貴金属投資といえば「金」が有名ですが、最近では金以外の投資先として注目を集めているのがパラジウムです。このパラジウム、実際にはどんな用途があり、市場での価格決定にはどのような要因があるのでしょうか。おなじみの金と比較しながら、パラジウム投資の特徴やその特殊性を説明します。パラジウム投資の是非を判断するためのポイントについても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
パラジウムとは何か
金との比較で考えるパラジウム投資の特徴
パラジウムの値動きとその理由
まとめ:金とは特徴が大きく異なるパラジウム。一般にはむずかしい投資かも
パラジウムとは何か
従来の貴金属投資といえば、金、プラチナ、銀が主流でした。ですが、2015年に起こったフォルクスワーゲンの排ガス浄化試験不正事件をきっかけに、パラジウムが注目を集めています。このパラジウムとは一体何でしょうか?パラジウムの性質と用途およびパラジウム投資の特徴を説明したいと思います。
化学的分類ではプラチナ族の元素のひとつ。レアメタルであるパラジウム
元素周期表でみると、パラジウムは原子番号46、元素記号はPd、プラチナ族の元素のひとつで、貴金属に分類されます。パラジウムは貴金属の中でも希少性が高く、レアメタル(希少金属)といわれています。
パラジウムの需要は95%が工業用途。自動車触媒で使われる
パラジウムの用途の95%は工業用需要が占めています。それ以外に、宝飾品の需要が5%弱を占めています。工業用需要の内訳は次の通りです。
▽パラジウムの用途
用途 | 需要量(t) | 比率 | |
---|---|---|---|
宝飾品 | 10.8 | 4% | |
工業用 | 自動車触媒 | 214.2 | 73% |
歯科 | 13.9 | 5% | |
化学 | 12.5 | 4% | |
エレクトロニクス | 37.6 | 13% | |
その他 | 3.6 | 1% | |
計 | 281.8 | 96% | |
小口投資 | 1.4 | 0% | |
現物需要 | 294.0 | 100% |
(TOCM2015年データをもとに著者作成)
これを見てわかるように、パラジウムの主な用途は自動車用触媒です。
パラジウムは、自動車の排気ガス中の有害物質を取り除くための触媒として使われています。自動車から排出される有害物質には、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)があります。パラジウムは、有害物質を取り除くための触媒に使うことで、窒素酸化物を窒素(N2)と水(H2O)に炭化水素を水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に、一酸化炭素を二酸化炭素(CO2)に変換できます。
プラチナも同様の触媒効果を持ちますが、その希少性と価格の高さからパラジウムへの移行が進んでいます。
パラジウムの供給国は、南アとロシアがおおよそを占める
パラジウムの生産国は極めて限定されており、次の通りとなっています。
▽パラジウムの主な供給国
順位 | 国名 | 産出量(t) | 比率 |
---|---|---|---|
1 | 南アフリカ共和国 | 82.5 | 40% |
2 | ロシア | 80.1 | 38% |
3 | 北米 | 30.4 | 15% |
4 | その他 | 15.8 | 7% |
計 |
(2015年度TOCOMデータをもとに筆者作成)
南アフリカは多くの鉱山において安全性の問題、労働者や電力供給不足、技術的な問題を抱えており、生産量が安定していません。
一方ロシアにおいては、パラジウムはニッケル・銅の副産物として生産されているのです。パラジウム自体の需要というよりは、ニッケルや銅の需要に応じてパラジウムの生産量が決まる傾向が強くなっています。
そのため、パラジウムは供給が不安定であり、南アフリカとロシアの生産量の増減により、価格の上下が激しくなります。また、どちらかの国が供給量を絞り、価格を意図的に上昇させることも可能になります。金と比べて、供給が不安定であることは、パラジウム投資を考えるうえで忘れてはならないことでしょう。
金との比較で考えるパラジウム投資の特徴
これまでパラジウムそのものについて説明していきましたが、ここからは投資としてのパラジウムの特徴を、金と比較しながら説明していきます。
金とパラジウムの違い1:市場規模と流動性
パラジウムは、金と比べて市場規模は大きくありません。東京証券取引所に上場しているETFの1日当たり売買代金で比べると、金が100億円を超えているのに対し、パラジウムは5000万円程度です。投資手段も商品先物とETFに限定されており、安定した価格でいつでも売買可能とは限りません。むしろ、需要・供給の変動に伴い、価格が大きく上下します。
金とパラジウムの違い2:需要
