~20年度は大幅なマイナス成長、21年度も新型コロナ感染拡大前の水準への回復は困難~
要旨
○民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、8月21日までに集計した民間調査機関20社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2020年度は前年度比▲6.0%(5月時点見通し:同▲5.2%)、2021年度は同+3.4%(5月時点見通し:同+3.2%)である。
○2020年度は、大幅なマイナス成長が予想されている。新型コロナウイルス感染拡大による景気の落ち込みが極めて大きかったことから、5月時点からさらに下方修正された。緊急事態宣言の解除を受け景気が持ち直しに転じていることから、7-9月期は前期比で大幅な伸びが見込まれているが、4-6月期の落ち込みを取り戻すには至らない。その後についても、感染拡大のリスクが残存する中、「新しい生活様式」のもと、回復のペースは緩慢なものとなる見通しである。下振れリスクとして、新型コロナウイルスの大規模な感染拡大、米中対立の激化などがリスクとして挙げられた。
○2021年度は、世界経済の持ち直しにより高い成長率が予想される。とはいえ、今後も経済活動に制約が残ることが予想されることから、20年度の大幅な落ち込みを取り戻すものとはならない見込みだ。実質GDPの水準が新型コロナウイルス感染拡大前のものに回復するには、長い時間がかかる見通しである。
○消費者物価指数(生鮮食品を除く、消費税含む)の見通しは、20年度は同0.3%、21年度は同+0.3%となった。景気の大幅悪化に伴う需給の悪化、賃金の下落などが下押し圧力となることより、消費者物価は低調な推移が続く見通しである。20年度が前年比マイナスとなるとの予想は5月から変わらず、今後も日銀の2%の物価上昇率目標達成は引き続き困難であるとの見通しだ。
コンセンサスは2020年度:▲6.0%、2021年度:+3.4%
民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、8月21 までに集計した民間調査機関20社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2020年度は前年度比▲6.0%(5月時点見通し:同▲5.2%)、2021年度は同+3.4%(5月時点見通し:同+3.2%)である。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による景気の落ち込みは極めて大きく、2020年度の見通しは5月時点からさらに下方修正された。
20年4-6月期は前期比年率▲27.8%と、現統計で最大の落ち込みに
8月17日に公表された2020年4-6月期実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率▲27.8%(前期比▲7.8%)となった。今回の結果は、リーマンショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を大幅に超える、現統計で最大の落ち込みとなった。個人消費が前期比▲8.2%(1-3月期:同▲0.8%)、設備投資が同▲1.5%(1-3月期:同+1.7%)、輸出が同▲18.5%(1-3月期:同▲5.4%)など、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、内外需とも凄まじい落ち込みとなった。
項目別にみると、個人消費は「新型コロナウィルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴う外出自粛や店舗休業の影響」(ニッセイ基礎研究所)により急激に落ち込んだ。輸出については、「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、人やモノの移動が停滞したこと」(三菱UFJ リサーチ&コンサルティング)により、財・サービスともに大幅な減少となった。また、設備投資については、「省力化投資や五輪関連の建設投資が下支えとなってきたが、企業収益の下振れや先行き不透明感の高まりから、設備投資を先送りする動きが広がっている」(信金中央金庫 地域・中小企業研究所)ことから前期比で減少に転じた。
今回の結果は、「同時期の欧米諸国に比べマイナス幅は小さかったものの、新型コロナの影響で経済が大きく落ち込んだ姿が鮮明」(日本総研)となった結果である。
2020年度の見通しは下方修正、2021年度は高成長も20年度の落ち込みは取り戻せない見通し
2020年度の成長率予想は、前年度比▲6.0%(5月時点見通し:同▲5.2%)と、新型コロナウイルス感染拡大による景気の落ち込みが極めて大きかったことから、見通しは5月時点からさらに下方修正された。4-6月期以降については、「緊急事態宣言の解除後、経済活動の再開の動きが広がり、足元の景気はすでに最悪期を脱している」(三菱UFJ リサーチ&コンサルティング)とみられることから、7-9月期は高い成長率が予想されている。もっとも、「表面的には高い伸びとなるが、4-6月期の急激な落ち込みの後であることを踏まえれば、回復ペースは鈍いとの判断が妥当だろう」(ニッセイ基礎研究所)との見方が多い。「新型コロナの感染者数が再び増加しており、不確実性が高い状態が続く中、自粛モードを継続しながらの経済活動拡大となるため、回復ペースは緩慢なものとなる」(東レ経営研究所)など、その後の持ち直しのペースは緩やかなものにとどまる見通しだ。
2021年度の成長率予想は同+3.4%(5月時点見通し:+3.2%)となった。「21年度はウイルス感染の終息を前提に、世界経済も徐々に持ち直し、輸出主導で景気が上向いてくる」(信金中央金庫地域・中小企業研究所)とみられる。とはいえ、「来春の春闘がきわめて厳しい結果になるほか、人と人との接触をなるべく避けるライフスタイルの追及が進むこともあって、個人消費は 2021年度にかけても低迷が続く」(明治安田総合研究所)など、国内景気は低迷が続く見通しだ。21年度は高い成長率が見込まれているものの、「2021年度末でも実質GDPはコロナショック前の水準を回復できない」(浜銀総合研究所)など、経済の正常化には長い時間を要する見通しだ。
