投資用アパートの修繕費の相場は、ある程度の棟数を保有していないとわかりにくいかもしれませんが、実は国土交通省のガイドラインに目安となる金額が示されています。併せて代表的な修繕の工事項目とポイントを知ることで、修繕費用を抑えることができます。
適切な修繕を行わないと余計な出費につながる
アパートの修繕を行わないと、その時は出費がなくても長期的には大きな損失につながる可能性があります。
例えば外壁が汚れて建物の外観が悪くなると、新たな入居希望者に敬遠され、空室が埋まりにくくなります。すると家賃収入が減り、その後キッチンや浴室、給湯設備、エアコンなどの修理が発生しても、予算不足で対応できなくなります。その結果、既存の入居者が不満をつのらせて退去してしまい、さらに家賃収入が減ってしまう悪循環に陥る懸念があります。
建物の修繕を後回しにすることは、空室を増やして家賃収入を減らし、さらに修繕をしにくくするという、負のスパイラルの引き金になります。アパート投資では、修繕を単なるメンテナンスと考えず、長期的な投資と考えるべきなのです。
代表的な修繕部分と予想されるトラブル
アパートの修繕はどのような部分に発生し、修繕を怠るとどのようなトラブルにつながるのでしょうか。以下の箇所の代表的な修繕内容をご紹介します。
- 屋根
- 外壁
- 階段・廊下
- 給排水管
- 給湯器・エアコン
屋根
屋根は地上からは見えないため劣化に気づきにくいですが、劣化が進めば雨漏りにつながります。雨漏りは屋根裏の構造部分の腐食を招き、その下の部屋に雨漏りを発生させます。どちらの被害が起きたとしても、屋根の修繕よりも費用がかかります。
雨漏りが修繕履歴に残ると売却しにくくなったり、売却価格が下がる可能性が高まります。屋根は劣化に気づきにくいため常に気を配り、早めに修繕をすべき箇所と言えます。
外壁
外壁には美観を保つ役割と、建物内部への雨水の浸入を防ぐ役割があります。建物の外観をきれいに保つことは入居者を集める上で非常に重要であり、汚れたまま放置すれば空室が増加します。空室が長期間埋まらなければ、家賃を下げざるを得なくなります。
外壁の防水性能が落ちると建物の内部に雨水が浸入し、構造体を傷めてしまいます。すると耐久性や耐震性を損なうため、大がかりな修繕が必要になります。室内にも雨水が侵入すると、入居者の家財に被害を及ぼすおそれもあります。放置すると、被害は拡大する一方です。
階段・廊下
建物の階段や廊下は入居者が日常的に使う箇所なので、きれいに保つだけでなく、安全を確保するために適切に修繕をするべきです。例えば、階段や廊下の柵が錆びていれば、入居者が手をかけたときに外れて大事故につながるおそれがあります。床にひび割れや剥がれがあれば、つまずいて転倒しケガをする可能性もあります。
入居者の安全を確保するため、物件の所有者には廊下や階段を適切な状態に保つ責任があります。決して入居者に被害が及ばないように、配慮しなければならないのです。
給排水管
アパートの排水管は長年使っていると汚れが詰まり、それによって室内に排水があふれることがあります。すると建物の床にシミができたり、入居者の家財が水浸しになる可能性があります。下の部屋に漏れれば、当然そこにも被害が及びます。給水管は劣化が起きにくいのですが、まれにジョイントから水が漏れることがあるので注意してください。
給排水管は見えない場所にあるため損傷の発見が遅れやすいのですが、水が漏れると被害が瞬く間に広がり、修理費が高額になりやすいです。被害を未然に防ぐためには、定期的な点検と早めの修繕が必要です。
給湯器・エアコン
給湯器やエアコンは日常生活で頻繁に使うものであり、故障すると入居者に多大な迷惑をかけます。特に給湯器が故障すると浴室でお湯が使えなくなるため、設備が整った物件へと転居するきっかけにもなり得ます。
エアコンは夏場に必須の設備であり、故障すれば入居者に不快感を与えるだけでなく、気温によっては命の危険さえあります。いずれも現代人の日常生活には欠かせないものなので、故障する前に点検と修理をしましょう。
修繕のタイミングや費用の目安
国土交通省が2018年に公表した「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」には、ぞれぞれの修繕箇所の修繕時期と費用の目安が書かれています。前述の主な修繕部分については、どのような目安が示されているのでしょうか。
※金額はすべて1戸あたりの換算額で、部屋数を掛けると全体の金額の目安がわかります。
屋根
屋根は素材によりますが、11~15年目での塗装が推奨され、金額の目安は1戸あたり4万4,000円です。屋根は遠くから見ると問題がないように見えても、近くで見るとズレや細かなヒビが発生していることがあります。11~15年目を目安に専門業者に依頼し、細部まで点検してもらうようにしましょう。
