それまで赤字が続いていたロイヤルホールディングスを6期連続増収増益に導くなど、競争の激しい外食業界の中で、同社をけん引してきた菊地唯夫氏。

右肩上がりの時代は終わり、予測が困難なこれからの時代が来る。そんなとき、ビジネスパーソンに必要なのは、自分の専門外の知識を取り入れていくことだと同氏は語る。学んだ知識をうまく仕事に結びつける方法とともにうかがった(取材・構成:林 加愛)。

※本稿は『THE21』2020年8月号から一部抜粋・編集したものです

過去の成功体験が一切通用しない時代になる

ロイヤルホールディングス,菊地唯夫
(画像=THE21オンライン)

「ロイヤルホスト」など外食事業の他、ホテル、機内食等を展開するロイヤルホールディングス。会長の菊地唯夫氏は、もともと、金融畑の出身だ。日債銀(現あおぞら銀行)、ドイツ証券を経て、2004年に同社へ。そして10年の社長就任後は、不振にあえいでいた同社の業績をV字回復させた。

「その頃の当社は、大規模な外食産業にしばしば見られる『負のサイクル』に陥っていました。新規出店しては『増収減益』になり、対策として不採算店を閉じ『減収増益』になることの繰り返し。このサイクルを断って増収増益に転換すべく、新規出店から既存店へと力点を移しました。

内外装を修繕、設備機器も最新式にリニューアル。よりお客様にご満足いただけるサービスを提供でき、12年以降は6年連続で増収増益となりました」

――ところが20年、再び逆風が吹く。原因は言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大。現在、同社は10年前をしのぐ逆境のただ中にある。

「これまで我々は、事業ポートフォリオによってリスク分散を図ってきました。外食、空港施設や病院の飲食、機内食、ホテルの4事業を展開し、いずれかが不振のときは別の事業で補うという戦略です。ところが今回のコロナ禍では、すべての部門が打撃を受けました。まさに想定外の事態です」

――今後はこうした想定外が常態化する、と菊地氏は予測する。

「つまり、過去の成功体験が通用しなくなるということです。我々のみならず、働く人は皆、新しい知識と知恵を持たなくてはなりません。これまで培った知識の延長線上をたどるのではなく、その外側に出ることが、アフターコロナ時代の学び方だと思います」

「じっと待つ」ことは実は一番ハイリスク

――ビジネスパーソンは、今こそ新たな領域へ踏み出すべきだと菊地氏は語る。

「一番してはいけないのは、嵐が去るまでじっと待つことです。動かないのは安全なようで、一番ハイリスク。持つべきは不安感でなく、危機感です。『止まっていては危ない』と認識して打って出る。勉強でも、この姿勢が不可欠です」

――勉強において「打って出る」とは、何を意味するのか。

「縁のなかった分野の人や知識と接点を持つことです。そして、そのために『アウトプット』をすることが大事。通常、アウトプットは既にインプットした知識を出す行為とされていますね。 

しかし実は逆です。アウトプットの機会を増やし、インプットせざるを得ない状態を作ることが、良質な知識を得る秘訣なのです」

――そう気づいたきっかけは、京都大学経営管理大学院で特別教授の任に就いたことだった。

「優秀な学生に、さらに有用な知識を伝えるべく、インプットに精を出しています。他にも講演など、アウトプットの機会に事欠かないのは幸運なことです。そうした立場になくとも、今はアウトプットのチャンスが多くありますね。SNSで発信すれば、思わぬところから反応が来るでしょう」

――偶然性も、アフターコロナにおける勉強の重要な鍵だ。

「『この知識を増やして、こう役立てよう』と考えるより、あれこれ意図せずにまずは発信する。『最近面白かった本はありますか?』と質問するのも有効です。普段、自分では買わないような本と出会えるでしょう」