このように、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の落ち込みが極めて大きかったことから、20年度の成長率予想は下方修正された。緊急事態宣言の解除を受け、7-9月期は前期比で高い成長が予想されているが、4-6月期の落ち込みと比較すると持ち直しは鈍いものになると予想されている。その後も、「①雇用・賃金や設備投資の調整がこれから進むこと、②Withコロナ期は外食・旅行・娯楽などの消費活動が一部制限されること、③感染再拡大を巡る不確実性が家計・企業の活動を委縮させること」(みずほ総合研究所)などから、持ち直しのペースは緩慢なものになるとの見方が多数派である。21年度末においても新型コロナウイルス感染拡大前の水準に景気が回復するのは困難であるとの見方がコンセンサスだ。
今後のリスクは引き続き新型コロナウイルスの感染動向であり、「大規模な第二波が到来するリスクシナリオの場合には、成長率がさらに下振れし、経済活動水準の回復時期が後ズレすることが避けられない」(東レ経営研究所)とされている。また、「米国と中国は双方の総領事館を閉鎖するなど関係が悪化しており、一段と対立が激化すれば外需や金融資本市場を通じて日本経済にも悪影響が及ぶため、留意が必要である」(富国生命保険)など、米中対立の激化もリスクとして挙げられた。
以下では需要項目別に、エコノミストの見方を概観していく。
①個人消費
20年4-6月期の個人消費は前期比▲8.2%と3四半期連続の減少、5月時点で予想されていた以上の落ち込みとなった。4月に緊急事態宣言が発出されたことにより、サービス消費を中心に急激に落ち込んだ。もっとも、緊急事態宣言が解除されたことを受け、5月を底に個人消費は持ち直しに転じたとみられる。
先行きについては、「政府の経済対策は一定程度消費の押し上げ要因となるものの、先行きの不透明感から消費に対する姿勢は慎重化する」(三菱総合研究所)と予想されている。「家計の所得環境は厳しくなりつつあるほか、「新しい生活様式」を心掛けることを前提にすると、消費が順調に回復していく姿は見込みづらい」(農林中金総合研究所)との見方がコンセンサスで、「個人消費は新型コロナ流行前の水準を下回る状態が長期化する見通し」(日本総研)である。
②設備投資
20年4-6月期の設備投資は前期比▲1.5%と1-3月期から減少に転じた。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、企業収益の悪化や先行き不透明感が強まったことから設備投資を見送る動きが広がり、前期比で減少となった。
先行きについては、「コロナ危機による内外需の縮小と企業業績悪化、キャッシュフローの減少により設備投資の減少を見込む」(三菱総合研究所)など、さらなる減少が予想されている。「企業収益の大幅な悪化によってキャッシュフローの水準が大きく下がれば、設備投資の抑制姿勢が強まることは避けられず、企業収益が増加に転じた後も設備投資の回復が本格化するまでには時間を要するだろう」(ニッセイ基礎研究所)と、設備投資は低調な動きが続く見通しだ。
③輸出
20年4-6月期の輸出は前期比▲18.5%と大幅に減少、2四半期連続のマイナスとなった。海外景気が急激に落ち込んだことによる財輸出の大幅な減少に加え、インバウンド需要も消失したことから、輸出は急激に落ち込んだ。
7-9月期については、「各国では経済活動の制限が4~6月期に比べれば、緩和してきており、世界的に景気回復局面入りしたとみられる」(浜銀総合研究所)ことから、前期比で高い伸びが見込まれている。もっとも、サービスの輸出については、「政府は、一部の国からの入国制限緩和を検討しているが、インバウンドの回復は、日本および各国の政策に依存する状況であり、回復時期は見通せない」(三菱総合研究所)状況である。先行きについては、「第二波への警戒感が投資・消費マインドの下押し圧力になることや、米中対立の世界貿易への影響を考えると、輸出は 2021年度にかけても停滞が続く可能性が高い」(明治安田総合研究所)とみられている。
④公共投資
20年4-6月期の公共投資は前期比+1.2%の増加、個人消費、輸出などが大きく落ち込んだ中、公共投資は前期比でプラスとなった。
先行きについては、引き続きプラス成長が見込まれている。「政府は、昨年12月に3年ぶりの経済対策である「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」を閣議決定している」(明治安田総合研究所)ことや、「2020年7月にまとめられた政府の「経済財政運営と改革の基本方針2020」では、2021年度以降の国土強靭化の推進について、「国土強靱化基本計画に基づき、必要・十分な予算を確保し、オールジャパンで対策を進め、国家百年の大計として、災害に屈しない国土づくりを進める」とされている」(三菱UFJ リサーチ&コンサルティング)ことなどが公共投資を押し上げるとみられる。「人手不足による供給制約もあり大幅な伸びこそ期待できないものの、公的固定資本形成は底堅く推移し、景気の一定の下支えとなろう」(富国生命保険)との見通しだ。
20年度の消費者物価上昇率はマイナスの見通し、先行きも低調な推移が続く見通し
消費者物価指数(生鮮食品除く総合、消費税含む)の予測の平均値は、2020年度が前年度比▲0.3%(5月時点見通し:同▲0.5%)、2021年度が同+0.3%(5月時点見通し:同+0.3%)となった。見通しについて、20年度の予測は上方修正されたものの、20年度の物価上昇率は引き続きマイナスの予想となった。
20年度については、「今年前半の原油価格の下落がタイムラグ(時間差)を伴って電力・ガス料金の引下げ要因となるため、この先もコア消費者物価はマイナス圏で推移する見通し」(信金中央金庫地域・中小企業研究所)である。21年度については前年比プラスが見込まれているが、「予測期間を通じてGDPギャップがマイナス圏で推移し需給面からの下押し圧力が続くこと、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから、基調的な物価は当面弱い状態が続くだろう」(ニッセイ基礎研究所)との見方だ。今後も引き続き、「日銀が目標とする前年比2%は見通せない状況」(農林中金総合研究所)である。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所の見通しについては、Economic Trends「日本経済見通し(2020・2021年度)」(8月17 日発表)をご参照ください。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 エコノミスト 奥脇 健史