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南北の経済格差に拍車を掛けるコロナショック

ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事 / 伊藤 さゆり
週刊金融財政事情 2020年8月24日号

 新型コロナウイルスの感染拡大抑制のため、都市封鎖などの厳しい行動制限を強いたことによる経済への打撃は、やはり甚大だった。

 ユーロ圏の2020年4~6月期の実質GDPは前期比12.1%減、前期比年率40.3%減だった。1~3月期に続く2四半期連続の大幅な落ち込みで、実質GDPはコロナ前の19年10~12月期の水準から15.2%低下した。これは、08年の世界金融危機前後の5四半期にわたる累計の低下幅5.7%を大きく超えるものだ。

 7~9月期は、7月にかけて実施された行動制限の緩和の効果が強く表れるため、前期比年率30%超と大きく反発するとみている。欧州各国における全土の都市封鎖といった厳しい行動制限の再導入は回避される見通しであり、今年上半期のような大幅な落ち込みの再現もないだろう。

 しかし、その後の回復のペースには弾みがつかない。ワクチン普及までは、社会的距離の確保という制約は続き、感染拡大抑制と経済活動の両立のため、地域などを限定した制限措置を取らざるを得ない場面もあるだろう。21年末の段階でも、実質GDPはコロナ前の水準を回復することは難しいとみている。

 コロナ禍は、各国が受けた打撃と回復スピードの違いから、圏内の経済格差に拍車を掛ける。これはEUの単一市場、単一通貨圏にとって深刻な問題となり得るだろう。ユーロ圏主要国の19年10~12月期から20年4~6月期の実質GDPの落ち込み幅は、ドイツが11.9%と比較的小さい。一方、イタリア(同17.1%)、フランス(同18.9%)、スペイン(同22.7%)は、落ち込みが大きくなっている(図表)。

 ユーロ未導入のEU加盟国も含め、地域別に見ると、オランダやスウェーデンなど北部の経済的な落ち込みは南部よりも小さい。北部はおしなべて財政基盤が強固で政策対応の余地が大きい。産業構造面では、南部よりも宿泊・飲食・観光・娯楽などへの依存度が低く、移動制限や社会的距離政策の打撃を受けにくい。

 EUは7月に7,500億ユーロの復興基金の創設を決めたが、協議は難航した。北部欧州には南部欧州の財政健全化や構造改革の取り組み姿勢への不信感が強い。コロナ禍の打撃が一様でなかったことも、全会一致の合意形成の妨げとなった。それでも、7,500億ユーロのうち、3,900億ユーロは返済不要の補助金として、高失業国や低所得国、コロナ禍の打撃が大きい国に厚めに配分することが決まった。

 復興基金によって、コロナ禍が単一市場やユーロの持続可能性の問題に発展するリスクに先手を打つことができたものの、危機克服の歩みは始まったばかりだ。

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