環境に優しくすべての人に公平な社会を実現するための取り組み「ドーナツ都市計画(Donut City Plan)」が、世界で初めてアムステルダムで実施されている。

2050年までに完全循環型都市への転換を目指すこのプロジェクトは、サステイナブル(持続可能)な経済成長だけではなく、都市と市民の繁栄、および環境との調和を考慮した、新時代のホリスティック(包括的)アプローチになると期待されている。

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(画像=BoykoPictures / PIXTA / ZUU online)

丸いドーナツを目指す「ドーナツ経済学」

ドーナツ都市計画の基盤となっているのは、英経済学者ケイト・ラワース博士が提唱する「ドーナツ経済学」だ。ドーナツのような図を用いて、人間の本質的な需要と地球環境のバランスを示した、世界初の包括的な経済的アプローチである。

ドーナツの外側には9つの環境指標(気候変動・大気汚染・生物多様性の変動など)、内側には12の社会的指標(水・食料・住居・平等・平和と正義など)が配置されており、問題の深刻度を赤色で表示することで、早急に改善が必要な分野が一目で分かる仕組みになっている。

9つの環境指標は、「プラネタリー・バウンダリー(地球の境界線)」で構成されている。これは2009年、当時ストックホルム・レジリエンス・センターで所長を務めていた環境学者ヨハン・ロックストローム博士率いる著名科学者グループによって、地球システムの安定性と回復力を調整するための指針として考案された。

長年にわたり各国がGDP成長を追究してきた結果、現時点では環境分野では超過、社会分野では不足が見られ、どの国のドーナツもいびつな形になっている。理想的なバランスはすべての分野から赤色の超過や不足をなくし、丸いドーナツを作ることだ。

「ドーナツモデル」 ESGとの違いは?

2012年にドーナツ経済の構想が発表されて以来、中国のエルハイ湖集水域や南アフリカ、英国などで、実現に向けた様々なアプローチが模索されてきた。

そして世界初の本格的なドーナツ都市計画への取り組みが、ラワース博士とオランダのアムステルダム自治体、そして多数の企業のコラボレーションで誕生した、「アムステルダム・シティ・ドーナツ」だ。

ドーナツモデルとも呼ばれるこの取り組みは、環境・社会・ガバナンスの向上を目的とするESGとの共通点する要素が多い。しかしESGが企業や組織の持続可能性に焦点を当てているのに対し、ドーナツ都市計画は国と都市、市民が一丸となって取り組む要素が強く、自然との調和のとれた共存を維持しながら、それぞれの繁栄を目指すことが目的だ。

アムステルダム市議会は今後30年間のビジョンと政策立案の中核にドーナツ都市計画を据え、「市民ための繁栄」をテーマに、健全なエコシステムの構築に挑戦する。

大都市の重要課題、住宅問題へのドーナツアプローチ

アムステルダムのような大都市が丸いドーナツを目指す上で、住宅問題は重要課題の一つである。