外壁
外壁も11~15年目が塗装の目安とされ、金額の目安は1戸あたり11万5,500円です。塗装は、選ぶ塗料によって耐用年数や費用が変わるため、今後の所有期間を考慮して検討しましょう。各部ジョイントのシーリングも同時に補修したいところですが、塗装業者とは別の業者の仕事になるため、別途依頼する必要があります。
階段・廊下
階段や廊下は5年ごとに塗装し、10年ごとに各部ジョイントのシーリングと呼ばれる防水部分を補修することが推奨されています。1戸あたりの金額の目安は塗装のみが2万900円、塗装とシーリング補修を同時に行う場合は4万9,500円です。
外壁に比べて安価な塗料が選ばれることが多く、特に鉄製の手すりなどは塗装の「浮き」が早く発生するため、短いスパンでの点検と修繕をしたほうが良さそうです。
給排水管
排水管は5年ごとに内部の高圧洗浄と点検が推奨されており、金額の目安は1戸あたり5,500円です。入居者の使い方にもよりますが、管の内部に汚れが付着しやすいため定期的に清掃する必要があります。
給水管は内部が常に水で満たされているため汚れや錆びは発生しにくいですが、ジョイントの劣化が懸念されるため、26~30年目に継ぎ手やエルボー部分を交換することが推奨されています。費用は同時期に行うサッシや外構の修繕と合わせて、1戸あたり14万3,000円が目安です。
給湯器・エアコン
給湯器は設置から5年ごとに点検と修理が、10~15年目で交換することが推奨されています。費用の目安は給湯器が1戸あたりの修理で4,950円、交換は11万円です。
エアコンも同じく5年ごとに点検と修理、10~15年目で交換が推奨され、金額は1戸あたりの修理で5,500円、交換は11万円が目安です。
故障が頻繁に発生するようになったら、一斉に交換することが望ましいとしています。同時に同じ設備を複数設置する賃貸住宅の特性を考えると、各戸の故障や修理が重なる可能性は高いです。故障するたびに入居者に対応したり、修理を手配したりする手間を考えると、一斉に交換するほうがメリットは大きいでしょう。
修繕費用を抑える方法
修繕費用を抑える方法として相見積もりが考えられますが、工事内容を見極める知識が必要であり、何より競合させることで工事の品質の低下が懸念されます。ここでは長期的な視点で修繕費を抑える方法をご紹介します。
長期修繕計画を立てる
まずは、建物の長期修繕計画を立てることから始めましょう。それぞれの箇所で何年目にどのような修繕をするのか、そのために予算をどれくらい確保しておくかを計画しておくのです。
行き当たりばったりだと予算の都合などで後回しにしてしまい、劣化が進行して余計な修繕費がかかるおそれがあります。例えば屋根の損傷を放置すると、屋根裏や部屋の雨漏りの修繕に多額の費用がかかります。
長期修繕計画を立てて予算を確保し、適切に修繕を行えば、損傷を未然に防いで無駄な出費を抑えることができます。実際に発生した損傷の修繕費を削るだけが、全体的なコストを抑えることにつながるわけではないのです。
足場を使う工事はまとめて行う
足場とは、外部工事の安全確保と作業精度を高めるために設置する、建物を囲う鋼製パイプの骨組みです。足場の設置費用は1回数十万円、建物規模によっては100万円近くになることもあります。よって足場を必要とする工事をまとめて行うと、長期的には修繕費用を抑えることになります。
外壁塗装と屋根塗装、壁付けのエアコン室外機交換、外回りの防水シーリング補修など、足場を必要とする工事はたくさんあります。修繕時期が近い工事をまとめて足場の設置回数を減らすためにも、長期修繕計画を立てるようにしましょう。
定期点検で損傷を早期に発見する
建物の劣化が進み、大きな損傷や故障が発生してから修繕をすると、費用は高くなります。例えば、階段の手すりは初期の劣化なら塗装で済みますが、錆びが広がって割れたり折れたりすれば交換しなければならず、費用の負担が大きくなります。
このような損失を防ぐためには、専門業者による定期的な点検が欠かせません。大きな損傷や故障に至る前にその兆候を発見してもらうのです。早めに修繕をすることは、長い目で見れば費用を抑えることにつながるのです。
計画的な修繕と早めの対処が費用を抑える
投資用アパートの修繕の相場と適正な時期を知れば長期修繕計画を立てやすくなり、予算も確保しやすくなるので、修繕を確実に実施することができます。そうすることで損傷の悪化を防ぎ、余計な出費を抑えることができます。定期的な点検と早期の対処も、長期的に見れば物件の利回りを高めることにつながるでしょう。(提供:YANUSY)
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