コロナ禍の中、通勤中やオフィスでの感染拡大を防ぐために、テレワークの導入が相次いだ。Web会議などの進歩も後押しとなり、オフィスがなくともテレワークで仕事ができると感じた経営者もいるだろう。テレワーク時代に求められるオフィスの在り方とは、どのようなものだろうか。
テレワークが重要な感染症対策に
新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年4月、政府による緊急事態宣言を受けて各企業はさまざまな対応に追われた。従業員の安全を確保するため、職場でのコロナウィルス感染の防止策や時差出勤、テレワークなどの導入が主な対応策となった。
テレワーク導入による満足度は約6割
日本生産性本部が2020年5月に雇用者1,100人を対象に実施した調査によると、新型コロナウイルスに起因する緊急事態宣言発令後に、「働き方が変化した」と回答した人の割合は約6割に上り、1週間の出勤日数が「0日」となった割合は32.1%、「1-2日」が37.3%、「3-4日」が21.1%となる一方、「5日以上」は9.5%に留まった。
勤務先の休業等によって出勤できなくなった例もあるが、出勤回数の減少を裏付けるように、テレワーク導入によって自宅勤務を実施している人の割合は29%に上った。
感染症の拡大という予期せぬ緊急事態で、学校も休校になった子育て世代の労働者には、家庭で子供の面倒を見ながら仕事への従事という両立に苦労したという声も聞かれる。
同調査のテレワークへの満足度調査項目によると、「満足している」が18.8%、「どちらかと言えば満足している」が38.2%であった。テレワークの導入によって、通勤ラッシュから解放され感染リスクが軽減されたことが主な要因と考えられる。
また、2010年の総務省の報告によると、テレワークは通勤による体力の消耗を防ぎ、同僚との会話や社内外からの問い合わせ電話等に仕事を遮られることも減少し、集中力が持続する時間が長くなるという結果も出ている。テレワークの導入によって、結果的に高い集中力が生産性をアップさせ、企業の中には業績にも好影響を与えることが期待できる。
コロナショックで多くの企業で業績が悪化する中、テレワーク導入による業績へのインパクトは今後も注目されるだろう。
テレワーク導入による課題も浮き彫りに
新型コロナウイルスによる環境急変によって慌ててテレワークを導入した企業も少なくはないだろうが、従業員の満足度を見れば、テレワークは新しい働き方として考慮するに値する。そうなると、オフィス不要論も沸き起こりそうだが、テレワークが必ずしも万能というわけではなく、さまざまな課題も浮き彫りとなった。
先の日本生産性本部の調査において、在宅での仕事の効率性についてみると、「やや上がった」は26.6%、「やや下がった」は41.4%、「下がった」24.8%と、調査回答者の半数以上にとっては、テレワークによる業務の効率性が課題となっている。
また、自宅を含めテレワークを実施する際に、仕事に必要な資料が職場でしか閲覧できないという課題も明らかとなり、ネット上でのデータ共有環境の構築が必要という声が最も多く寄せられている。
2020年4月の場合は、新型コロナウィルス感染拡大対応のために、セキュリティ対策を含めて、社内外の秘匿情報の取り扱いについて、十分な対応策がないままテレワークを導入したという企業もあり、この点は今後においても重要な改善点であろう。
テレワークでは社内コミュニケーションも困難
テレワークによってオフィス出社がなくなったことで、上司や同僚との連絡や意思疎通について、適切なコミュニケーションが取れないことも課題として顕在化している。
テレワークで職場でのコミュニケーションが必要最小限になった際、これまで職場での何気ない雑談などから、仕事のアイデアや解決策が生み出されていたことに気づいた人もいるのではないだろうか。また、部署をまたぐような大きなプロジェクトの場合、社内会議などで一度面識を持っておくだけでも、仕事を依頼する際の心理的なハードルは下がる。
オフィスは、単なる空間的な役割だけに留まらず、アイデアを生み出す機会を創出したり、従業員同士の信頼関係を醸成するための雰囲気を生み出すなど、重要な役割を果たしているのだ。
テレワーク時代のオフィス像とは
コロナ禍の中で、テレワーク導入に初めて踏み切った企業もあるが、想定よりうまく機能したというケースも散見され、今後は在宅を含めたテレワークが新たな働き方として定着していきそうだ。働き方のパラダイムシフトを迎えている中、オフィスに通勤時間をかけてまで通う価値があるか否かという視点に立って、労働環境を整備していく必要がある。
先の在宅勤務経験者へのアンケートでは、オンとオフの切り替えの難しさを悩みとして抱えている意見もあった。自宅でのテレワークの場合、家の中のことが気になって仕事モードになれず、オフィスの存在意義について再認識した在宅経験者もいるだろう。
変わるオフィス戦略
