佐藤由美子氏
(画像=Manegy)

2020年9月1日配信記事より

イタリア、ボローニャを拠点とする世界有数のモーターサイクルメーカー「Ducati」。今回は、世界中のファンに愛されるバイクを作り続けている同社の日本法人CFO、佐藤由美子氏にお話を伺いました。

モーターサイクル
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幼少期を過ごしたのは海外。大学には入らず、すぐに仕事がしたかった

-佐藤さんは外資系企業でのご経験が多いとお伺いしているのですが、元々海外のバックグラウンドをお持ちだったのですか?

幼少期は、父親の仕事の都合でアメリカで過ごしました。それで英語が話せるようになったので、仕事上の強みとして使っているうちに外資系企業ばかりの職歴になりましたね。

-社会人になる前は、ご自分のキャリアプランをどのようにお考えでしたか?

一応大学は卒業しているのですが、そもそも大学に入りたいとも思っていなかったんですよね。ずっと、早く仕事したいと思っていて。アルバイトも色々と経験したのですけど、このままずっと仕事して、いずれは自分で何かやりたいと思っていたんです。

でも、正直何になりたいかは全然分かっていなかったんですよね。それで、父親がとにかく大学に入らないと就職出来ないぞと言うので、とりあえず大学に入りました。それで大学を卒業したのですけど、相変わらず目的も何もなく。

最初の就職は、日系の商社で、営業職部に配属されました。

-最初は営業だったのですね。

そうなんです。それで、その後に結婚をして海外に行って、またそこでも転職してずっと今まで仕事は続けています。

-ドゥカティジャパンを選んだのは、何か特別な理由があったのですか?バイクがお好きだったとか。

いえ、バイクも乗りませんし、実はドゥカティのことは全く知らなかったんです。バイクに乗っている人は皆さんが知っている世界的なブランドだというのは後から知った話でして。

なんでドゥカティを選んだのかというと、前の会社で自分のポジションとしてはひとつやり切ったなと思えたということがあったのと、ドゥカティジャパンの事業フェーズから求められているCFO像、そして自分自身のやりたいことがマッチしていたというところですね。成果コミット型というところで、元々外資系企業を渡り歩いても来ましたし。

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「転職=キャリアアップ」であって欲しい

-かなり明確にご自身のキャリアを作られてきた印象ですが、キャリアに対してどのようなお考えをお持ちですか?

そうですね。私は、結構若い頃から転職を繰り返していまして。

もちろん時には家庭の事情でということもありましたけれども、どちらかというと転職することによって自分がマーケットの中でどういう位置にいるかというのが分かるなと思っているんです。自分の現在地、自分のその時点での実力をまず知りたいと。それが分かれば、自分があと何を身に着けたら自分自身のバリューを上げられるのかが分かるじゃないですか。

30歳位からずっと管理職についていて今CFOをやっていて思いますけど、キャリアの多様性ってすごく大事ですよね。色々な企業でたくさんの経験を積んだ方が、何も無駄にならないしすごく強い人材になると思いますよ。出来ることが増えて、自分の価値がどんどん上がっていきますから。

-確かに、どの企業、どのポジションで求められるかによって客観的な自分の位置が分かります。

そうですね。最近は年齢もあまり関係ないと思いますし。今回、転職エージェントのご紹介で来ていただいた方も50歳を過ぎていらっしゃる方でしたが、とても優秀でぜひ欲しい人材でしたのでオファーしました。

年齢というより、個人の実力とか覚悟の問題ですよね。

-しかし、私自身もそうでしたが転職を繰り返すということがネガティブに見られることも多い印象もあります。そういうことはなかったですか?

そうですね。私が転職を繰り返している頃は、今よりもっと周りが転職をしなかった時期だったので、後ろ指をさされる感じはありましたよ。でもやっぱりずっと仕事はしていきたいわけで、そのためには必要なことだったんです。

自分の努力目標が常にあって、それを達成するために何が必要かっていうのを分かっていたい。そうすると自ずとグレードアップしていきますので。自分の中では「転職=キャリアアップ」と言っても過言ではないんですよね。

他人の評価で自分の実力が見えるので。転職してまたそこからスイッチが入って頑張って、キャリアをもっと作っていくっていうような。そういう覚悟でいます。

-しかし、全体で見ると転職する人はまだまだ少ないですよね?

そうだと思います。先ほどからお話ししているように、まだまだ一部では転職に関するイメージが良くない部分もありますからね。でも、その門が開かれないと仕事の出来る人に仕事が集まってしまって、潰れてしまわないか心配です。

私も含めて経営者ではない以上、サラリーマンなのでやはり成果に見合う対価というものは大切ですよね。対価に見合わないまま身を粉にして働くとか、もっとキャリアアップが図れるはずで本人もそれを望んでいるのになかなか出来ないとか、そういうことがもし起こっているとしたら、転職という選択肢がもっと拡がると1人1人のパフォーマンスがさらに上がることにもなるし、ベストなのではないかなと思うのですけど。

-好きな仕事をしていると「対価」は関係ないと思う方もいるかと思います。そのあたりはどうお考えですか?

