ソフトバンクグループは9月14日、英半導体設計大手ARM(アーム)を米半導体大手のエヌビディアに最大400億ドルで売却すると発表した。エヌビディアは自社の普通株式を買収の対価の一部として活用し、エヌビディアの株式約6.7~8.1%を取得する見込みだ。2016年に買収してから4年余りという短い期間での株式売却となった。
今回の売却の他にも、Tモバイルとスプリントの合併に伴う株式放出や、ビジョンファンドにおける1兆円を超す巨額の損失計上など、ソフトバンクグループの投資事業は難航している。同グループを率いる孫正義氏は今、投資戦略の大きな転換点に立たされている。
ソフトバンクグループの巨額M&Aの事例
ソフトバンクグループは、これまで国内外の数々の企業に対する買収および出資を進めてきたが、中でも特に目立つのが海外テクノロジー企業への巨額な投資だ。
IT、通信分野への投資が目立つ
2000年に中国巨大インターネット企業「アリババ集団」に約20億円の出資を行ったのを皮きりに、2006年には英携帯電話事業ボーダフォン日本法人を1兆7,500億円で買収、2013年には米携帯電話業界当時3位のSprint Nextel(スプリント)を約1兆5,000億円で買収するなど、IT、通信分野への投資を加速した。
さらに、2017年には10兆円規模のファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立し、米ウーバー・テクノロジーズを含む海外有力スタートアップに対して投資を行ってきた。ソフトバンクグループの莫大な資金力を武器に、優れたビジネスモデルや革新的なテクノロジーを持つ企業に対する投資を実現させてきた格好だ。
ソフトバンクGのM&A戦略
ソフトバンクグループが数々のM&Aを実現し、コングロマリッド化してきた背景を、 3つのポイントにまとめてみよう。
同志的結合による戦略的シナジーグループの形成
孫正義氏の投資理念は「同志的結合」というキーワードで表される。長期にわたる株式保有を前提として経営者同士の信頼関係を構築し、シナジーを創出しながら共同体として成長を続けていくという概念だ。
買収した企業を親会社が管理する中央集権的な経営ではなく、戦略的なシナジーを持ったグループとして、自律的な経営組織が形成されている点が大きな強みだ。
孫正義氏の超越的な目利き力にリードされた早い意思決定
何よりも優れているのが、孫正義氏の先見性だ。IT企業が急成長を遂げようとしていた2000年、孫正義氏はいち早く中国に飛び、十数社もの黎明期のテクノロジースタートアップと面談を交わし投資の機会を探った。その中で、当時ジャック・マー氏の率いるアリババの将来性に目をつけ、20億円の出資を即決したという。
将来の成長企業にいち早く注目し、スピーディーに意思決定できる決断力は、誰にも真似できるわけではない。
M&Aによってポートフォリオを加速度的に増やし、シナジーを生み出す戦略的投資会社への変遷
1981年、当時ソフトウエア流通会社としてスタートした旧株式会社日本ソフトバンクは、その後インターネットサービス事業、通信事業、モバイル事業へと多角的に拡大した。その後、2017年にソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立し、AI、IoT、ロボティクス等のテクノロジー分野のスタートアップへの出資を加速させるなど、さらに事業領域を多角化していった。
いずれも、海外大手企業の買収や、有力スタートアップへの出資などを通じて、内部成長のみにこだわらないポートフォリオの拡大を実行してきた結果であり、こうした外部のリソースを取り込む「時間を買うM&A」を実行することで、成長スピードを圧倒的に高めることができたのである。
アーム売却で得る資金の使い道は
このようなM&Aの成功マニュアルを手にポートフォリオを急拡大させてきたソフトバンクグループだが、直近では多額の損失計上を余儀なくされているのが現状だ。新型コロナウイルスの影響も相まって、投資先企業の業績が低迷している。
英アームをはじめとしたポートフォリオの売却を急ぐソフトバンクに対し、一部では「現金化して財務基盤を固めることに急ぎすぎている」との声も囁かれている。
「同志的結合」を軸に長期的な保有で投資先との信頼関係を深めてきた孫正義氏の理念が揺らぎかねない中、今後はどのような投資戦略を築いていくのか。そして、今回の英アームの株式売却で得られた資金をどのように使うのか。
孫正義氏の次の一手に、注目が集まっている。(提供:THE OWNER)
文・森琢麻(M&Aコンサルタント)