第一回:トランプが再選する3つのワケ
アメリカ大統領選挙がいよいよ佳境をむかえている。9月29日(現地時間)には第一回となる公開討論会が開催され、トランプ路線が継続するのか、バイデン新大統領が誕生するのか世界が注目している。
イギリス紙のEconomistではトランプ大統領再選の可能性13%、バイデン勝利の可能性86%とも報じられ、大手のマスメディアでは依然バイデン優位という報道が多いが、筆者が取材を行ってきた中で聞こえてきたのはメディアでは取り上げられない保守派の声だ。トランプ政権の誕生と政権運営を支えてきたのはこうした保守派である。
日本では保守派というとキリスト教原理主義者や銃信奉者など誤解をもって受け止められることの多い人々だが、これには日本のメディアの影響が大きい。保守派と対極に位置し、常に競い合っているリベラル派がマスメディアの中核を占めるためだ。CNNやThe New York Timesなどの米国大手メディアはほとんどがリベラル寄りの報道を行う。日本のメディアはこうした米国メディアの追随ばかりだから、自然とアメリカの情報=リベラル寄りの情報が主流となる。
しかし、現在のトランプ政権や大統領選挙の行方を考える上で、保守派の動向を捉えなければ理解することはできない。
本稿では、日本では表に出てくる機会の少ない保守派の声や動きを紹介し、本年の大統領選挙の行方を占ってみたいと思う。加えて、日本ではなかなか伝えられないトランプ政権の成果についても項を割いてみたい。また読者諸兄の最大の関心事であるトランプ、バイデン双方が当選した際、暗号資産やブロックチェーンなどのテクノロジー分野でどのような変化が起こるかについても考察することとしたい。
露出を恐れるバイデン
これまでバイデン陣営は新型コロナウイルスの影響を理由にバイデン自身を表舞台から遠ざけてきた。トランプ陣営の選挙参謀ジム・マクローリン氏によればバイデン陣営は公開討論会が開催されないよう各方面での働きかけも行っていたという。
ここまでしてバイデン陣営がバイデンの露出を恐れるのには理由がある。
バイデンは演説会で自身の選挙を上院議員選挙と勘違いしていたり、テレビ番組出演中に居眠りをしたりと奇妙な行動が度々目撃されており、77歳という高齢もあって認知症ではないかという疑惑が存在するのだ。ワシントンDCの保守系シンクタンクDemocracy Instituteとイギリス紙Sunday Expressの合同調査でアメリカ国民の58%がバイデンは認知症だと考えているというデータも存在する。公開討論会が開催されれば、こうした疑惑の真偽が明らかとなり最終盤で選挙の流れが大きく変わる可能性がある。
アメリカ大統領選挙では帰趨を決する激戦区を接戦州と言い、選挙結果を占う上で接戦州の支持率や動向は最も重要な指標のひとつだ。ところがここにきてフロリダ、ペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシンといった接戦州で当初リードしていたバイデンの優位が揺るぎ始めているのだ。
ヒラリー・クリントンが圧勝すると言われた2016年の大統領選挙ではウィスコンシン州などでヒラリーは11.5ポイントのリードと報じられていた。結果は接戦の末、ウィスコンシン州ではトランプ大統領に敗北を期するのだが、現在の同州におけるバイデンのリードは6.5ポイントしかない。勝利確実と言われた前回の選挙で11.5ポイントリードしていたヒラリーが敗北していることを考えると、接戦州でのバイデンのリードは砂上の楼閣と言えるのかもしれない。
注目したい「隠れトランプ」の存在
2016年の大統領選挙では前述の通り世論調査はほぼ一貫してヒラリーの勝利を予測していた。ところが結果はトランプが勝利し、世論調査自体の信頼性が問われる結果となった。
2017年5月には全米世論調査協会(American Association for Public Opinion Research)が公式の報告書を発表し、「隠れトランプ」の存在は証拠がないとして否定することとなった。ではトランプ大統領の誕生を可能にしたものはなんだったのか。それは、選挙戦最終盤で投票行動を決定する有権者が思いのほか多いことである。多くのメディアではアメリカは共和党・民主党という2大政党制が進み、それぞれが支持を争って陣営が2極化しているという印象を与える報道が多い。
しかし、全米世論調査協会の発表した同報告書によれば、選挙戦最終盤に投票行動を決定した人々が多かったこと、それも接戦州ではその割合が高く前述のウィスコンシン州などでは有権者の14%が選挙戦最終盤に投票先を決定したというデータが存在する。つまり、どちらにも与しない中間層が思いのほか多いというのがアメリカの現実なのだ。
これから始まる公開討論会は9月29日から10月22日まで3回に渡って行われる。トランプ大統領はかつて全米で注目されたテレビ番組で司会者を務めるなど、驚異的なトーク力が持ち味だ。
筆者もトランプ大統領の演説会場で演説を聞いたことがあるが、コント仕立てのトークは爆笑の連続だ。顔芸やブラックなジョークは聴衆を引き付けてやまない。公開討論会ではこうしたトランプ大統領のトーク力がバイデンを圧倒するだろう。公開討論会で最終的な投票態度を決める人々がトランプ路線を支持することとなれば、選挙結果は2016年の再来となるだろう。
ほぼ全てのメディアがヒラリーの勝利を予見していた2016年。トランプがリードしていると報じた世論調査会社にトラファルガー・グループがある。今回もトラファルガー・グループはトランプのリードと報じており既視感すらある。
とは言え選挙は水物である。一夜明けると情勢がガラッと変わってしまうということは選挙に携わったことのある人間なら誰しも経験があるだろう。新型コロナウイルスが猛威をふるっているアメリカではこれまでに経験したことのない選挙になるのは事実だ。
経済再建をどのように行うのか、中国との貿易戦争はどのように決着させるのかアメリカの大統領が担う責任は一国にとどまらない。
次回は大手のメディアがあまり取り上げないトランプ大統領の功績に光を当て、アメリカ社会の行方を考察してみたいと思う。(提供:月刊暗号資産)
【Profile】文◉佐藤 正幸(さとう まさゆき) 1987年3月31日生まれ。早稲田大学国際戦略研究所招聘研究員(アメリカ学会/日本アフリカ学会)早稲田大学商学部卒業後、国際石油開発帝石株式会社に入社。原油営業、カナダ駐在を経て独立。2016年にケニアで開催された第六回アフリカ開発会議外務省公式サイドイベントで事務局長を務める。2018年からアメリカ共和党最大の政治集会CPAC日本開催運営委員会のメンバーとして、アメリカ保守派を多数取材。翻訳協力に「Trump’s Americaその偉大なる復活の真相」(産経広告社)など多数。