サラリーは大事ですよ。サラリーマンは、時間と労働力を提供してその対価としてサラリーを貰っているわけじゃないですか。それであれば、できるだけお金をくれるところで、なおかつ自分がハッピーに暮らせるところを選ばないと損だと思うんです。

だから、我々働く方もそこは勇気をもって、ちゃんと自分の持っているもので戦えるような、そういう存在になっていくべきだと思うんです。

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女性であることは関係ない、求められていることに対してパフォーマンスを発揮することがすべて

-女性であることが、キャリアの中でビハインドになることはなかったですか?

私は、あまり女性だからとか男性だからと考えたことがないんです。よく女性蔑視や女性差別とか言いますが、そういうのは全然ないんですよ。私はサラリーマンは自己表現の場ではないと思っていますので。

-サラリーマンは自己表現の場ではない、とは?

そうですね。課された責務を自分の技能でもって、しっかりパフォーマンスを上げて、それに対する対価を貰うだけだと思っています。だって、自己表現したかったら自分で事業を起こすしかないじゃないですか。経営者であれば、自分のビジョンがあって目標があって、世の中に貢献することが求められるのかと。 

もちろん、サラリーマンであっても視座を高く持つことは仕事のパフォーマンスを上げたり、本質を見ることに繋がるので、それはするべきだと思いますよ。言いたいのは、サラリーマンであれば、求められた自分の責務をしっかりこなすことをまずしなければならないということですね。

-確かに、やるべきことをやらないうちに主張ばかりしているとしたらそれは違いますよね。

そうですね。言葉が強い人がいると、話を聞く上司の方もまあまあとなだめてしまうことも多いと思っていて、それだと何も言わずに自分のやることをしっかりやっている人たちにしわ寄せがいってしまうこともあると思うんです。この人たちの方が、求められたことを遂行しているのに。

だから、やはりもっと高みに上るきっかけになるような転職という機会が増えたら良いなと思うんですよね。

しっかりパフォーマンスを出して、会社を通して世の中に貢献してお金を稼ぐ。その先にやりたいことがあるなら、そのために稼ぐ。

私も、20代の頃からずっと将来的にやりたい事を持っているんですけど、そのために今は稼ぎたいと思っていますね。お金を稼ぐというのは自分の目標を叶えるための手段ですが、私はその行動で周りの人もハッピーにしたいと思っています。

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CFOとして心がけていること

-かなり猛烈に、本質を見て仕事をして来られたのですね。今回、ドゥカティのCFOになられて特に心がけていることはありますか?

ポジション的には、パトロールするみたいな部署であると思うんです。管理部門って。なので、どちらかというと嫌われ役みたいな部署になるとは思うんですね。

それも分かりつつ心がけているのは、各部署とあまり仲良くなり過ぎないというスタンスをキープしているということですね。

なぜかというと、管理部門って経済活動の結果を数字で表す部署じゃないですか。そこにおいて、今本当にコンプライアンスや内部統制のルールをどんどん徹底していかないといけないところであって。

特に私はコンプライアンスオフィサーという役職でもありますので、営業部など、お金を生む部署と親密になってしまうと、自分の第三者としての見方が曇ってしまうなと思うんです。

-徹底されているのですね。

はい。とは言え会社のメンバーに愛がないということでは全くないですよ。

人によっては2時間以上の通勤時間をかけて会社にやって来て、8時間費やして仕事をしていると、人生の半分以上を仕事に使っているわけじゃないですか。

労務管理や内部統制はしっかりしていかなきゃいけないのだけども、その中には「愛」をもって接するということが必要なのかなと思うんですよね。もしかしたら、ここは母性がいくらか役に立っているかもしれないですね。もう独立していますが娘が1人いますから。そう考えると、もっと女性のCFOがいても良いと思いますよね。

CFOは女房役に例えられることが多いから、ソフト面では女性の細やかさや対人関係の距離の取り方はマッチするかもしれません。ただ、そこには女性とか関係なくコミットはしなきゃいけないですよ。

例えば子供を産むとか子育てする場合、会社にサポートを求めるのではなく、まず家族のサポートを先に確立して働ける環境にするとか。子育てって会社は関係なく、個人やその家族間のことですからね。女性は、その選択肢を選べば物理的には子供が産めますよね。

一方、男性は子供を産めないし、多くは仕事をする中での経験が生きた証になると思うんです。そこに子供を産めるし家のこともしている女性が一緒に働くわけですから、そこは徹底して、仕事が出来る体制に自分の環境を整えた方がいいですよ。

もちろん、しんどいんです。体力的にも精神的にも。でも、大事なのは最初から甘えようとしないこと。頑張っていれば、みんな助けてくれます。それは男女とも同じですね。

私の考えが、受け取る人によっては受け入れられないこともあるかもしれないのですが、仕事をするからにはその責任を果たさないとならないのは、どんな人も同じだと思うんですよね。「働く」ということを、もう一度よく考えないといけないんじゃないかなと。

特に女性で本当にキャリアを積みたいのだったらよーく考えられた方がいいです。どうすれば100%コミット出来るかを。コミットメントは絶対必要だと思いますからね。

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目指すのは、「稼ぐCFO」

-コミットした結果、今のCFOという職位があるのですね。目標とするCFO像みたいなものはありますか?