テレワーク時代のオフィスには、通勤などの負荷が少なく、従業員が仕事モードのスイッチに切り替わり、快適に仕事に取組める場所であることが求められる。また、オフィスに出勤することで、上司や同僚との顔を合わせてのコミュニケーションが促進されるような空間でなければならない。
オフィスという社員共通の場所でのコミュニケーションから、組織の一員としての自覚が生まれ、企業文化や理念が従業員の間で共有されていく効果も期待できる。
経営者としてどのようなオフィスを設置するべきか
テレワーク時代にオフィスが果たす役割や求められる機能について述べてきたところで、経営者としてどのような点に配慮しながらオフィスを設置すべきかにフォーカスしてみよう。
オフィスの立地条件
オフィスにおいてまず重要なのが立地である。経営者ともなれば、自宅から職場まで運転手付きの社用車で出勤することもあるかもしれないが、一般の従業員は公共交通機関を使用して通勤するケースがほとんどである。
自宅でも仕事ができるテレワーク時代においては、従業員の通勤の負担を軽減するという視点が経営者には求められる。特に都心のラッシュは、世界的に見ても混雑度合いが高く、従業員はオフィスに到着するまでに体力を消耗し、感染症の罹患リスクも高くなる。
また、最寄り駅からオフィスが離れていれば、従業員の負担はさらに増すだろう。従業員が高いパフォーマンスを維持するためにも、少なくともオフィスを設置する際には、最寄り駅からできるだけ近い立地を選択したいところだ。
グーグルが渋谷ストリームに新オフィスを設置したことは記憶に新しい。グローバル企業ゆえに都心の一等地にオフィスを構えられるという点はあるが、すでにブランド力のある企業でさえもオフィスの立地は利便性の高いエリアを選択している点は参考にしたい。
社長によっては、多少の見栄を張るために、オフィス面積を広く確保できる都心から少し離れた立地を選択したり、内装を豪華にしたりしがちだ。
テレワーク時代、必要なスペースの取捨選択がより重要に
しかし、テレワーク時代のオフィスでは、必要なスペースを最低限整備する思考に切り替えていかなければならない。駅近くの利便性の高いオフィスの方が従業員の通勤負担ははるかに軽減されるし、広大なスペースが必ずしも働き易いとは限らないのだ。
必要なスペースを有する駅近物件を取捨選択していけば、相対的に賃料の高い人気のエリアにオフィスを構えることにもなり得る。グーグルの例からもわかるように、オフィスの立地や環境は優秀な人材を引き付けるポイントにもなるので、テレワーク時代のオフィス選択に悩む経営者としては、注意を払わなければならないポイントである。
従業員全員が毎日オフィス勤務からテレワークと共存型オフィスへ
通信技術の発展、シェアオフィスのネットワーク拡大に加え、今回のようなコロナウィルスなど感染症へのリスク管理という面からも、テレワークは働き方の1つとして定着していくとみられる。
共存型のオフィス戦略
テレワーク時代には、従来のように従業員全員が毎日オフィスに出勤して仕事をするというスタイルから脱皮し、テレワークと共存できるようなオフィスの在り方が理想となるだろう。
テレワークを導入した企業では、従業員全員のデスクを配置する必要もなく、スペースが削減できる。さらなるオフィスの省スペース化を目指すならば、会議室スペースを削減するという方法もある。
従業員の一部がテレワークをしている体制では、そもそも全員がオフィスに揃うこともないため、会議はWeb会議システムを利用してオンラインで実施することになり、会議室を設けないという選択が可能である。いざ必要となった場合には、レンタル会議室などのサービスを利用すればよい。削減できた分は、快適な空間への投資に回したいところである。
必要最低限のスペースに無機質に机など事務備品を配置する殺風景なオフィス空間ではなく、従業員間のコミュニケーションが促進されるようレイアウトを工夫し、同時に仕事に集中できるような空間づくりを実現するオフィスが理想である。そうした空間に、従業員が通勤する価値を見出せるかどうかがポイントとなるだろう。
経営者はオフィス戦略について見直そう
コロナ禍によって働き方の変化を迫られて、テレワークが多くの企業で実施された。テレワークによって企業活動がうまく回れば、そもそもオフィスが不要という議論も沸き上がるのは避けられない。
しかし、テレワークにも課題はあり、同僚との円滑なコミュニケーションや企業文化を従業員同士で共有するためにも、オフィスには引き続き一定の役割が求められる。経営者として追求すべき新しいオフィスの形は、テレワークと共存できるスタイルであろう。
テレワーク時代のオフィスには、従業員がわざわざ時間をかけてまで出勤する価値を見出し、より高い効率性を生み出せる空間であることが求められる。オフィスは、優秀な人材を獲得するための呼び水にもなるため、経営者としてオフィスの在り方への意識を高めることは企業経営の鍵となってくる。(提供:THE OWNER)
文・志方拓雄(ビジネスライター)