駐車場やアパートなどといった収益不動産からの安定した賃料収入は魅力的です。しかし、個人で行っていると所得税の税率が高くなりやすく、また相続時には多額の相続税負担が生じる可能性があります。そこで資産管理会社を利用し、収入の分散や相続税対策を行うのですが、不動産の所有・管理方式によっては効果の弱い場合もあることをご存じでしょうか。

今回は不動産オーナーが利用すべき資産管理会社の各管理方式の特徴と、設立の目安やメリット・デメリット、注意点などについて解説していきます。

目次
不動産オーナーが資産管理会社を設立する目安は?
資産管理会社の有無による税負担額の変化をシミュレーション
資産管理会社を設立するメリットや設立する法人の種類と注意点について
不動産における4つの管理方式とそれぞれのメリット・デメリット
まとめ:税務上メリットが大きいのは建物所有方式と土地・建物所有方式

不動産オーナーが資産管理会社を設立する目安は?

資産管理会社
(画像=jacob-lund/stock.adobe.com)

不動産オーナーが資産管理会社を設立する目安は、一般的に年間の賃料収入500万円以上と言われています。

今回は、資産管理会社の効果を算定する目安として、給与収入1,000万円、不動産所得500万円の人が個人で所得税・住民税を負担する場合と、配偶者を代表とする資産管理会社に不動産所得500万円を移行した場合の所得税と住民税の税負担についてシミュレーションを行いました。

資産管理会社の有無による税負担額の変化をシミュレーション

シミュレーションの条件は以下となります。

▽条件
・配偶者への報酬は年間100万円とし、その金額のみを経費として不動産所得から差し引く
・所得税等の税率や所得控除の額は2020年現在のものを用い、法人税実効税率は29.74%を使用
・個人住民税の均等割は除外し、所得控除は基礎控除と給与収入に対し15%の社会保険料控除のみとする

個人所得税等の税負担額の計算

▽所得税課税所得:1,107万円
給与収入1,000万円-給与所得控除195万円+不動産所得500万円-基礎控除48万円-社会保険料控除150万円=1,107万円

▽所得税額:約216万円
(所得税課税所得1,107万円×個人所得税率33%-控除額153万6,000円)×復興特別所得税2.1%=約216万円

▽住民税課税所得:1,122万円
給与収入1,000万円-給与所得控除195万円+不動産所得500万円-基礎控除33万円-社会保険料控除150万円=1,122万円

▽住民税所得割の額:約113万円
住民税課税所得1,122万円×10%=約113万円

▽個人所得税等の税負担合計額:約329万円
所得税216万円+住民税113万円=329万円

配偶者を代表とする資産管理会社に不動産所得を移転した際の税負担額の計算

▽所得税課税所得:607万円
給与収入1,000万円-給与所得控除195万円―基礎控除48万円-社会保険料控除150万円=607万円

▽所得税負担額:約80万円
(所得税課税所得607万円×個人所得税率20%-控除額42万7,500円)×復興特別所得税2.1%=約80万円

▽住民税課税所得:622万円
給与収入1,000万円-給与所得控除195万円-基礎控除33万円-社会保険料控除150万円=622万円

▽住民税所得割の額:約62万円
622万円×10%=約62万円

▽資産管理会社の利益:400万円
不動産所得500万円-配偶者への役員報酬100万円=400万円

▽法人税等負担額:約119万円
利益400万円×法人税実効税率29.74%=約119万円

▽個人所得税、法人税等の税負担合計:約261万円
所得税80万円+住民税62万円+法人税等119万円=261万円

シミュレーションの条件で比較すると、資産管理会社の設立により、およそ68万円の節税効果が得られました。目安としては所得金額が900万円超であれば、法人税実効税率を上回る可能性が高いため、設立するメリットが期待できます。

しかし、資産管理会社の税効果は、ほかの所得の額や設立する場所などによって大きく左右されます。さらに、確定申告には税理士の関与が必要となるなど新たな費用も発生します。そのため、資産管理会社を実際に設立する前に、個別に費用対効果の算定を行うことをおすすめします。

資産管理会社を設立するメリットや設立する法人の種類と注意点について

資産管理会社の設立は、所得税の節税効果と相続税の圧縮や、相続財産を分割が難しい不動産から分割が可能な資産管理会社の株式に変更できるため、相続の円滑化を期待することができます。その上、その仕組みを1度構築してしまえば、永続的に効果が期待できるといったメリットがあります。

また公務員の場合はさらなるメリットがあります。公務員の人は、人事院規則により事業的規模の不動産経営を無許可で行うことが禁じられていて、判明した場合は事業的規模以下まで縮小させることを求められます。過去の事例として、それに応じなかったために懲戒免職処分に至ったこともあります。

しかし、資産管理会社に収益用不動産の所有権を移転させることができれば、収益体制を維持することができます。ただし、この場合は、資産管理会社の経営に参画しないことも同時に求められます。また配偶者を代表とした場合でも、実質的経営者が公務員本人であった場合は、処分の対象となってしまう可能性があり、注意が必要です。

設立する法人の種類と注意点

設立する資産管理会社の法人の種類には主に株式会社と合同会社があります。

株式会社の株式は、相続時には相続財産として取り扱われます。ですが、合同会社を所有する代表社員としての立場は当然には承継されず、別途定款に持分の相続を認めるように定める必要があります。また、合同会社で社員が1名であった場合は死亡と同時に法人格が失われてしまうため、相続することができない仕組みとなってます。

このような理由から、不動産資産の管理を目的に設立する資産管理会社は、相続の問題を考えると、株式会社を選択するほうがよいでしょう。

不動産における4つの管理方式とそれぞれのメリット・デメリット

収益用不動産の管理を目的として資産管理会社を設立する場合、管理受託方式、サブリース方式、建物所有方式、土地・建物所有方式の4つの形態を選択することとなります。各方式の特徴・メリット・デメリットについて解説していきます。