一言でいうと、「稼ぐCFO」ですね。

CFOって、所属はバックオフィスですし、どちらかというとコストコントロールとかそっちのイメージが強いと思うのですよね。適切なところに投資して、しっかりリターンが取れるようにそれを事前に察知するのが我々の仕事だと。

そのためにも、私は徹底した現場主義で、財務報告上の数字と現場の動向の関連性を紐解くため、ディーラーさんの所に直接行ったり電話をしたりして話を聞くようにし、必要に応じて、ディーラーさんに対し財務観点からのアドバイスをするということも行っています。

彼らのパフォーマンスがより良くならないとバイクも売れませんし、売上が上がらないと新しい投資もできなくなるので、コロナ問題が終焉すれば、事業ターンアラウンドの経験を活かし、今後はそういうところに特化出来ればと思っていますね。

-かなり強みのあるCFOですね。

積極的に、とにかく常に進化し続ける人間でありたいと思っているんです。自分の強みが、他の誰かや会社の役に立つってとても素敵なことじゃないですか。ですから、私は私の持っている強みで稼ぐCFOを目指すというのが今のキャッチフレーズです。

稼ぐCFOになるにあたって、営業の経験があって良かったとも思いましたね。「CFOはいちばんの営業マン」だと言った方がいたのですが本当にそうだなと。資金調達だとか融資とか、採用もすべて自分の会社の将来性や魅力を、話す相手ごとに見せ方を変えてプレゼンするという営業ですよね。CFOは扱う金額や関わる人も多いから、営業力はかなり求められると思いますよ。

ここは、最初の会社で営業職をやっていたからこそ、今のCFOでもそれが必要だと気付けたのかもしれません。先ほども言いましたが、本当に無駄な経験って一つもないですね。

あとは、スピードと情報力も必要かなと思います。どれだけその分野の情報を得て理解するかが大事だと思うんですよね。だからできる限り情報を得て、必要のないものはすぐに頭の中から消します。それで速いスピードで情報処理していけば部下のメンバーの仕事を止めなくて済みますね。情報がたっぷりあって理解していれば、私の判断も迷う必要がなくて時間もかかりませんから。

-Manegyの読者の中には、CFOを目指す管理部門の方も多くいらっしゃいます。その方々へアドバイスをお願い出来ますか?

CFOや管理部門のトップを目指すにあたって、自分がどのようなトップになりたいかということを確認する必要があると思います。

今まで上場・非上場、大企業・中小企業と色々なところを渡り歩いて来て思うのですけど、その会社の事業フェーズや業務内容によって、管理部門がすべきことってかなり違ってくるじゃないですか。役割の構成も変わって来ますし。会社によっては、管理部門の中にロジが入っていたり人事が入っていたり、色々あると思うんですね。それを踏まえて、自分がどういう会社の、どういうフェーズにおいてのCFOになりたいと思っているのかを自分で確認する作業が必要だと思います。

とはいえ、20代や30代前半の若い頃は色々なことにチャレンジしてそこを考えるにあたっての経験を積む期間だと思いますが、30代後半から40代でCFOを目指すようになったら、CFOという肩書だけに惑わされないように、自分の立ち位置を明確に捉えてバリューを出しつつチャレンジ出来る環境を選択出来るようにしていけたら良いのではないかと思います。

可能な限り自分の出来ることを増やすことですね。それが必ず、自分の財産、武器になりますから。

-CFOインタビュー初の女性CFOへのインタビューとなった今回。どうしても女性として働くことへの質問にフォーカスしてしまいましたが、返って来たお答えは男女関係のない、本気の仕事人の答えでした。佐藤さんありがとうございました。

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【プロフィール】
佐藤 由美子
ドゥカティジャパン株式会社 CFO

欧米・アジア数カ国において海外生活・仕事を経験。パートナーと事業再生コンサル会社を起業後、異種業界での複数の外資系企業にて主に管理部長、アジアCFO、HR、コンプライアンス、マーケティング、オペレーション等の業務に従事し、2018年より現職に就く。 個人情報保護士、パワーハラスメントマネージャー、QMS内部監査員。一般社団法人日本CFO協会個人会員。