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米大統領選挙の争点の1つとみられていた巨大IT(情報技術)企業に対する規制の議論が、新型コロナウイルス流行で影を潜めている。とはいえ、プライバシーの保護やフェイクニュースなど、国民のIT企業に対する不信感は根強く、コロナの陰に隠れてはいるものの、水面下では着々と議論が進展しているようだ。

ピュー・リサーチ・センターによると、IT企業が米国の将来にマイナスの影響を与えるとの回答率は2010年から2015年にかけておおむね17~18%で推移していたが、2019年には33%に上昇しており、IT企業に対するイメージが急速に悪化していることをうかがわせている。

こうした国民感情に後押しされて、米議会も党派を超えて巨大IT企業への圧力を強めている。共和党はIT企業やその従業員が政治的に左傾化しており、人工知能(AI)を使って保守的なコンテンツを冷遇していると考えている。また民主党はIT大手があまりにも巨大で権力が強く、労働組合を持たない資本家の典型とみなしている。

米大統領選でどちらかが勝利しても、巨大IT企業がさらに厳しい精査を受けるのは間違いなさそうで、関係者からは「どちらが選挙で勝つにせよ、無干渉主義は終わりだ」との声も聞かれている。選挙後はデジタル市場の競争加速に向けた法的措置や消費者のプライバシー保護が推進されることになりそうだ。

相次ぐ巨大IT企業CEOの召喚、コロナの陰で規制に向けた調査継続

コロナ以前のウォール街では、巨大IT企業に対する規制強化の機運の高まりを受けて、この問題は11月の米大統領選挙での焦点の1つになるとみられていた。Withコロナですっかり影に隠れてしまったが、巨大IT企業に対する風当たりが弱まったわけではない。

最近では、7月29日に米下院議会の司法委員会が反トラスト法(独占禁止法)調査を巡る公聴会を開き、IT大手4社の最高経営責任者(CEO)が証言した。また、上院の商業科学運輸委員会では10月28日にネット企業の免責を巡ってSNS大手3社のCEOの証言が予定さている。ネット企業の免責を巡る動きは今年になって浮上した比較的新しい論点で、大統領選挙後にあらためて注目を高める可能性がありそうだ。

7月の公聴会ではアマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルのIT大手4社の支配的地位が「米経済の原動力となるダイナミズム全体を破壊している」可能性があることを問題視。当局者は巨大IT企業が市場独占力を利用してデジタル市場における優位性を守り、一段とシェアを拡大しているのかを注視した。

たとえば、フェイスブックは競争上の脅威となる新興企業を買収するパターンを通じ、「競争相手の無力化」をしてきたと考えられている。同社が過去15年間に買収した約90社のうち、ライバル的存在だったのは2012年に買収した写真共有アプリ「インスタグラム」と2014年に買収したメッセージアプリ「ワッツアップ」の2社だ。

公聴会でザッカーバーグ氏は、インスタグラムを巡り当時のCEOが身売りするか会社をつぶされるかの脅しを受けたと認識していることを繰り返し質問された。質問に対し、ザッカーバーグ氏は同社の買収と投資がインスタグラムを成功に導いたのであり、買収時点でその成功は保証されていなかったと説明。また、フェイスブックは独占力を有しておらず、ツイッター、スナップチャット、アップル、ピンタレスト、マイクロソフト傘下のスカイプ、グーグル、アマゾンなど多数のライバルと競争していると強調している。

アマゾンは出店業者からのデータを悪用しているとの報道を巡って、大きな批判を受けている。アマゾンは独自の商品を取り扱うだけでなく、販売業者にとっても事業存続に欠かせないプラットフホームとなっているが、ハーバード大学の調査によると、アマゾンは独自のデータ分析で独立販売業者の売れ筋商品を割り出して自社でも同様の商品を取り扱い、自社ブランドの商品を優先的に表示していたという。

アマゾンは米小売売上高の90%を実店舗が稼いでおり、小売業界の独占には程遠いと主張している。

グーグルは2017年、自社商品・サービスを優先的に表示するよう検索結果を操作したとして欧州連合(EU)から27億ドル(現在のレートで約2850億円)の罰金を科された。また、携帯向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」搭載のスマートフォンのメーカーに対し、同社の検索アプリやインターネット閲覧ソフト「クローム」をあらかじめインストールするよう求めたとして、EUに罰金50億ドルを科されてもいる。

グーグルはサービスの多くが無料で提供されており、その実質的な対価が消費者の個人データということになると指摘。また、同社はユーザーに必要な情報を可能な限り迅速に提供することを目標にしており、そのためにグーグルのサイトやサービスに消費者を誘導する場合もあると説明している。

アップルもグーグルと同様に、同社のモバイルアプリがいつも競合他社のものより検索結果の上位に表示されること、iPhone(アイフォーン)のアプリを購入する専用プラットフォームを通じ、競合他社よりも有利に自社の製品・サービスを扱ってきたことが問題視されている。また、iPhoneユーザーが他でアプリを購入できないことを利用して、同社のアプリ販売サービス「アップストア」で不当に高い価格をつけているとも指摘されてもいる。

アップルはiPhoneの米国市場でのシェアは50%に届いておらず、どの分野にいても独占状態にはないと主張している。

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