管理委託方式の概要とメリット・デメリット

不動産の管理委託方式を選択する場合は、所有している収益用不動産所有権などの移転は行われず、物件の清掃や修繕、退去の立ち合い、賃借人の募集やクレーム対応、賃料の集金や記帳といった、日々の建物・入居者の管理業務を不動産オーナーから委託される資産管理会社を設立します。

業務範囲が明確なため取り組みやすく、不動産オーナー自身で行っていた管理業務に対価が生じるようになります。また、設立した資産管理会社に対して支払った物件管理料を不動産オーナーは経費として計上できるようになるため、所得税を軽減するといったメリットがあります。

しかし、物件管理料は賃料の5~10%程度が限度となります。そのため、賃料収入の大部分が不動産オーナーの収入となってしまい、ほかの方式に比べると収入の分散効果が弱くなってしまうだけでなく、相続対策としてもあまり有効ではないといったデメリットもあります。

サブリース方式の概要とメリット・デメリット

サブリース方式は、管理委託方式と同様に物件の所有権の移転は行われず、建物・入居者の管理も行います。ただし、サブリース方式と管理委託方式では、賃貸契約の方法に違いがあります。

サブリース方式は、管理委託方式などで採られている賃貸借契約に加えて、転貸借契約(サブリース契約)を利用します。この場合、不動産オーナーは入居者と直接契約を結ばず、資産管理会社と転貸借契約を結んでから、資産管理会社が入居者と賃貸借契約を結ぶという2段階の契約形態を採ります。

この契約形態の違いは大きな意味をもっています。まずサブリース契約料は賃料の20%程度が相場となっており、物件管理のみの場合よりも大きな割合で所得を分散させることができます。

また、相続に際してはサブリース方式では資産管理会社を契約の相手方とできるため、入居率を最大化させることができます。入居率が高く借地権割合が高まるほど相続税評価額が圧縮されるため、相続に関しては有利となります。

サブリース方式は、管理委託方式よりも収入の分散効果が高く、相続税の軽減効果も期待できるといったメリットがあります。

しかしその反面、賃貸借契約などの締結に際して宅建士が必要となります。そうなると、業務の専門性が増し、また資産管理会社は入居者が居ない場合でも不動産オーナーに賃料を支払う必要が出てきます。このように、資金繰りにより注意を要するといったデメリットもあります。

建物所有方式の概要とメリット・デメリット

建物所有方式は、不動産オーナーが所有する収益用不動産の建物部分を資産管理会社が所有する方式です。賃料収入は全額資産管理会社のものとなります。そのため、不動産オーナーは土地の使用に関する地代のみを資産管理会社から受け取ることとなります。そして資産管理会社に移転した賃料収入は、資産管理会社からの配当金として受け取ることになります。

建物所有方式のメリットは、収入の分散効果がかなり高く、また不動産所得を資産管理会社の株式にまつわる配当所得として受け取ることができるようになります。そのため、申告分離課税ないしは配当控除によりさらに税額を圧縮することも期待でき、また相続の対象となるのは借地のみとなるため、相続税を圧縮する効果も高くなります。

その反面、建物の取得・建設に比較的多額の資金が必要となるデメリットがあります。またこのほかにも地代を相場よりも安くすると贈与と見なされる恐れがあります。こういったことがないように事前に「土地の無償返還に関する届出」を提出しておくなどの注意が必要です。

土地・建物所有方式の概要とメリット・デメリット

土地・建物所有方式は、建物所有方式と仕組みは似ています。しかし、土地・建物すべてを資産管理会社に移転してしまう方式で地代や相続税が発生しません。また、収益は資産管理会社からの配当金といった形で受け取ることになるため、4つの管理方式のなかでも税務上のメリットを最大化することができます。

デメリットとしては土地の購入までを行うため、より多くの資金が必要となります。また、相場よりも安い金額で土地を資産管理会社に売却してしまうと、贈与とみなされ、税務署から指摘を受ける可能性もあります。

そのほかにも、自己資金ですべてを賄おうとすると資本金が膨らみ、大企業の高い法人税率が課される可能性もあります。銀行からの融資の活用はもとより、設立に際して税理士をはじめとした各種コンサルタントを関与させる必要があり、設立のハードルも高くなってしまうなど、建物移転方式以上のデメリットもあります。

まとめ:税務上メリットが大きいのは建物所有方式と土地・建物所有方式

今回紹介した資産管理会社の4つの種類は、事業形態に応じてさまざまな特徴を有しています。その中でも、建物所有方式と土地・建物所有方式は収入の分散による所得税の圧縮効果が高くなります。また相続に際しても、非上場株式として純資産評価額方式等で評価されるため、収益不動産そのものよりも相続税額が軽減される可能性が高くなります。

このように、建物所有方式と土地・建物所有方式は税務・相続上優れたメリットがあります。ただし、物件購入のための資金を比較的多く用意する必要があり、資本金を1億円以上としてしまうと大企業に区分されてしまいため、法人税実効税率が高まります。こうなると、2つの管理方式のメリットを損なってしまう恐れがあるため、金融機関からの融資を利用するなどの対策が必要となります。

建物所有方式と土地・建物所有方式の利用には専門性を必要としますが、ほかの方式よりも税務・相続上のメリットも大きいです。そして、いったん仕組みを作ってしまえば、後継者たちは永続的に資産管理会社の恩恵に預かることができます。

資産管理会社を設立するメリットのある人は、将来を見据えて、未来に残る仕組み作りを目指してみてはいかがでしょうか。(提供:JPRIME

著者 菊原浩司


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