金の需要は宝飾品、中央銀行の需要、工業用、小口投資用とバランスが取れています。それに対しパラジウムは、自動車排ガス触媒などの工業用途の割合が大きく、自動車市場の動向や排ガス中の有毒物質の除去技術の変化により変動します。
金とパラジウムの違い3:供給
金は産出国、産出量が、世界各国に分散しています。しかし、パラジウムの場合は、産出国が南アフリカとロシアが多くの割合を占めています。また、両国の生産体制も十分整備されておらず、戦略的な供給量調整がなされる可能性もあり、供給も不安定です。
金とパラジウムの違い4:投資手段
金は投資手段が豊富で、投資のプロから初心者まで、そのニーズに応じて選択可能であるのに対し、パラジウムの場合は投資手段が限定されています。
▽金とパラジウムの比較まとめ
金 | パラジウム | |
---|---|---|
市場規模 | 大きい | それほど大きくない |
流動性 | 日々の売買量も大きく適正な価格で売買ができる。 | 十分な流動性があるといえず、需要・供給の変動に伴い、価格が大きく変動する |
需要 | 宝飾品50%、各国中央銀行等公的部門の需要 10%強、工業用需要10%、小口投資30%と需要のバランスが取れている | 工業用需要が95%で、自動車用触媒の需要が75%を占めるので、自動車用触媒の需要の動向により需要が大きく変動する |
供給 | 中国、オーストリア、ロシア、アメリカ等主要10か国で65%、生産国、生産量とも世界に分散しており偏りがない | 南アフリカ、ロシアの二か国で生産量の80%弱を占める。生産体制も十分に整備されておらず、生産国の動向、戦略的在庫調整等により供給量が大きく変動する |
投資手段 | 金地金、コイン、ETF、投資信託、純金積立、商品先物等、様々な投資手段の中から選択可能 | ETF、商品先物等、投資手段が限定される |
投資の対象としてのコンセンサス | 資産運用の対象として市場からも個人投資家からも認知されている | 資産運用の対象として一般に認知されていない |
パラジウムの値動きとその理由
パラジウムが投資手段として注目されだしたきっかけは、2016年には1トロイオンス当たり600ドル程度であった価格が2017年末には1000ドルを超えたことからはじまりました。そして、2018年8月に800ドル台に下落してから2020年2月に2800ドル弱の価格をつけるまで、ほぼ一直線に3倍以上に高騰しています。この急騰は、金価格の上昇をしのぐものです。
この急騰のきっかけは2015年に起こったフォルクスワーゲン社の排ガス浄化試験不正事件でディーゼル車がリコールの対象になったことです。これにより、世界的にディーゼル車の需要が低下し、ガソリン車の需要が高まりました。パラジウムが持っていたもともとの供給不足感に加え、ディーゼル車の自動車触媒にはプラチナ、ガソリン車に自動車触媒にはパラジウムが使われるというすみわけになっていたことから、パラジウムへの需要が急激に高まったと見られています。
一方、パラジウムの急激な価格上昇をうけて、自動車メーカーはガソリン車にもプラチナ触媒を使うべく、触媒の切り替えを真剣に検討しだしたようです。それは、今後のパラジウムの価格上昇抑制要因になるといわれています。
まとめ:金とは特徴が大きく異なるパラジウム。一般にはむずかしい投資かも
投資対象としてパラジウムをどう評価すべきでしょうか?
次の理由から、一般の人にとってはパラジウム投資は難易度が高いように思われます。
理由①市場規模が金と比べ小さく、需要・供給とも特定の製品や国に偏っており、価格の動向を予測するのが困難である
需要のほとんどは自動車用触媒であり、その価格は自動車市場の動向と自動車用触媒の技術開発の状況に左右されるため、一般人には予測が困難です。
供給国は南アフリカ、ロシアに2か国であり、供給体制が不安定であること、および、市場への放出量調整による戦力的価格のコントロールが行われる可能性があります。
理由②資産運用の投資市場が十分に発達しておらず、投資手段が、商品先物とETFに限定されている
商品先物は先ほど説明したように一般人が行うには難しく、投資手段は実質的にETFのみとなっています。
ただ、パラジウムの大きな値動きは魅力的だと思われる方もいらっしゃると、思います。
そういう方で、余裕資金がある方はETFの買付をやってみてはいかがでしょうか?
ETFであれば、年0.6%程度の信託報酬手数料で、現時点の価格ベースであれば、7万円程度から投資が可能です。
値動きは今後も激しいと思いますが、下がった時に買い、値上がりしたときに売るという投資方法は可能だと思います
いずれにしても、パラジウムは、同じ貴金属でも金とは異なった特徴を持っています。貴金属投資において金が伝統的な投資商品とするなら、パラジウムは新しい投資商品です。パラジウムが今後どのように成長していくかについては、要注目の投資といえるでしょう。(提供:JPRIME)
著者 浦上登
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