共通していた(図表4)。

デフレ再来、経済水準の回復は2024 年末まで遅れる
(画像=第一生命経済研究所)

多くの人が、新しい成長分野として、デジタルトランスフォーメーション(DX)を挙げるが、それが具体的にどのくらいの効果があるのかは未知数である。例えば、DXが総需要に対して、マイナス効果を持つ側面があることは気になる。例えば、全国規模の会合をテレビ会議に切り替えると効率化はされるが、交通・宿泊・飲食需要は減ってしまう。半面、生産性は上昇し、企業収益も増えるが、企業がそこで増えた収益を再投資するかどうかはわからない。DXがトータルで需要押し上げになるかどうかは不確定である。

今回のコロナ感染下では、企業の金あまりが有利に働いたので、コロナ後は投資が増えにくくなると予想される。経済循環の不全を念頭に置くと、新規需要の創出こそが求められる。

日本経済にとって具体的に懸念されるのは、訪日外国人の観光需要をはじめとして、グローバルな人的交流がますます制約されていることである。コロナ感染は、少子化をさらに進め、グローバル化を阻害し、企業の金あまりを助長するなど、あらゆる面でデフレ加速の要因と親密である。

コロナ感染の長期化

経済活動が元の水準まで戻るには、今後のリバウンドが大きくなることを期待せずにはいられない。しかし、その点に不安が高まっているのが実情だ。8月のESPフォーキャスト調査では、6月以降にコロナ感染が広がったことを十分には織り込めていない。7-9月の実質GDP年率前期比は+13.26%である。このリバウンドの伸びは大きすぎるように思える。単月でみると、6月は回復したものの、7・8月の戻りは弱々しく、緩慢な伸び率になりそうだ。7-9月の伸び率が予想よりも鈍化すれば、経済活動がピーク時まで戻るのに、2024年末よりももっと時間がかかる可能性がある。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生